受賞理由は「クロスカップリング反応」

 2010年のノーベル化学賞に、日本人2人の受賞が決まった。同じ日本人として、こんなに誇らしいことはない。受賞したのは、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、リチャード・ヘック・デラウェア大名誉教授(79)ら3人。授賞理由は有機合成の「クロスカップリング反応」であった。

 「クロスカップリング反応」は「カップリング反応 」の一つ。つまり、2つの化学物質を選択的に結合させる反応のこと。特に、化学物質は炭化水素で、それぞれの物質が比較的大きな構造(ユニット)を持っているときに用いられることが多い。結合する2つのユニットの構造が等しい場合はホモカップリング、異なる場合は「クロスカップリング」という。一般式としては以下のように表される。

 ホモカップリング : R-X + R-X → R-R
 クロスカップリング: R-X + R'-Y → R-R'     R・R'は炭化水素のこと


Cross couplings


 今回の受賞した鈴木章・北海道大名誉教授の発見したカップリングは鈴木・宮浦カップリング、根岸英一教授の発見したカップリングを、根岸カップリング、リチャード・ヘック教授の発見したカップリングを溝呂木・ヘック反応と呼ぶ。


 医薬品・工業製品に不可欠な反応
 身の回りの医薬品やプラスチックなどの工業製品の多くは、炭素原子が骨格となる有機化合物だ。しかし炭素原子同士は結合しにくい性質がある。それらを自在に結合させるため、多くの科学者が努力してきた。

 そのための方法として、さまざまなカップリング反応が開発された。その中でも、もっとも反応性に優れているのが、鈴木氏のカップリングであり、その基礎となる研究に、リチャード・ヘック氏や根岸氏の研究がある。

 今回、受賞したカップリング反応の中に名前のある、宮浦氏・溝呂木氏にも受賞のチャンスはあったと思う、また、この分野では多くの日本人が、他のカップリング反応に名前を残している。

 そのあたり、鈴木さんは「今日の栄誉は、共同研究の先生方や学生、北大、それにいろんな化学の分野の成果のたまものと考えています」と喜びの言葉で表した。

 「本日は図らずもこのような名誉ある賞をいただき、非常にうれしく思います」と切り出した鈴木さんは、多くの同僚や教え子らの協力に感謝をしつつ、特に米パデュー大学時代の恩師、H・Cブラウンさんの思い出を語った。

 鈴木さんは昭和38年から2年間、パデュー大学に留学し、そのときに「現在の研究のサジェスチョンをしてくださり、研究の態度など特に印象に残っている」と言う。

 鈴木さんによると、ブラウンさんは2005年に92歳で死去したが、90歳の誕生日のときに記念講演会に出席した鈴木さん夫妻をレストランに招待したブラウンさんは、食事の席で「君をノーベル賞候補にノミネートしたい」と打ち明けたという。


 日本では「人が資源」

 さらに、鈴木さんは最近の若者の理科系離れを憂い、「日本は資源も何もないところで、あるのは人しかない。知恵を出して自分で新しいものをつくる道を歩んでほしい。」と述べた。
 「今後はもう少し若い人が理科系に興味を持ってもらうことが大事。これからはそういう若い人たちのために少しでも役に立つような仕事をしたい」と、意欲を示した。
 中国との関係では「尖閣諸島」や「南沙諸島」の問題が話題になっているが、中国は日本よりはるかに資源に恵まれながら、領土拡大の野望を持っている。20年以上軍事費が増え続けており、米国に次いで2年連続で世界2位となったことからも明らかである。

 それに比べて、このちっぽけな島国は、世界に売れる資源は何もなく、あるのは人の知恵と努力で磨き上げた、科学技術力や経済力などである。日本を米国との日米安保条約による、核兵器の抑止力で守ることでだけではなく、科学技術や経済力などを抑止力にし、世界平和に寄与しなければならないのではないだろうか。日本を守り、繁栄発展させるためには、自分に何ができるのかを若い人には問い続けてほしいと思う。


 鈴木・宮浦カップリングとは何か?
 鈴木さんが発見した有機合成法は「鈴木・宮浦カップリング反応」として世界的に知られる。北海道大教授だった1979年に発見した。

 炭素同士をいかに効率よくつなげるかは、有機化学の大きなテーマだ。炭素をつなげる方法の一つとして、1970年代ごろから注目を集めていたのが「クロスカップリング反応」だ。

 クロスカップリング反応は、二つの有機化合物の骨格を好きな場所でつなぐことができる。つなぎたい場所に付ける「目印」と、反応を仲介する「触媒」をうまく組み合わせて反応させると、目印が外れて炭素同士が簡単に結合する。鈴木さんは、目印にホウ素とハロゲン化合物、触媒にパラジウム錯体を使う方法を開発した。

 鈴木カップリング反応が優れているのは、水溶液中や空気中でも反応が進む点だ。従来のカップリング反応は特別な溶液中などで行う必要があったが、この弱点を克服した。さらに、鈴木カップリング反応は温和な条件で反応が進み、毒性が強い化合物を使わずにすむなど、多くの長所がある。このため、現在も医薬品や液晶の開発などに日本にとどまらず、世界中で幅広く利用されている。


 根岸カップリングとは何か?

 根岸カップリング(Negishi coupling)とは、有機合成化学におけるクロスカップリング反応のひとつで、有機亜鉛化合物と有機ハロゲン化物とをパラジウムまたはニッケル触媒のもとに縮合させ C-C 結合生成物を得る手法。1977年に根岸英一らにより最初の報告がなされた。

 R-ZnX + R'-Y  →  R-R' (パラジウム触媒)

 亜鉛上の有機基はアリール、アルケニル、アルキニル基など、有機ハロゲン化合物はハロゲン化アリール、アルケニル、アリル などが主に用いられる。触媒はもっぱらテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)などのパラジウム触媒が用いられる。

 有機亜鉛化合物は、有機ハロゲン化合物と活性化させた亜鉛(0)との酸化的付加や、ジアルキル亜鉛やハロゲン化亜鉛を用いたトランスメタル化により官能基を持つものも調製できるため、クロスカップリング反応の中でも基質の適用範囲は比較的広いとされる。また、有機亜鉛化合物が一定の反応を有するため、塩基や求核種といった添加物や加熱を必要としない。

 1972年にリチャード・ヘック氏は、パラジウムを使って水素を炭素に置き換えることで、炭素と炭素をつなぐ合成反応を発見した。 これをヘック反応という。


参考HP Wikipedia「ヘック反応」「カップリング反応」「鈴木カップリング反応」「根岸カップリング反応」 


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