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 樹齢392年の杉の木   
 奈良県の室生寺の樹齢392年だった杉の木が、1998年の台風で倒れた。東京大大気海洋研究所と同大宇宙線研究所などが、杉の年輪を解析。17~18世紀に太陽の活動が極めて弱まった時期の炭素の量などから、当時の宇宙線の量を調べた。  

 その結果、この時期は平均して宇宙線の量が1~2割増え、北半球の気温は0.5度下がっていたことがわかった。太陽活動が特に弱かった年は宇宙線が3~5割増え気温は0.7度も下がっていたこともわかった。日本では梅雨の湿度が1~2割高まり、降水量が増えることもわかった。

 宇宙線が地球の大気と反応して、上空にイオン粒子を生じ、それがもとで雲が生じやすくなったり、窒素酸化物ができたりするためだと考えられるという。東大宇宙線研の宮原ひろ子特任助教は「解析を進め、気候予測に役立てたい」と語った。

Maunder Minimum
 
 太陽活動が変化していることは、黒点数の減少などで知っていたが、太陽輻射量の減少よりも、宇宙線の増加によって、気候変動が起きるとは驚きである。太陽活動は2013年をピークに数十年の停滞期を迎えることが予想されており、地球がミニ氷河期に入る可能性もあるという。 (asahi.com 2010年11月9日)

 マウンダー極小期
 太陽の活動度は10 年から1000 年におよぶ様々な時間スケールでダイナミックに変化している。例えば17-18 世紀には、太陽活動度が低下して黒点がほとんど現れなかった時代が、70 年の長期間にわたって続いた(マウンダー極小期:西暦1645-1715 年)。こうした太陽活動変動が気候変動に影響している可能性は、200 年以上昔から議論が続いている。

 しかし、日射量の変動そのものだけでは気候に与える影響は小さいと考えられており、増幅メカニズムとして「日射量の変動が気候システムにより増幅される」「紫外線強度の変動が成層圏に影響する」「太陽磁場活動が、地球に飛来する宇宙線の量を変え、宇宙線が気候に影響する」などの仮説が提唱されてきた。

 年輪が刻む放射性同位元素
 17-18 世紀の太陽活動と気候変動を、小さな年代誤差かつ高い時間解像度で復元するため、私たちは樹木年輪に含まれる同位体を精密に分析・解析・比較した。樹木年輪中の同位体の組成は、年輪が形成された毎年毎年の大気や雨の同位体組成、周囲の環境条件などを記録している。

 特に、炭素同位体(炭素14)からは太陽活動変動を、酸素同位体からは周囲の気候(主に湿度や降水量)を、それぞれ復元できる。樹木年輪から両者のデータを得て直接比較したのは、今回の研究が世界で初めてである。試料には、奈良県室生寺で1998 年台風七号によって倒れたスギ(樹齢392 年)などを用いた。

 炭素14は、宇宙線と大気の相互作用によって生成される、炭素の放射性同位体(質量数14)である。地球大気における炭素14 の生成量は地球に飛来する宇宙線量と正相関し、宇宙線量は太陽活動(特に太陽磁場活動)と逆相関するため、太陽活動が低下した時には炭素14 生成量が増える。植物は光合成時に大気中二酸化炭素に含まれる炭素14 を取り込むため、樹木年輪中の炭素14 量を1 年ごとに精密に分析することで、各年の太陽活動を復元できる。

 次に酸素は、質量数が16、17、18 の3 種類の安定同位体(酸素16、酸素17、酸素18)が存在し、今回の研究では酸素16 と酸素18 の存在比を分析した。天然環境中の水(雨、海、河川など)に含まれる酸素16 と酸素18 の比は、降水や蒸発といった水循環プロセスを反映して、わずかに変動する。日本のような温暖湿潤な地域では、雨が多い/湿度が高い(湿潤な気候)ほど薄められ、樹木年輪中に取り込まれる酸素18 の存在比が低くなる傾向にある。

 太陽磁場活動の低下と寒冷化
 まず、樹木年輪中の炭素14 量の詳細な解析などから、マウンダー極小期およびその前後において、太陽磁場活動が約28 年周期の極小の年で極端に弱化していたことを見出した。次に、樹木年輪酸素同位体組成の分析から日本の気候を復元し、さらにグリーンランドや北半球平均の気温復元データと比較したところ、3つのデータ全てが太陽磁場活動の極端な弱化と同調した変動を示すことを発見した。日本では湿潤に、グリーンランドと北半球平均では寒冷になっていた。特に日本では、太陽磁場弱化に対応した1年のみの急激な気候変動シグナルを捉えることができた。

 一方で、日射量や紫外線の約14 年周期との同調は限定的であった。これらの結果は、マウンダー極小期における北半球の広範囲の気候変動が、日射量や紫外線よりも太陽磁場活動に強く影響されていたことを意味している。

 太陽磁場活動のシグナルが気候に見られたことは、宇宙線が気候に影響していたことを示唆する。通常の太陽磁場はうねったラセン構造を持ち、太陽系内への宇宙線侵入をある程度ブロックしている。一方で太陽磁場の数値計算の結果からは、マウンダー極小期における太陽磁場活動極小の年には、磁場の形状がほとんど平らになってしまい、大量の宇宙線が太陽系内に侵入したと考えられる。この大量の宇宙線が地球大気に降り注ぎ、気候に影響したものと思われる。

 2013年以降に小氷期の可能性
 今回の研究の意義は、最近数十年間の観測データからは推定が難しかった太陽地球環境の変動メカニズムや、最近数十年間には記録されていない極端・急激な現象を明らかにした点にある。まず、太陽活動が気候に影響するメカニズムには様々な仮説が提唱されていたが、マウンダー極小期に着目した研究から、太陽磁場活動と宇宙線の周期的な変動が北半球の広範囲に有意な気候変動を引き起こしていることが示された。影響の定量的な評価には今後さらなる研究が必要ですが、太陽活動と気候の関係をめぐる長年の議論に一石を投じる成果である。

 また、今回見出したマウンダー極小期における極端・急激な太陽地球環境変動は、近い将来に再び発生する可能性がある。マウンダー極小期のような長期太陽無黒点期は、約200 年おきに発生してきたことが分かっている。2008-2009 年の太陽は無黒点の時期が比較的長く続き、約200 年ぶりに弱い活動度となった。2013 年の次の活動のピークに向けて太陽活動は徐々に活発化していますが、過去数十年間の活動ピークに比べて低くなる可能性が高いとされている。

 さらには、10~20 年先に長期太陽無黒点期に突入する可能性も依然として残っている。長期太陽無黒点期が到来した際には、今回得られたマウンダー極小期における知見が、気候変動の予測に役立つものと期待される。


参考HP Wikipedia「マウンダー極小期」 ・東京大学プレスリリース「無黒点太陽の磁場が気候を変えた

日本列島の地形学
太田 陽子,鎮西 清高,野上 道男,松田 時彦,町田 洋,小池 一之
東京大学出版会

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地球環境46億年の大変動史(DOJIN選書 24)
田近 英一
化学同人

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