巨大ガス惑星が、中心星に近づいた理由

 すばる望遠鏡による観測で、公転軌道が大きく傾いた系外惑星が2つ発見された。木星より小さい海王星サイズでのこのような発見は世界初のことで、中心星に極端に近い巨大ガス惑星の来し方を探るうえではずみとなることが期待される。地球の4.7倍の直径と25倍の質量を持つHAT-P-11bは、このサイズのものとしては初めて、大きく傾いて公転していることが証明された。(提供:国立天文台)


Hat-p-11

 太陽以外の恒星の周りを回る「系外惑星」は、1995年から今までに500個以上見つかっている。そのうちほとんどが「ホットジュピター」と呼ばれる、恒星のすぐそばを公転する木星サイズの巨大ガス惑星だ。恒星からある程度離れたところでしか形成されないはずの巨大惑星がどうやってこんなに近くまで来たのか、考えられている原因としては以下の3つがある。

1.惑星系が作られる途中に、原始惑星系円盤内のちりなどの物質との作用で中心星に近づいたため
2.原始惑星系円盤のちりが消えたあとに、巨大惑星同士が重力ではじき飛ばしあったため
3.外側にある別の巨大惑星、あるいは中心星の伴星の重力のため

 1の場合は、中心星の自転軸に対して惑星の公転軌道は傾きがゼロになり、2と 3の場合は、中心星の自転軸に対して惑星の公転軌道は大きく傾くことが理論上わかっている。このように、系外惑星の公転軌道を知ることで、巨大惑星がどのようにして中心星に近づいていったかがわかるわけだ。

 今回、東京大学、国立天文台などの研究グループが、「XO-4」と「HAT-P-11」という2つの惑星系で、恒星の自転軸に対して大きく傾いた公転軌道を持つ惑星を発見した。その1つ、はくちょう座の方向約130光年先にある「HAT-P-11b」は、恒星の自転軸に対して約103度の傾きで(恒星の自転とは逆方向に77度の傾きで)中心星の周りを公転する海王星サイズの惑星だ。木星型より小さい、このサイズの惑星の軌道が大きく傾いている様子が確認されたのは世界で初めてのことで、すばる望遠鏡による高精度の観測で可能となったものだ。

 近年、このように軌道が傾いた惑星が宇宙には意外とありふれていることがわかってきており、個々の結果を見る限りでは、その惑星たちが上記 2あるいは 3のケースによって中心星の近くに移動したことが示唆されている。今後、軌道の傾いた惑星の主要な移動メカニズムが(2)と(3)のどちらなのかを結論づけるためには、より多くの観測結果からの統計が必要であり、また「HAT-P-11b」のように小さな惑星の観測がより重要な役割を果たすと期待されている。(2010年12月21日 すばる望遠鏡)

 HAT-P-11とは?
 HAT-P-11 とは、はくちょう座の9等星で、太陽系から120光年の距離にある。太陽と比べ一回り小さいスペクトル型Kの橙色の恒星で、光度は太陽の1/4程度である。2009年までに太陽系外惑星が1つ発見されている。質量は太陽の81%、半径は75%で、表面温度も太陽より1000K低い。一方で、金属量は太陽の2倍あり、重元素の豊富な(メタル・リッチな)星に分類される。恒星の進化モデルによると年齢は65億年と見積もられているが、これは大きな誤差(-59億年/+41億年)を含んだ値で、彩層の活動に基づいた推定では12.5億年とされている。

 またHAT-P-11には、周期29.2日、振幅0.0062等級の小さな変光が発見されている。誤認の可能性を考慮して検証が行われたが、否定的な証拠は見つかっていない。変光が事実ならば恒星表面の黒点が自転に伴って見え隠れすることが原因と考えられている。

 2009年、食検出法による太陽系外惑星の探査を行っていたHATネット計画が、HAT-P-11を公転する惑星HAT-P-11bを発見した。この惑星は恒星の至近距離を4.9日で周回する海王星に似た質量の天体で、食の減光の大きさから半径が海王星に近いことも分かっている。HAT-P-11の発見当時、海王星質量の系外惑星は他にもいくつか知られていたが、そのような天体の食が観測され、半径が実測されたのはグリーゼ436bに続いて2例目だった。

 HAT-P-11とその惑星系は太陽系外惑星探査機ケプラーの観測視野内に存在するため、宇宙からの高精度な観測が期待されている。なお、ケプラー計画からは、恒星にはケプラー3、惑星にはケプラー3bの別名が与えられている。

 ホットジュピターとその由来
 ホット・ジュピター (Hot Jupiter) は、太陽系外の恒星をめぐる 太陽系外惑星のうち、中心の恒星から地球 - 太陽間の距離(=1天文単位)の十分の一以下という至近距離にある軌道上を、高速かつ非常に短い周期で公転(公転周期は数日。これに関しては後述)する木星級のサイズの巨大ガス惑星を指す。恒星に極めて近く、強烈な恒星光を浴びるため表面温度は高温になっていると予想されている。「ホット・ジュピター」は直訳すれば「熱い木星」となるが、このような特徴に由来したものである。この種の系外惑星は1995年頃から続々と発見されつつある。

 ホット・ジュピターの発見は、従来の太陽系を対象にした惑星系形成理論がそのまま他の恒星系にも適用できるものではないことを示し、ホット・ジュピター、エミセントリック・プラネットなども含む多様な系外惑星の形成も含めて説明できるような理論へと書き直しを余儀なくされた。

 恒星系の成立については、まず原始恒星を取り巻く円盤のガスや微粒子が集積して微惑星を形成し、次第に恒星を取り巻く幾つかの惑星という系ができあがっていくというモデルが考えられている。このモデルでは、木星のような巨大ガス惑星は恒星の近くでは生まれにくいとされている一方、これまでに発見されたホット・ジュピターはほとんどが恒星の至近距離に存在している。そのため、こうした巨大惑星は元々円盤の比較的外側の領域で形成されたものであったが、後に何らかの原因で本来の軌道から外れ、内側に移行していったのではないかと考えられている。

 その移行の過程を説明する有力なモデルの一つは、形成された巨大惑星が残存していた円盤物質の抵抗による減速で、あるいは円盤自体が恒星の重力によって収縮するのに巻き込まれて次第に恒星に近づいていったとする「惑星落下モデル」である、しかし一方で、惑星がそんなに簡単に落下するものであれば、すべての惑星が恒星に落ち込んで惑星系はほとんど存在しなくなるのではないか、という異論もある。そのため、落下した惑星が現在観測されている軌道で安定するようなブレーキ法や、円盤のガスの密度などをめぐって、シミュレーションを駆使した様々な考察がなされている(中には惑星が出来ては落下し、出来ては落下しが繰り返された末、円盤が消失する直前に形成された惑星だけが残ったとする説まである)。

 もう一つの有力なモデルは、他の巨大惑星との摂動によって細長い楕円軌道で恒星に近づくエキセントリック・プラネットになり、最近点を通過するたびに公転にブレーキをかけられることで次第に離心率が小さくなって円軌道のホット・ジュピターになって行くとする「ジャンピング・ジュピターモデル」である。こちらはホット・ジュピターよりもエキセントリック・プラネットの比率が大きいことが傍証とされているが、対になるはずの外側のエキセントリック・プラネットがなくてホット・ジュピターのみが見つかっている場合には適用できない。(FreshEyePedia)


参考HP Wikipedia「系外惑星」「ホットジュピター」・アストロアーツ「巨大ガス惑星の軌道からわかる、中心星に近づいた理由

異形の惑星―系外惑星形成理論から (NHKブックス)
井田 茂
NHK出版
宇宙は「地球」であふれている -見えてきた系外惑星の素顔- (知りたい!サイエンス)
井田 茂/佐藤 文衛/田村元秀 須藤 靖
技術評論社

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