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 タンパク質で正三角形
 規則正しい形というと何を思い出すだろう?科学では雪の結晶や、水晶、ミョウバンの結晶や塩の結晶などの物質の結晶を思い出す。ベンゼンの六角形や、フラーレンのサッカーボール形などは、かなりユニークである。

 では、タンパク質で結晶はできるのか?タンパク質の結晶というとピンとこない人も多いと思うが、実はタンパク質も結晶になる。酵素などのタンパク質のはたらきを分子レベルで解明するためには、3次元的な分子構造を知る必要があり、そのためには良質な結晶が必要になる。しかし、タンパク質の結晶を作ることは低分子に比べて難しく、研究段階にある。

 では、タンパク質の結晶は規則正しい形になるのであろうか?京都大の斉藤博英特定准教授らのグループは、1辺が約20ナノメートル(0.00002ミリ)の正三角形を作ることに成功した。辺はひも状の分子のリボ核酸(RNA)、頂点にたんぱく質がついた構造。RNAとたんぱく質の複合体で人工的な構造物を組み立てたのは初めてという。

RNP

 グループは、RNAを60度の角度に折り曲げるたんぱく質に注目。このたんぱく質がくっつくように、RNAの塩基を特定の配列にして混ぜあわせたところ、三角形ができた。特殊な顕微鏡で、1辺が20ナノメートルの正三角形になっていることを確認した。

 この研究の応用としては、三角形の頂点に異なる3種のたんぱく質をくっつけることで、がん細胞を認識し、それを攻撃するなど複数の働きを持つ薬の開発などが考えられるという。英専門誌ネイチャーナノテクノロジー電子版に1月17日発表された。(asahi.com 2011年1月17日)

 DNA、RNA、タンパク質をデザイン
 生体分子の中で、DNA、RNAおよびタンパク質については、分子レベル、原子レベルでの研究が進んでいる。DNAの場合は、DNAのもつ単純な二重らせん構造を基本として分子デザインが行われており、「DNAオリガミ」という高度に複雑な構造体などの大きなサイズの分子の構築が報告されている。

 しかしDNAは、あくまでも二重らせん構造を基本とする制約があり、構造体形成のための材料としての構造単位に限界があると考えられる。特に、生体内で作用する小さなサイズ(例えば通常の酵素以下の大きさ)で複雑な機能と構造を持つ分子の作成には適さない。また、生体内で酵素などの機能性分子として働くものはなく、機能的にも構造的にも自由度が少ないのが現状だ。

 一方、RNAは二重らせん構造に加えて、さまざまな分子内および分子間相互作用が可能であるため、この性質を利用して生体内で多様な立体構造を形成し、酵素機能などの高度な機能を発揮することが知られている。また、タンパク質はRNAよりはるかに多彩かつ複雑な立体構造と機能を有するが、その複雑さのため、分子設計は非常に困難である。

 そこで、RNAは設計により作成し、タンパク質は天然のものを利用するといった戦略で、設計の柔軟性が高くかつ複雑な立体構造や機能を持つ分子を設計するのが合理的と考えられる。しかし、これまでの国内外の研究においてRNAとタンパク質の複合体(RNP)を利用したナノ構造体の構築や、タンパク質により構造を制御できる人工ナノ構造体の構築は達成されておらず、そのため複雑な構造や、微細な構造の作成技術の開発はほとんど進んでいなかった。

 RNAとタンパク質の結合体「RNP」
 本研究では、RNA分子上に複数の機能性たんぱく質の結合を可能にする、RNP分子デザイン技術を開発した。特定のたんぱく質にだけ結合しやすいRNPモチーフが必須なため、リボソームたんぱく質L7Aeと、それに特異的に相互作用するキンクターンRNAを選択した。このキンクターンRNAはL7Aeと結合すると約60度の角度に折れ曲がる(図の赤い部分)。この特徴的なRNPは、ナノサイズの構造体を作成するための新しいパーツとして有用である可能性がある。このRNPを利用して、人工のRNPから成るナノ正三角形(Triangle-RNP)を作成した。

 具体的には、一辺が10~30nmというナノ(10億分の1)メートルサイズの三角形を構築するため、キンクターンRNAのモチーフを3ヵ所に持つ環状の二本鎖RNAを設計して、これにL7Aeを結合させる実験を行なった。

 その構造体形成を原子間力顕微鏡(AFM)により観察すると、3つのL7Ae-キンクターンRNAがそれぞれの頂点部分を形成する一辺が約17nmの三角形構造体が完成していた。たんぱく質の存在下でのみ、三角形様の構造体が観察されたことから、たんぱく質によりRNAの構造を人工的に制御する世界初の構造制御に成功したことが分かった。

 また、辺にあたる部分のRNAの塩基数(長さ)を26bpから48bpに増やすことで一辺が23nmのよりサイズの大きな三角形をデザインし、同様にこのRNAとL7Aeを結合させたところ、予想通り大きな三角形が観察されました。 これらの結果は、RMPモチーフを切り貼りすることで、ナノ構造を容易に設計できることを示している。

 さらに、3つの頂点に目的の機能性たんぱく質を配置するため、L7Aeとの融合たんぱく質として、緑に光るEGFP蛍光たんぱく質を同様の方法で結合させ、AFMにより観察してみた。その結果、3つの機能性たんぱく質を頂点に持つ三角形が構築できていることが分かった。 また、細胞内の環境に類似した生理条件下でも、この構造体は安定に保持できることが明らかになった。

 人工リボゾームなどに可能性
 本研究の成果より、三角形の頂点それぞれに例えばがん細胞を認識する2種類のたんぱく質と細胞を殺傷する1つのたんぱく質を結合すれば、特定のがん細胞を間違いなく認識し、これにより検出されたがん細胞のみを殺傷するといった複数の機能を持つ有用な高機能RNP分子の創製が期待できます。また、ナノバイオテクノロジー分野にRNA-たんぱく質複合体が活用できることを初めて示すものであり、細胞内で目的の機能をもつ構造体を自在に作り出せるため、必要なときに必要な「分子機械」を構築する基盤技術としても期待されます。

 細胞内のたんぱく質合成工場であるリボソームに代表される天然の超機能性分子は、複数のRNAとタンパク質が自己集合することで複雑な構造体を形成し、高度な機能を発現している。近年、生体分子を活用してナノサイズの構造体を作成する研究が注目されているが、このような複数の分子から成る機能性ナノ構造体の作成は、これまで実現できていなかった。本技術の発展により、そのような機能性構造体の創出が可能になることが期待できる。さらに、機能や構造を環境に応答して変換できる、インテリジェントな人工分子を創出するには至っていなかったが、本研究の基盤技術である「RNP分子デザイン」は、より複雑な構成を持つナノサイズの構造体を作成できるとともに、さらにはその構造をも動的に制御できるインテリジェントな分子作成技術である。

 将来的には構造変換によりRNP分子機械の機能を制御できる可能性も十分にあると考えられ、リボソームに匹敵する、高度に複雑で洗練された機能性分子複合体やナノロボットを創出する可能性を秘めている。

 本技術で創製した分子は、あらゆる生物に適用可能であるため、生物学研究や医療、検査などに用いる新しい機能性複合体分子の開発が可能になると考えられる。
 

参考HP 科学技術振興機構「RNAとタンパク質からなるナノサイズの三角形構造体の創製に成功」 

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