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 美しい環状化合物
 形の美しい化合物にどのようなものがあるだろう?ベンゼン環、クラウンエーテル、フラーレン、DNAなどさまざまであるが、どれも炭素を骨格とした化合物である。また。環状のものが多い。炭素以外に、環状の化合物はないのだろうか?

 今回、理化学研究所は、4つのケイ素原子でできた新環状化合物「テトラシラシクロブタジエン」の合成に世界で初めて成功した。X線分析の結果、この化合物が、4つの炭素原子でできた長方形のシクロブタジエンとは異なり、ひし形であることを発見した。

cyclic compounds

 ひし形と長方形の違いは何だろう?そう、4辺の長さと4つの角だ。今回4辺の長さは、平均2.28 Å(1 Åは10-10m)でほぼ等しく、一般的なケイ素の単結合(2.34 Å)と二重結合(2.14 Å)の長さの中間の値だった。つまりこの場合、4つのケイ素が等価の二重結合を形成している。そして4角が直角でないのは、プラスとマイナスに電荷が分かれていることを意味する。また、ひし形の内角の和がちょうど360度であることから、4つのケイ素原子が同一平面上にあることも分かった。

 ベンゼンは6個の炭素原子からできており、シグマ結合によって、6個のパイ電子を有し美しい性6角形になる。この6個のパイ電子は、六角形上を動き回って分子を安定化させるとともに、全ての電子が6個の炭素原子上に均等に分布するため、電荷も均等となっている。このときの結合距離は1.397Åであり、C−C間の1.534ÅとC=C間の1.337Åの中間である。これは、全ての炭素同士の結合が等価になっていることを意味し、パイ電子が非局在化していることを示している。ベンゼンのような炭素の構造を持つ化合物を芳香族とよぶ。

 新しいケイ素の環状化合物
 一方、4個の炭素原子からできたシクロブタジエンは、シグマ結合によって四角形を形成し、4個のパイ電子を有す。この4個のパイ電子が四角形の上を動き回ると、ベンゼンとは逆に不安定化する。これを反芳香族性と呼ぶ。一般に、正方形上の4個のパイ電子は、二重結合のペアーを作って長方形に変形する。これは、二重結合が単結合よりも短いために長方形になるからだ。

 ケイ素は、元素周期表では炭素と同じ14族に属しており、炭素の真下(第3周期)に位置する。第3周期以降の高周期元素の不飽和結合は極めて不安定で、長い間存在しないとされてきた。しかし1981年、アメリカのウィスコンシン大学の研究者らが、かさ高い立体保護基を用いて、ケイ素原子間の二重結合を持つ化合物「ジシレン」を初めて安定に合成した。

 それ以来、さまざまな立体保護基を用いて、高周期元素による不飽和結合の化合物の合成が試みられてきた。中でも、6個のケイ素原子でできたヘキサシラベンゼンや4個のケイ素原子でできたテトラシラシクロブタジエンは、化学結合の仕組みを探る基礎科学の面から大変注目される分子であるため、世界中の研究者がその合成に挑戦してきたが、いまだ成功していなかった。

 研究手法と成果
 研究グループは、独自に開発したかさ高い置換基をケイ素原子につなげることで、不安定なケイ素間の不飽和結合を立体的に保護し、機能性物質の構成単位として利用する研究を進めてきた。今回、かさ高さを適切なサイズに調節して、炭素原子24個と水素原子37個からなる巨大原子団である立体保護基「EMind」をケイ素原子につなげたところ、4つのケイ素原子で構成するテトラシラシクロブタジエンの合成に初めて成功した。

 EMind基は、市販の化成品を出発原料にして2段階の反応で大量合成することが可能で、さらに2段階の反応を経てケイ素原子とつなげることができる。最終的には、EMind基と3つの臭素原子からなるトリブロモシランをリチウム金属イオンにより-80℃で還元反応させ、テトラシラシクロブタジエンを含む混合物を得た。この混合物から不純物を室温で除去した後、低温(-30℃)の環境下で再結晶させた結果、単離収率は9%とそれほど高くないものの、オレンジ色のテトラシラシクロブタジエンの結晶をきれいに取り出すことができた。

 合成した化合物の分子構造をX線で解析したところ、テトラシラシクロブタジエンの形がひし形であることを見いだした。4辺の長さは平均2.28 Å(1 Åは10-10m)でほぼ等しく、一般的なケイ素の単結合(2.34 Å)と二重結合(2.14 Å)の長さの中間の値。また、ひし形の内角の和がちょうど360度であることから、4つのケイ素原子が同一平面上にあることが分かった。さらに、核磁気共鳴(NMR)分光法で解析したところ、高磁場領域(-50 ppm)と低磁場領域(+300 ppm)にピークを観測した。この差(化学シフト値)が非常に大きなことから、4つのケイ素原子は、それらが全く同じ環境下にありながら、2つのプラス原子と2つのマイナス原子に電荷が分かれて構造を安定化していることがわかった。

 これまでにない化学結合
 密度汎関数理論により電子の状態を計算すると、テトラシラシクロブタジエンはひし形が最も安定であり、実験結果とよく一致することを確認した。また、EMindを水素に置換して単純化した分子の静電ポテンシャルを計算すると、プラスとマイナスに電荷が分かれていることがよく分かった。さらに、化学シフト値から計算すると、ひし形の構造は芳香族性と反芳香族性のいずれも有していない新しい構造であることが分かった。

 テトラシラシクロブタジエンのひし形構造と電荷の分離は、ケイ素の二重結合が炭素の二重結合と比べて弱いことなど、ケイ素固有の性質に基づく結果である考えられる。今回発見したテトラシラシクロブタジエンのひし形形成が、従来のシクロブタジエンの長方形形成と相補的な関係にあり、分子が不安定な反芳香族性をどのように避けるかという、化学結合の理解を深める上で極めて重要な成果である。


 参考HP Wikipedia「ベンゼン」・理化学研究所「
4つのケイ素でひし形の環状化合物合成 

未来を拓くケイ素革命―食糧からエネルギーまで
クリエーター情報なし
たちばな出版
有機ケイ素化学の応用展開―機能性物質のためのニューシーズ (CMCテクニカルライブラリー―新材料・新素材シリーズ)
クリエーター情報なし
シーエムシー出版

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