ペンギンと環境

 ペンギンというと、南極にすむと思われがちだが、実際に南極大陸におもな繁殖地を持つのはコウテイペンギンとアデリーペンギンの2種類だけである。アデリーペンギンは夏に地面が露出した海岸で繁殖するが、コウテイペンギンは零下数十度の冬の氷原で繁殖を始める。このためコウテイペンギンは「世界でもっとも過酷な子育てをする鳥」と呼ばれることがある。

 実際には、ジェンツーペンギン・マカロニペンギンなどのように南極周辺の島などに繁殖地があるペンギンもいる。そして意外なことに、赤道直下のガラパゴス諸島に分布するガラパゴスペンギンもいる。

 もうひとつ、ペンギンというと環境問題の舞台で登場する。南アフリカにすむケープペンギンは、沈没した船舶から流れ出る石油や原油の海洋汚染により、20世紀に入ってから何十万羽も死んだ。また、繁殖地の破壊、エサとなる魚の乱獲、人間により持ち込まれた生物による被害なども、ケープペンギンの生存を脅かしている。


Penguin-Decline-Antarctica

 米国のシーア・コルボーン博士は、微量な化学物質がいろいろな野生動物に影響を与えていることを発見した。北極圏に生息するホッキョクグマと南極大陸に住むペンギンの体内からPCBを検出した。PCBという化学物質は科学技術の発展に貢献した物質であるが、生物の体内に入ると排出されずに蓄積し、健康に影響を与える。

 さらに近年地球温暖化により、餌のオキアミの繁殖域となる海上の氷の激減、洪水による巣の浸水などで、生息数が減っている種もいる。

 ペンギンが50%激減
 南極半島の西側とスコシア海に住むペンギンの個体数が、過去30年で最大50%減少していることが、新たな調査で明らかになった。この急減は、ペンギンの主食であるオキアミの不足によるものとみられる。オキアミは同地域での気温の上昇と大食漢のクジラの個体数増加により数が減っている。

 カリフォルニア州ラホーヤにある米国海洋水産局に所属する漁業生物学者のウェイン・Z・トリベルピース(Wayne Z. Trivelpiece)氏は、1970年代からヒゲペンギンやアデリーペンギンのコロニーを調査している。

 トリベルピース氏は個々のペンギンに定期的に識別バンドをつけてその動きを追う研究を通じて、個体数急減の主要因をつきとめた。それによると、エサのオキアミを見つけるのが難しくなっているため、生後1年未満の若いペンギンが最初の冬を自力で越せずに終わるケースが激増しているのだという。「1970年代や80年代半ばであれば、幼鳥のうち半分は生き延びることができた。だが今ではその割合は10羽に1羽程度だ」。

 「オキアミそのものの数に関する調査も行われており、わずか20年前と比べても80%減っている。ゆえに、若いペンギンが親離れ直後の数カ月を生き延びるだけのオキアミを見つけられる確率は大幅に下がっている」。

 オキアミの激減で主食を失うペンギン
 オキアミはエビに似た小型の甲殻類で、巨大な群れを作り、南極周辺海域の食物網で大きな役割を担っている。群れで暮らす陸上の草食動物と同様に、オキアミは植物プランクトンと呼ばれる光合成を行う微小生物を食べ、自身はペンギンなど、海に暮らす多くの捕食者のエサとなる。

 南極海域のオキアミの激減には複数の要因があるとトリベルピース氏はみている。

 考えられる要因の1つは、周辺地域の気温上昇だ。この地域の気温は1940~50年代と比較して摂氏5~6度高くなっている。海面がどの程度まで結氷するかは外気温に左右される。

 「海面が凍らないと、こうした海氷で生活するプランクトンが捕まえられず、夏に孵化したオキアミの幼体にとっては冬季のエサがなくなる」とトリベルピース氏は説明する。「このエサがなければ、オキアミの幼体は生き残れない」。

 クジラの個体数増加も要因
 オキアミが減った第2の要因は、実は生態系保護の成果から生じている。クジラの個体数が増加に転じているのだ。

 トリベルピース氏によれば、「現在判明している情報によると、オキアミをエサとするクジラがこの海域で復活している模様で、その個体数は増え続けている」という。19世紀から20世紀にかけて盛んだった捕鯨により、巨大海生哺乳類であるクジラの個体数は激減したが、ペンギンはこの時期に大きく個体数を伸ばしたようだ。

 「1930年代より前については確度の高いデータがないが、少なくとも1930年代から70年代にかけてはペンギンにとっての全盛期だったとみられる。クジラという競争相手がいなくなったことがその主因だ」。

 「当時の個体数に関するデータは、そのほとんどが裏付けに乏しく、“英領南極地域”の観測員のおおよその集計に基づいたものだ。目測による大雑把な集計だとしても、1930年代に報告されている10万羽と、1970年代の50~60万羽というペンギンの個体数の差は非常に大きい」。

 オキアミは主食ではなかった
 海鳥を専門とする鳥類学者のスティーブ・エムズリー氏も、ペンギンのコロニーを時系列で追った研究の中で、ペンギンの個体増に関する重要な証拠を提示している。卵の殻など、昔の細胞組織の残る物質の化学組成を分析したところ、クジラが減少する以前、アデリーペンギンは魚類を主食としていたことが判明したという。

 「アデリーペンギンがオキアミを食べるようになったのはここ100年ほどの話だ。生態系からクジラが減少したことで、捕食可能なオキアミが以前より増えたことがきっかけだ」とトリベルピース氏は説明している。

 そしてオキアミが激減する今、以前に起きた食行動の変化を踏まえて、ある疑問が浮かんでくる。ペンギンは再び、魚を主食とする生態に戻れるのだろうか?

 「オキアミの量が80%減ったこの30年間の記録を見る限り、(ペンギンの)エサに魚類が増えた形跡はない」とトリベルピース氏は証言する。「だが、魚類もロシアのトロール漁船により乱獲されているので、現時点でペンギンが捕食可能な魚類がどの程度あるのかもわからない」。(National Geographic News April 12, 2011)


参考HP Wikipedia ペンギン National Geographic News ペンギンが激減、クジラの増加も要因か

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