まるでエイリアン?

 寄生虫と言えば宿主に深刻な害を与える存在であると考えられがちであるが、必ずしもそうではない。例えば体長が数mにも達するサナダムシの場合は、宿主には軽微な被害しか与えていない場合が多い。むしろ、宿主に被害を与えると寄生者自身の生活や生命を危うくするから、被害を少なくする方向に進化したものが目立つ。

 これが寄生バチや寄生バエになると、まったく異なる。親が宿主に産卵すると幼虫は宿主の栄養を取って成長し、成長するとその体を抜け出して成虫になるが、その際に宿主が必ず死んでしまう例が多い。というより、宿主の体を食べ尽くして親になると言った方が近い。そこで、これを一般の寄生と区別する場合に、より捕食に近い寄生という意味で、これを捕食寄生と呼ぶ。冬虫夏草などの微生物も、捕食寄生をするなかまである。

 ある種の冬虫夏草は、アリに寄生し、その意思を操ることがあるという。一方、タイコバエというハエの繁殖方法も、実におぞましい。特定のアリに産みつけられた卵からかえったウジはアリの脳髄を食べ、アリを操るかのように移動させ、さらに頭を切り落としてその中で蛹(さなぎ)となる。


Fire-ant-parasite-attack

 まるで、映画「エイリアン」のように体内の卵が孵り、ウジが体内で動き出す。そして最後は、体を食い破って外へ飛び出す。しかし、このハエの繁殖方法を、害虫であるアカカミアリの駆除に利用する取り組みが、アメリカ南部で進められている。


 タイコバエの捕食寄生
 タイコバエは、アカカミアリという毒を持つ凶暴なアリの一種を見つけると、その体内に針のような管で卵を産み付ける。ふ化したタイコバエの幼虫(ウジ)はアカカミアリの頭の中へ移動し、そこで脳髄をすすりながら成長する。しばらくすると、アリはウジにコントロールされているかのように動き始める。

 同じ巣のアリからの攻撃を避けるため、アカカミアリはタイコバエの幼虫に操られるかのように巣を出て行く。たいていは、湿り気のある緑の多い場所にたどりつく。中には巣を離れてから50メートルもさまよい続ける“ゾンビ”アリもいるという。

 やがて、タイコバエのウジは、そのホストの首を切り落とし、内部を食べながらさらに成長する。そして卵が産み付けられてから約40日後に、ほぼ成虫に近い蛹(さなぎ)になる。

 「このハエのウジは、アリを断首するだけではなく、アリをゾンビに変えてしまうようだ」と、アメリカ農務省の昆虫学者サンフォード・ポーター氏は言う。


 外来種アカカミアリ

 アカカミアリは1930年代初期に、おそらくは農産物の貨物船でアルゼンチンからアラバマ州モービルに入ったと考えられる。このアリには毒があり、噛まれると激しい痛みを覚え、時には一週間以上も腫れが引かない。ここ50年の間にアメリカ南部全域に生息域を広げ、在来種のアリが多数被害を受けている。そのためアメリカの研究者らは現在、外来種であるアカカミアリの繁殖を抑制するため、定期的に数種のタイコバエを野に放している。

 そうした中、新種のタイコバエ(学名:Pseudacteon obtusus)がアメリカで初めて放虫されたことをテキサスA&M大学が最近明らかにした。放虫は2008年にテキサス州南部、2009年4月にテキサス州東部で行われたという。この新種はアメリカで初めて放虫されたタイコバエであり、捕食行動中のアリを攻撃することで知られる。理論的にも、巣に隠れているアリより捕食行動中のアリの方が攻撃に対して無防備であることがわかっている。

 このタイコバエはアメリカ在来種のアリを襲うことはないため、アカカミアリがハエを警戒し巣に留まるようになれば、新しい巣ができる可能性も少なくなり、在来種のアリにとっては餌場が増えることになる。

 テキサス大学の研究員であるロブ・プラウズ氏はこう話す。「これは在来種のアリが置かれている不当な環境を改善するための取り組みであり、その目的は種間のバランスを回復させることにある」。

 捕食者であるタイコバエによるアカカミアリのコントロールは、一定の成功はおさめているものの、アメリカ南部からアカカミアリを完全に駆除することはできそうにないという。ユタ大学のアリ生態学者ドナルド・フィーナー氏は、「1970年代までは完全な根絶について話し合われていた。しかし、全面的な化学作戦でも行わない限り、これほど広範囲に繁殖している大量の生物を根絶することはできない」と話す。(National Geographic News May 15, 2009)


参考 Wikipedia 寄生 National Geographic News アリをゾンビ化して操るタイコバエ


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