極小ブラックホール、地球を毎日通過?

 素粒子であるニュートリノは、私達の体を毎秒1兆個も通過しているが、生きている内にその影響を感じる人はいない。ニュートリノは、まれに水の原子に衝突した時、ミュオンという素粒子が飛び出す。巨大で透明な水を湛えたカミオカンデの中で、ミュオンは青い光を放射し、光電子倍増管はこの光を検出した。

 1987年2月23日、カミオカンデはこの仕組みによって、大マゼラン星雲でおきた超新星爆発 (SN 1987A) で生じたニュートリノを偶発的に世界で初めて検出した。この功績により、2002年小柴昌俊東大特別栄誉教授は、ノーベル物理学賞を受賞した。 現在、福島第1原発事故の放射線は、体を通過することで悪影響が出ることが恐れられている。しかし、体の中を通過しても、認識されないほどの不思議な極小の世界があることを実証した実験だった。

 今回、極小のブラックホールが、“宇宙の幽霊”のように日々地球を高速で通り抜けている可能性が明らかになった。だが、人体に影響はないという。この新理論によると、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のような強力な原子核破壊装置によって極小ブラックホールが生成されたとしても、地球をのみ込むような最悪のシナリオの心配はないようだ。極小ブラックホールの振る舞いは、深宇宙に存在する恒星程度の大質量ブラックホールとは極めて異なるという。どんな粒子なのだろうか?


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 およそ乗用車1000台分の質量がある極小ブラックホールだが、サイズは原子よりも小さい。大量の物質をのみ込むことはない代わりに、多くの極小ブラックホールでは、原子やより大きな分子が捕らえられ、周囲を回っている可能性がある。原子核の陽子が電子を捕獲し結合するのとほぼ同じ現象である。

 この現象にちなみ、周回する物質を持つこの極小ブラックホールは「Gravitational Equivalents of an Atom(GEA)」(原子の重力等価物質)と命名された。


 大きいブラックホールと小さいブラックホール 

 アメリカ、カリフォルニア州レッドウッドシティのバイオテクノロジー研究所に勤務し、この研究を父親と共同で行ったアーロン・バンデベンダー(Aaron VanDevender)氏は、「GEAはまったく無害なので心配はいらない。GEAと結合していた原子が離れて、人体に衝突したとしても気づかないだろう。エネルギー量はごくわずかだ」と説明する。

 恒星質量ブラックホールは、死を迎えた大質量の恒星が超新星爆発した後に形成されると考えられている。非常に高密度なため、光でさえもそ の重力から逃れることはできない。

 一方、新理論では、宇宙誕生直後に極めて高密度な物質が宇宙空間へ拡散し冷却するにつれ、極小ブラックホールが大量に形成されたと提唱している。

 「原始物質は初期宇宙全体へ不均等に分散したため、高密度と低密度の領域ができた。密度の違いによって、宇宙初期の一部の高密度領域でブラックホールが偶然形成された」とバンデベンダー氏は話す。

 物理学者スティーブン・ホーキング氏は、ホーキング放射理論で、小さなブラックホールは放射により質量を失い、最終的に蒸発すると提唱している。

 今回の研究によると、大小のブラックホールでは「事象の地平線」における振る舞いが大きく違うという。事象の地平線とは、物質がブラックホールから脱出不可能になる地点である。サイズと質量が大きなブラックホールほど事象の地平線が大きくなり、巨大ブラックホールは周囲にあるものをすべてのみ込んでしまう。


 小さすぎるブラックホールは原子を飲み込めない

 一方、極小ブラックホールは、事象の地平線が原子の直径よりも小さい。惑星を高速で通過できても、事象の地平線を越えるほど原子と近づき、吸い寄せる可能性は極めて低いという。

 論文では、極小ブラックホールが粒子を引き寄せた場合、粒子は事象の地平線より離れた軌道上でブラックホールを周回し、吸収されない可能性が最も高いと述べられている。

 ごく稀に原子や分子が極小ブラックホールに接近し、吸い込まれるかもしれない。しかし、バンデベンダー氏らの計算によると、極小ブラックホールが地球のすべての原子をのみ込むには、宇宙の年齢よりもはるかに長い時間がかかるという。

 メリーランド大学の天文学者マッシモ・リコッティ(Massimo Ricotti)氏は、「極小ブラックホールは非常に小さいため、重力で原子をのみ込む可能性は極めて低いだろう」と同意する。しかし、捕らえられた原子が軌道上を安定して周回し、GEAが形成される点については懐疑的なようだ。

 「GEAが存在するとすれば、たしかに興味深い。だが、GEAの安定性と原子が取り込まれるメカニズムには検証の余地が残っている」。

 今回の研究結果は、論文投稿サイト「arXiv.org」で5月2日に公開された。


 LHAで極小ブラックホール発生の可能性

 CERN地球上における極小型ブラックホール生成の可能性2008年運転開始の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で、極小のビッグバン再現実験が予定されているが、その過程で極小型ブラックホールが生成される可能性を懸念する声がある。

 余剰次元理論に基づく計算によれば、LHCの衝突エネルギー (7TeV) で極小ブラックホールの生成が不可能ではないとされ、余剰次元理論の検証ができる可能性があると期待されている。ただし、これは理論中のパラメータが、観測から許される限界ぎりぎりの値である場合の結果であり、より穏当なパラメータの場合は(たとえ理論が正しかったとしても)この程度のエネルギーではブラックホールの生成は起こらない。

 余剰次元モデルが正しくなければブラックホールは生成しないが、生成した場合、ホーキング輻射によって、ブラックホールは直ちに蒸発すると考えられている。欧州原子核研究機構 (CERN) は「宇宙線の中にはLHCよりもエネルギーが格段に高い陽子が存在し、大気の分子と衝突して、さまざまな粒子を生み出している。もし本当にLHCでブラックホールが生成できるなら、宇宙線によってもミニブラックホールが大気圏内で生成されているはずだ。にもかかわらず、地球はブラックホールに呑み込まれていない」とコメントした(ニュートン2008年10月号より)。

 1999年にMario RabinowitzはAstrophysics and Space Science誌において、球電現象を原始ブラックホールを用いて説明する説を提示した。

 1908年ロシアの森林上空で起きたツングースカ大爆発の原因を、小型ブラックホールが地球を通り抜けたものとする説が1973年にテキサス大学の物理学者らにより提唱されたが、その後にそれでは説明できず現実的ではないとする反論が掲載されている (Nature, 250, 555 (1976))。

 2009年10月、大阪大学・中国・韓国で構成する国際共同研究チームが高出力レーザーを用いて、ブラックホールとされる天体の周辺で実際に観測されているデータとほぼ同じ光電離プラズマを実験室で発生させることに成功した。研究チームはこの実験により、「将来的にブラックホールそのものを生成できる可能性が高まった」とした。(Wikipedia)


参考HP WikipediaカミオカンデニュートリノブラックホールNational Geographic news極小ブラックホール、地球を毎日通過

ブラックホール―一般相対論と星の終末 (ちくま学芸文庫)
クリエーター情報なし
筑摩書房
ブラックホールと超新星―恒星の大爆発が謎の天体を生みだす (ニュートンムック Newton別冊)
クリエーター情報なし
ニュートンプレス

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