反物質を16分超閉じ込めた!

 反物質(antimatter)は、質量とスピンが全く同じで、構成する素粒子の電荷などが全く逆の性質を持つ反粒子によって組成される物質。例えば電子はマイナスの電荷を持つが、反電子(陽電子)はプラスの電荷を持つ。中性子と反中性子は電荷を持たないが、中性子はクォーク、反中性子は反クォークから構成されているという。

 反物質は粒子加速器を使う核融合実験の際に、微量ずつ発生しては、発生の次の瞬間には対消滅で消え去っていることが観測データから確認されている。しかし、石油やウランなどと異なり自然には殆ど存在せず、「なぜ反物質は自然界に存在しないのか、なぜ、私たちのまわりは物質ばかりでできているのか」ということがわかっていない。

 今回6月5日、欧州合同原子核研究所(CERN、ジュネーブ)は、宇宙や自然界にほとんど存在せず、物質と出合うと消滅する「反物質」の一種を、実験装置の中に16分余りとなる1000秒間閉じ込めることに成功したと発表した。物質と反物質は宇宙誕生の大爆発ビッグバン直後は同じ量存在していたと仮定されている。長時間の反物質閉じ込めによって、より精度の高い観察、実験が可能となり、なぜ宇宙が物質だけでできているのかなど、宇宙の進化の謎解明に道が開かれたといえる。


Antimatter

 日本の理化学研究所なども参加する国際実験チームは次の段階として、反物質が物質と同じ色なのかどうかを今年中に調べたいとしている。

 国際チームが長時間の閉じ込めに成功したのは、水素原子を構成する陽子と電子それぞれの反粒子でできた「反水素原子」で、昨年11月には約0.2秒の閉じ込めに成功している。

 今回は、反陽子と陽電子を実験装置の中で混合する際、運動エネルギーを極力近づけるようにするなど技術が向上した結果、飛躍的に記録が伸びた。成果は5日付の英科学誌ネイチャーフィジックス電子版に掲載された。(毎日新聞 2011年6月6日)

 基底状態の冷反水素原子
 宇宙に存在する物質と対をなす、反物質の代表として知られている反水素原子が、欧州原子核研究所(CERN)で生成され、謎だらけの反物質の解明に光がさしはじめている。しかし、反水素原子の性質を詳細に調べるためには、極低温の反水素原子を真空中の小さな領域に閉じ込めること、あるいは、エネルギーのそろった冷たい反水素ビームを作りだすこと、が必要不可欠だ。理研基幹研究所山崎原子物理研究室の研究グループは、国際共同研究グループと共に、CERNの反陽子減速器を活用し、この2つのテーマに挑戦してきた。

 2010年11月には、八重極磁気瓶を用いて極低温反水素原子を0.1秒以上閉じ込めることに成功したが、高精度レーザー分光実験に進むには、基底状態の反水素原子をより長時間閉じ込める必要がありました。

 今回研究グループは、反陽子を暖めることなく集団運動を起こさせる技術に磨きをかけ、より“そっと”混ぜ合わせることで、反水素原子を前回の1万倍以上となる1,000秒以上閉じ込めることに成功した。

 今回の成果により、高精度レーザー分光実験が目と鼻の先に近づいた。これにより、水素原子と反水素原子の違いを格段に高精度で測定でき、CPT対称性テストが実現するとともに、「なぜ、私たちの宇宙が物質ばかりからできているのか」という謎解明の手がかりを得られると、注目されている。

 反物質の世界がないのはなぜ? 
 反物質がどうしてわれわれの住む宇宙では殆ど存在していないのかは、長い間、物理学の大きな疑問の一つであったが、最近その疑問への回答が部分的ではあるが得られつつある。初期宇宙においての超高温のカオス状態の中で、クオークから陽子や中性子が出来、中間子が生まれ、それぞれの反粒子との衝突で光子(電磁波・ガンマ線)に変換されたり再び対生成されていた頃にすべては起こったと考えられている。

 従来、物質と反物質は鏡のように性質が逆なだけでその寿命を全く同じだと考えられてきた(CP対称性)。だが近年、粒子群の中で「物質と反物質の寿命がほんの少しだけ違う」というものが出てきた。最初はK中間子と反K中間子である。そして、B中間子もはっきりと反B中間子とでは寿命が違うことが確認された。

 日本の高エネルギー加速器研究機構のBelle検出器による発見である。「反物質の寿命がわずかに短かった」(CP対称性の破れ)のである。これにより、初期宇宙の混沌の一瞬の間の「物質と反物質の対生成と対消滅」において、ほんのわずかな可能性だが反物質だけが消滅し物質だけが取り残されるケースがあり、無限に近いほどの回数の生成・消滅の果てに、「やがて宇宙は物質だけで構成されるようになった」と説明できる。

 もちろん多種さまざまな粒子群の中のわずか2つの事例であるが、他の粒子での同様の現象の発見やそもそもの寿命のずれの発生機序が解明されれば、この謎は遠からずすべてが解明されると期待されている。

 この考えは、ロシアのサハロフ博士、日本の吉村太彦博士、アメリカのワインバーグ博士らによって提唱された。

・もともと、宇宙創成直後の超高エネルギーの世界では、粒子と反粒子が対消滅、対生成を繰り返し、それらは同数あった。 
・ それらの大部分は宇宙の冷却に伴って対消滅してしまった(消滅のエネルギーが宇宙の膨張で薄まって、再度対生成できなくなった)。 
・ しかし、粒子と反粒子で反応法則にわずかな違いがあり、その差の分だけ粒子だけが残った。

 この仮説では、粒子と反粒子でそれを支配する法則がわずかに違う点が決定的に重要だ。この粒子と反粒子のわずかな違い、これを「CP対称性の破れ」と呼んでいる。この破れの本質は、未だ謎に包まれている。しかしながら、クォークが6種類以上あれば、この破れが自然に理論に現れることは、小林と益川によって指摘されている。

 CP対称性の破れ
 CP対称性の破れとは、物理学、特に素粒子物理学において、物理学の大前提となるCP対称性に従わない事象のことである。これは宇宙論において、現在の宇宙で物質が反物質よりもはるかに多いことを説明する上で非常に重要である。

 CP対称性の破れは1964年に中性K中間子の崩壊の観測から発見され、ジェイムズ・クローニンとヴァル・フィッチはその功績により1980年にノーベル物理学賞を受賞した。現在も、理論物理及び実験物理で積極的な研究が行なわれている分野の1つとなっている。

 1973年、これについて小林氏・益川氏は、もしクォークが3世代(6種類)以上存在し、クォークの質量項として世代間の混合を許すもっとも一般的なものを考えるならば、既にK中間子の崩壊の観測で確認されていたCP対称性の破れを理論的に説明できることを示した。

 クォークの質量項に表れる世代間の混合を表す行列はカビボ・小林・益川行列(CKM行列)と呼ばれる。2世代の行列理論をN.カビボが1963年に提唱し、3世代混合の理論を1973年に小林・益川の両者が提唱した。発表当時クォークはアップ、ダウン、ストレンジの3種類しか見つかっていなかったが、その後、1995年までに残りの3種類(チャーム、ボトム、トップ)の存在が実験で確認された。現在KEKのBelle実験およびSLACのBaBar実験で、この理論の精密な検証が行われている。 これらの実験により小林・益川理論の正しさが確かめられ、2008年、小林、益川両名にノーベル物理学賞が贈られた。 

Wikipedia 反物質 CP対称性の破れ
理化学研究所
基底状態の冷反水素原子の閉じこめ時間、1000秒以上に!

宇宙史を物理学で読み解く -素粒子から物質・生命まで-
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