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 太平洋海底にレアアース発見
 ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)が太平洋の広い範囲で海底の泥の中に大量に存在すると、東京大などの研究チームが発表した。採取や精錬しやすい形で存在しているとみられ、レアアース問題の解決につながると期待される。7月4日の英科学誌ネイチャー・ジオサイエンス(電子版)に掲載される。

 東大の加藤泰浩准教授(地球資源学)らによると、レアアースが多く存在すると見られるのはハワイ付近と仏領タヒチ付近の計約1100万平方キロを中心とする広い海域。水深3500~6000千メートルの海底に積もった厚さ2~70メートルの泥に含まれていた。主に公海だが、日本の排他的経済水域(EEZ)にも存在する可能性があるとみている。

 推定埋蔵量はこれまで知られている陸地の埋蔵量約1億1千万トンの800倍の900億トンとみられ、2キロ四方の埋蔵量で日本の年間需要約3万トンを満たす計算。技術的には、海底の泥を吸い上げるだけで採取でき、陸地の鉱床のような放射性元素をほとんど含まず、利用に適するという。海底で、開発が有望なレアアースの存在が確認されたのは初めて。 (asahi.com 2011年7月4日)

Rare-earth element

 低放射性、夢の海底資源
 東京大学、工学系研究科の加藤泰浩准教授らの研究グループは、南東太平洋や中央太平洋に、見た目は普通の泥にも拘らず、高品位のレアアースを含有した“レアアース資源泥が膨大な量分布していることを発見した。

 従来海底鉱物資源としては、①熱水性硫化物鉱床、②マンガンクラスト鉱床、③マンガンノジュール鉱床の3 種類のものが知られていたが、レアアースを豊富に含有した全く新しいタイプの第4 の海底鉱物資源が発見された。この“レアアース資源泥”は、(1)レアアース含有量が高いこと、(2)資源量が膨大(陸上埋蔵量の約1,000倍)かつ探査が容易なこと、(3)開発の障害となるウランやトリウムなどの放射性元素の含有量が少ないこと、(4)レアアースの回収が極めて容易なこと(薄い酸で容易に抽出可能)など、まさに夢のような海底鉱物資源。

 レアアース資源泥は水深2,500~6,000mの深海に分布しているが、このような深海の堆積物の開発に関しては、1979 年に紅海の水深2,000m に分布する重金属泥(銅・亜鉛などの硫化鉱物を多く含む深海底堆積物)について開発のプレパイロットテストがドイツの鉱山会社によって行われており、年間4,000 万トンの重金属泥の採掘・回収が想定された。それ以降、深海の泥を採掘するテストは行われていないが、現在のテクノロジーをもってすれば,2,500~6,000mの深海から年間4,000 万トンのレアアース資源泥を採掘・回収することは十分に可能と考えられる。

 これは、中国のレアアース輸出制限問題で、深刻なレアアース資源問題を解決に導く可能性がある画期的な研究成果である。今回の膨大な量のレアアース資源泥の発見は、“存在する”ということが判明しただけでも、レアアース市場を独占している中国を強く牽制する効果があり、非常に大きな意義があるといえる。また実際に開発することができれば、15~20 年で枯渇すると中国が主張する陸上のレアアース資源を完全に代替することができるので、日本のみならず世界にとっても大変に重要な資源になると期待される。

 本研究成果は英国科学誌ネイチャー ジオサイエンス電子版に7月4日2 時(日本時間)に掲載される予定。(東京大学プレスリリース)

 レアアースとは何か?
 レアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)やサマリウム(Sm)、ディスプロシウム(Dy)などの希土類元素(rare earth elements)の酸化物や塩化物などの総称である。元素の化学的性質が類似しており分離しにくいため、かつては混合希土(ミッシュメタル)として、鉄合金として使われていた。近年は分離・精製技術が進歩し、蓄電池や磁石の性能向上などに利用されている。地球上の限られた地域に偏在する資源で、国際的に中国の生産シェアが非常に高く、日本も需要の9割を中国からの輸入に依存している。

 希土類元素は、原子の構造上、原子核の周りを回る電子の配置に特殊性があり、他の元素にはない特異な化学的・物理的性質を有する。例えば、ユウロピウムなどの酸化物は長寿命で色温度が可変な蛍光体として、カラーテレビのブラウン管や蛍光灯の3波長蛍光管に使用される。日立製作所の「キドカラー」は、ブラウン管の赤色発光体に「希土」類を使って「輝度」の高い美しい色を実現したカラーテレビという意味でネーミングされた。

 この他、強力な磁石の材料、フラットパネルディスプレーの研磨剤、排ガス浄化触媒、水素吸蔵合金など様々な用途の素材として活用され、今後ますます需要が増加すると考えられている。

 例えば、ハイブリッド車や電気自動車のモーターの磁石に使われているのは、ネオジム(Nd)やサマリウム(Sm)に加え、ディスプロシウム(Dy)といわれる元素が使用され、安価で効率の良いモーターを作るのに役立っている。また、この磁石は、MRIなど医療用機器でも大活躍している。

 光学用途としては、レーザーを作るためのガラスににネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテリビウム(Yb)といった元素が使われる。これらの元素が、特殊な波長の光を励起することが出来るので、レーザー用に向いている。

 レアアースを巡る問題 
 レアアースは,我が国の最先端産業を支えるための最重要な資源だが、その95 %以上を中国一国が生産する脆弱な供給構造を持っている。2005 年以降、中国はこれまでの輸出奨励政策から規制強化政策へと急激に方針を転換したため、レアアースの供給不足や価格急騰が懸念されてきた。また昨年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけとして、中国はついにレアアースの輸出停止・制限を行い、世界中にレアアースショックを与えた。そして現在もレアアース価格の上昇は続いており、今年6 月の価格は1 月と比べると3 倍以上となっている。

 このレアアース(希土類)、なぜ中国がそんなに大量に生産してるのだろう?実は、中国といってもたった一ヶ所、モンゴルとの国境に近いバイユンオボ鉱床 (Bayan Obo)だけから生産されている。

 この鉱床が有名になる前は、レアアースは世界中で産出されていた。特にアメリカのカリフォルニア州にあるマウンテンパス鉱床が有名で、1980年代には世界の50%以上のレアアースが産出されていた。実際、バイユンオボ鉱床についで、レアアースの圧倒的な埋蔵量を誇っている鉱床だ。ほかにも、オーストラリア、ブラジルなどが著名な産地だった。

 ところが、バイユンオボ鉱床は、希土類の鉱質が地表面に出ているような状況で、要は掘るのにコストがかからない。中国のこの鉱床が出てきたおかげで、採掘コストに対して市況が安くなってしまい、他の鉱床は採算が取れなくなってしまった。それで、マウンテンパス鉱床はなんと2002年に休止、オーストラリアや他の国の鉱床も、採掘量を減らしてしまったのである。

 このバイユンオボ鉱床の圧倒的な採掘コストの安さが「レアアース中国93%依存」というおかしな状態を生み出してしまった。

参考HP Wikipedia レアアース
My life after MIT Sloan
中国がレアアース輸出規制したって怖くない理由
東京大学プレスリリース 
全く新しいタイプのレアアースの大鉱床を太平洋で発見

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