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 スピントロニクス
 ロイターによる、2011年ノーベル賞候補として挙げられたのが、東北大学の大野英男教授。大野教授の研究で一躍注目されるようになったのが「スピントロニクス」である。スピントロニクスとは何だろう?

 ほとんどの場合、これまでのエレクトロニクスは電子の電荷に基礎をおいていた。つまり「+(もしくは帯電せず)/-」を「0/1」に対応させて情報処理を行っていた。しかし電子にはもう一つ重要な性質、スピンが存在している。やはりスピンにも、「アップ/ダウン」というように二つの状態があるのだが、近年、電子スピンをエレクトロニクスに積極的に取り入れようとする試みが強まってきた。このような新しい分野を、「スピントロニクス(spintronics, spin+electronics)」などと呼んでいる。

 スピントロニクスの可能性を挙げればきりがないが、実際のところスピンという概念は分かりにくい。そこで、今回はスピンがどんなものかということを見ていこう。

Spin

 スピンエレクトロニクスは、電子が「0/1」を表現するのを、単に「+/-」から「アップ/ダウン」に変更するだけではない。スピンの特性をいかして、電荷に基づいた従来のエレクトロニクスでは不可能だったようなデバイスも実現できるようになる。

 これまでに成功したスピンデバイスにはGMR素子などがあるが、これはハードディスクの記憶容量を飛躍的に増大させた。また、数年後には不揮発性の高速メモリ「MRAM」も実用化されると期待されている。

 スピンとコマの違い
 「スピン」という言葉に対して抱くイメージは人によって少しずつ違うだろう。ただ、多くの人が「電子スピン」という言葉を聞いて思い浮かべるのは、地球の自転のように高速回転する電子の姿ではないだろうか。このイメージは電子スピンを考えるのに便利ではあるが、スピンの本当の姿を捉えたものとはいえない。まずはコマの回転(自転)と電子などのスピンとの違いについて、結論だけを先に見ておこう。

 コマの場合、はじめの力の入れ具合でいろいろな速度で回転させることができる。つまり角運動量はどんな値でもとることが許されている。また、しだいに回転速度が遅くなるにつれてコマの配向(回転軸の向き)は変化していく。これは摩擦などの影響のせいだが、とにかく重要なのは、コマの角運動量の大きさや配向は自由にとることができるということだ。

 ところが、電子や原子核のスピンはコマの場合とはまったく違うのだ。先に結論を述べてしまうと、磁場のなかでは電子のスピン角運動量はある一定の値しかとることができない。また配向は磁場に対して平行か反平行のどちらかしかとることができない。

 これがどれだけ奇妙かを理解するには、コマに当てはめて考えてみればよい。例えば、いつも同じ速度で回転し、決して倒れることのないコマといったところだろう。

 なお、スピンによって電子自身にも磁場が伴うので、スピン配向が外部磁場の向きと平行か反平行かで、電子の持つエネルギーが異なってくるのも、スピンのもつ重要な性質である。

 スピンの発見
 しかし、スピンというこの奇妙な性質はいったいどうやって発見されるに至ったのだろうか?実はこのスピンというのは、そう簡単に出てきた概念ではない。回転運動に関する従来の知識だけでは説明できない現象にぶつかったときに、物理学者たちが試行錯誤を重ねた上にやっとたどり着いた概念だったのだ。

 量子力学が産声を上げてまだ日の浅かった1920年代ごろ、物理学者たちを悩ませていた問題があった。それはナトリウムD線(トンネルの照明などに使われているオレンジ色の光)のスペクトルについてである。写真に示すようにナトリウムD線の原理は、エネルギーの高い軌道に励起された電子が再び下の軌道に落ち込むときに、失ったエネルギーを光として放出するというものである。そのため観測される光の波長は1つだけだと考えられていた。

 ボーアモデルでは、原子核のまわりに電子が、特定の軌道を回っているように描かれている。今ではこのモデルは部分的にしか正しくないことが分かっているが、少なくとも当時はこれが主流だったし、今でもよく教科書に使われている。

 ところが、実際ナトリウムのスペクトルをよく観察してみると、非常に狭い範囲で589.76nmと589.16nmという二つのスペクトルに分裂していることが分かったのだ。つまり、同じ軌道内に振る舞いの異なる二種類の電子が存在しているのだ。

 結局、多くの物理学者の試行錯誤のうえ、電子もコマのように自転していると考えた。そのように考えた根拠は次のようなものだった。(ボーアモデルによれば)電子は原子核のまわりを軌道回転しているが、これは循環電流にあたるので磁気モーメントを持つ。一方、電子はスピンによっても磁気モーメントを持つ。つまり、スピンの磁気モーメントと軌道回転の磁気モーメントが相互作用をする(スピン-軌道カップリング)。したがって、仮にスピンが図で示すように上向きと下向きの二通りの配向を持てば、二つのエネルギー状態は異なるので、電子が高い軌道から低い軌道に移るときに、二つのスペクトルが観測されうるというわけだ。

 この説明はうまくいき、実験によってスピンの角運動量は+1/2(h/2π)と-1/2(h/2π)の二通りしかとらないことが分かった。そしてのちに若年の天才ディラックが、このことを特殊相対性理論を考慮した複雑な解析によって理論的に説明した。

 スピン1/2とは何か?
 粒子は、スピンという性質をそなえている。スピンの一つのとらえ方は、軸を中心に自転している小さなコマのように粒子を想像することである。しかし、これは誤解を招きかねない。なぜなら、量子力学の教えるところによると、粒子は、はっきり確定した軸をもちえないからだ。

 粒子のスピンが本当に示してくれるのは、異なる方向から見たときに、粒子がどう見えるかということである。スピン0 の粒子は点に似ており、どの方向から見ても同じに見える(上の図(1))。一方、スピン1の粒子は矢印に似ていて、方向によって異なって見える(図(2))。この粒子は完全に一回転(360度)させたときにだけ同じに見える。スピン2粒子は二つの尖端をもつ矢印に似ている(図(3))これは、半回転(180度)すると同じに見える。

 同じようにして、もっと大きなスピンをもつ粒子は、一回転の何分の一かで同じに見えるのである。こんなことは、わかりきっていたことように思われるかもしれないが、不思議なことに、完全に一回転させても同じに見えない粒子が存在するのである。なんと、2回転させないと同じには見えないのだ! このような粒子は、1/2のスピンをもつと言われている。

 宇宙の既知のあらゆる粒子は、二つのグループに分けることができる。宇宙の物質をつくりあげているスピン1/2の粒子(フェルミ粒子)と、物質粒子間の力を生み出すスピン0,1,2 の粒子(ボース粒子)である。

 物質粒子は、いわゆるパウリの排他原理(1つの軌道には、スピンが左向きと右向きの電子が1個ずつ、計2個までしか存在することができない)にしたがう。これは、オーストリアの物理学者ヴォルフガング・パウリが、1925年に発見したものである。

 パウリの排他原理は、2つの同じような粒子は、同じ状態をとることができないと述べている。つまり、この2つの粒子は、不確定性原理の課する制限の中で、位置と速度の両方が同じになることができないのである。(アインシュタインの科学と生涯)

 固体の中のスピン
 では、実際の生活でスピンの存在を感じることはあるのだろうか?実はバルクな材料としてスピンの性質が現れることは決して多くない。確かに、固体の中には数えきれない原子が存在していて、それぞれ磁気モーメントをもっている。しかし、それぞれの磁気モーメントの向きはバラバラなのだ。先ほどスピンの配向は二つしかないといったが、あくまでそれは外部から磁場のかかっているときの話であるし、また熱の影響を無視していた。したがって通常の固体では、スピンの向きはバラバラなのである。全体としての磁気モーメントも0となる。

 しかし鉄やニッケル、コバルトなどの一部の金属は、室温しかも外部から磁場を加えない状態で、一定の領域にわたってスピンの向きがそろっているものがある。個々のスピンの磁気モーメントは互いに強め合うから、全体としての磁気モーメントは非常に大きくなる。こういった性質を「強磁性(ferromagnetism)」と呼んでいる。強磁性体とはいわゆる永久磁石のことである。この強磁性体がスピントロニクスの主役となる。

 強磁性が室温で現れるのは、隣接する原子間でd、f 軌道の不対電子を交換し合うためである。一般に半導体は室温では強磁性を示さないが、後で紹介するように、最近では半導体強磁性体の研究が盛んに行われている。

参考HP Wikipedia: スピントロニクス サイエンスグラフィック社:スピントロニクス
アインシュタインの科学と生涯:スピンとパウリの排他原理

スピントロニクス―次世代メモリMRAMの基礎
クリエーター情報なし
日刊工業新聞社
スピントロニクス理論の基礎 (新物理学シリーズ)
クリエーター情報なし
培風館

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