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 社会貢献する個人と組織
 今回、青色発光ダイオードの中村裁判を調べてみて、ノーベル賞に最も近い日本人といわれる、中村修二氏の強い信念と、これまで沈黙していた、日亜化学のものづくりに対する正当性を感じた。双方とも社会貢献を目指している点では正しいと思った。

 日亜化学の主張は、ほとんど聞いていなかったので、ノーベル賞候補の中村氏の正当性ばかり印象に残ってしまった。だが、判決後、日亜化学の小川英治氏がいっているように、主張しなければ伝わらない面はあるのだなと思った。

 例えば、ノーベル賞は論文の引用数で候補にあがる。確かに中村氏は多くの成果を論文をまとめているが、中村氏が個人で発明した研究は最初の、404特許「2フロー法による、窒化ガリウム(GaN)の結晶成長の成功」ぐらいであり、青色発光ダイオードが完成するには、天野氏・赤崎氏・松岡氏らがすでに発表済みであった窒化ガリウムについての論文や、会社の研究チームで行った、p型・n型両方の半導体の完成が必要であった。決して中村氏一人で完成したものではなかった。

Semiconductor laser

 また、青色発光ダイオードは確かに中村氏が中心になって開発が始まった、プロジェクトであるが、当然会社の経営判断があって、始まった会社の目的であること、報酬も中村氏がいっている2万円ではなく、給与の形でリターンしており、他の社員に比べて6195万円ほど多っかったこと、退職金も2000万円支払ったことなどが確認できた。

 個人のモチベーションは大切
 対して、中村氏の主張は個人の発明が社会に貢献したのだから、その見返りは当然あるべきだし、それは金額の多少ではなく、特許使用料に換算して、何%であるかを冷静に評価されるべきだというもの。これは、中村氏だけでなく、味の素のアスパルテーム開発訴訟など、多くの企業でも起きている問題でもある。あまり、日本の組織に入っている日本人はこの点を問題にしないが、米国に留学した中村氏は個人の評価に目覚めるきっかけがあったのかもしれない。

 経営の神様、P.F.ドラッカーは、組織の経営理論の中で「人が苦手なことに挑戦するのは美談だが、成果は絶対に上がらない。組織の中では適材適所で働き、自分の得意なものを徹底的に伸ばすことで最大の成果が上がる」と断定している。 

 また、ドラッカーは社会貢献した個人が、正当な報酬を得ることはモチベーションになるといっている。今回の中村氏の青色LED発明のように、社会に貢献した個人が、正しく評価されることは、やる気につながる大事なことであるし、日本の組織がさらに発展していくためにも必要なことであると思う。

 日本の社会は個人の可能性という点では、成熟した開かれた社会とはいえない。組織の中で、自分のやりたいことができないというのであれば、中村氏のように組織の外に出て、米国で可能性を伸ばす道を進むことは良いことであると思う。

 訴訟が和解し、中村氏も本来の研究生活に戻った。中村氏本来の専門は、ドラッカー氏のような発展的経営理論ではなく、研究開発である。そこで、中村氏の最近ようすを調べてみた。

 中村修二氏が語るエンジニア幸福論 
 2008年3月、インタビューで近況を聞かれ次のように語っている。
 研究は窒化ガリウムを使った青色LEDと青紫半導体レーザで、どちらも発光効率を上げようと努力しています。今はLEDで50%、レーザで30~40%といったところですが、理想を言えばどちらも100%にしたい。まあ、100%ですと熱の発生がなくなる。しかし、何にでも100%はないので、実質的な目標は90%強というところでしょうか。

 そのために同じ大学の教授10人、企業10社ほどと組んで、「固体素子発光照明センター」を設立しました。私を含めた4人が中心的な役割を担って、青色LEDと青紫半導体レーザを研究しています。今後もUCSBの中に「新エネルギーセンター」を設立する予定です。研究には資金が必要ですから、ここでも企業や国の協力を募るつもりです。

 また、私の研究室は博士課程の学生だけですが、全部で10人ほどいます。博士課程の学生対象に2時間の講義を週に2回行っています。こちらの学生たちはみんな元気ですね。卒業生たちの多くはベンチャー企業に行くか、自分で会社を興してしまう。既に3人、いやこの前ポスドクがひとり起業したから、4社が立ち上がっています。いずれも窒化ガリウムを基にしたベンチャーで、こうした会社が大学からクルマで5分程度の周囲にたくさんあります。もちろん大学も協力して、彼らは大学と連携を取りながら仕事を始めるわけです。

 日本は悲惨で、誰もが大手企業に入りたがって、優秀な人もそうでない人も「永遠のサラリーマン」をやっている。その理由のひとつは、日本が「一芸に秀でた人」を認めないからでしょう。唯一の例外がプロスポーツで、イチローや松坂大輔は「すごい」と評価されるけど、優秀なエンジニアは認めてくれない。

 例えば、化学が好きなら無理して文学を学ぶ必要はない。というより、好きなことをやっていたらほかのことなどできない。それでは中途半端な人間になると心配する人もいますが、プロアスリートは子供のころからそのスポーツだけを続けて、努力して、今の地位を築いているはずです。

 しかし、彼らは決してスポーツバカではないし、むしろ人格者であるから、勝負の結果によらず尊敬されている。それがほかの職種ではダメだという。仮に成果を出しても評価されない。「アホか」と思いますね。(Tech総研 2008.3.26)

 世界初の無極性青紫半導体レーザ開発
 米University of California,Santa Barbara校(UCSB)教授の中村修二氏を中心とする研究グループは,GaN結晶の無極性面を利用した青紫色半導体レーザを開発したと発表した(発表資料)。同研究グループによれば,GaN結晶の無極性面を利用した青紫色レーザの開発は世界初だという。

 既に同研究グループは,無極性面を利用した発光ダイオード(LED)を開発している(Tech-On!関連記事1)。「しきい値電流密度が低い無極性面の半導体レーザを開発した。現在,HD DVD装置やBlu-ray Disc装置などで利用されているc面(極性面)を利用した青紫色半導体レーザよりも,低消費電力で長寿命になる」(中村氏)と説明する。今回試作した無極性面青紫半導体レーザは,パルス発振で,しきい値電流密度は7.5kA/cm2,発振波長は405nmである。

 GaN系の青色LEDや青紫色レーザの市販品は,GaN結晶のc面と呼ばれる極性面を利用している。無極性面とは,極性面に対して法線方向の面である(図2)。極性面を利用する場合に比べて,発光効率が高まるなどの利点がある。無極性面を利用すれば,発光効率の低下の一因となるピエゾ電界を弱められるためだ。

 m面やa面といった無極性面を利用したLEDに関する研究は,中村氏を中心とした研究グループのほか,京都大学と日亜化学工業の研究グループ,ロームなどがLED素子を作成するなど活発化している。(Tech-On! 2007/01/31)

参考HP Tech総研 独占!中村修二が語る“エンジニア幸福論”
Tech On! 世界初の無極性半導体レーザー

好きなことだけやればいい
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バジリコ
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