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ついに“神の粒子”を発見か?
物質に質量がある起源とされ、理論的に存在が予言されながらまだ見つかっていない、「ヒッグス粒子」という未知の素粒子について、国際的な研究グループが記者会見を開き、「実験の結果、発見に向けて大きな進展があった」と発表した。現代物理学の大きな謎を解く、歴史的な発見の可能性が高まっている。
記者会見は、スイス・ジュネーブ郊外にあるCERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)が、12月13日に開いた。実験は2つの国際的な研究グループが行い、CERNに建設された、1周27キロ(山手線と同じ規模)の、巨大な円形をした加速器という実験装置を使い、光とほぼ同じ速度まで加速した陽子どうしを正面衝突させて、宇宙が誕生した直後のエネルギーの高い状態を再現し、そのときに生じるさまざまな粒子を観測した。
その結果、ことし10月までの実験で、ヒッグス粒子の可能性がある粒子の存在を示すとみられるデータが、2つのグループともに得られたという。これについて研究グループは、「実験に大きな進展があり、かなり興味をひくヒントが得られた。発見と言うには十分ではないが、この謎を解くのに長い時間がかかるとは思わない」として、来年中には最終的に確認できるとする見通しを示した。
「ヒッグス粒子」とは何か?
ヒッグス粒子は寿命が非常に短いと考えられている。観測できるのは、ヒッグス粒子そのものではなく、ヒッグス粒子が崩壊して生成された粒子だけである。
アトラスとCMS、2つの実験グループは116~130GeVの質量範囲で過剰な量の崩壊粒子を観測した。つまり、この範囲にヒッグス粒子が存在し得ることになる。
CERNによると、“偶然ではない可能性”は95%を超えるという。しかし、物理学の世界で正式に発見と認められるには99.99%以上の精度が求められるため、まだ“発見”には至っていない。
ヒッグス粒子探しは科学の一大テーマである。物理学の標準理論(標準模型)にとって決定的に重要だからだ。標準理論は素粒子の基本的な相互作用を非常にうまく説明することができるが、ヒッグス粒子が存在しなければそもそも成立しない。
メディアで“神の粒子”として紹介されるヒッグス粒子は、1964年に物理学者ピーター・ヒッグス氏によって存在が予言された。「電子やクオークなどの質量を持つ素粒子と、光子などの持たない素粒子が存在するのはなぜか」という謎を解くためである。
宇宙の温度がビッグバン後に急激に下がったため、真空状態だった宇宙が突然、「ヒッグス粒子の海」で満たされるという現象(相転移)が起きた。この時、素粒子はヒッグス粒子との相互作用によって抵抗を受けるようになり、それが素粒子の質量となり、飛行速度も光子より遅くなったと考えられている。
相転移とは、水が氷になるのと同じく状態の変化を指す。真空がヒッグス粒子の海で満たされるという相転移は、ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎博士が現在の宇宙の成り立ちを説明するために提唱した「対称性の自発的破れ」理論から予測された。このため、ヒッグス粒子の存在が確認されれば、南部理論の正しさを証明する物証にもなる。(2011年12月14日 読売新聞)
自発的対称性の破れと相転移
2008年にノーベル物理学賞を受賞した、南部氏の受賞した研究「自発的対称性の破れ」によると、質量が生まれたのも自発的対称性が破れて相転移が起きたからだという。
もとはクォークもレプトンも質量はなかったが、ビッグバン直後に現れたヒッグス粒子が崩壊してヒッグス場をつくると、これにクォークやレプトンは反応して、質量が生じ、動きが遅くなる。ただ光子のみがこれに反応せず、質量はないという。
例えて言えば、百メートル12秒で走れる人でも、プールの中では水の抵抗を受けてゆっくりしか走れない。この水の役割をするのがヒッグス粒子だ。
「自発的対称性の破れ」では、このように一見、常識では考えられない現象が起きる。これを「相転移」というが、身近な例をあげると、磁力のない鉄が、磁界の中で突然磁力を持つようになったり、物質を低温にすると、超伝導現象が見られたりするのが「相転移」である。
標準理論とは?
20世紀初頭まで、物質の最も基本的な単位は原子と考えられていた。人類の物質観が変わったのは、今からちょうど100年前の1911年。英国の物理学者ラザフォードが原子の中に原子核を発見したのだ。それ以降、素粒子を追い求める物理学者の努力が続き、トップクォーク、W粒子、Z粒子……と、新しい素粒子の発見が続いた。そのなかで、どうしてもとらえられなかった「最後の大物」がヒッグス粒子だった。
標準理論とは、1970年代以降、素粒子物理学で広まった理論の枠組み。素粒子物理学の三つの基本的な力すなわち強い力、弱い力、電磁力を記述する理論である。正確には、強い力の量子色力学と、弱い力、電磁力のワインバーグ・サラム理論、南部博士の理論、小林・益川理論を合わせたものなどが基礎になっている。
これらは、ゲージ理論という共通の形式をもつ。物質を形づくる基本粒子としてクオーク、レプトン各6種の計12種、力を媒介する基本粒子として光子(フォトン)、ウイークボソン(W粒子、Z粒子)、グルーオンを考える。粒子に質量を与えるヒッグス粒子も想定。
今までのところ、三つの力に関するほとんどすべての実験結果は標準模型による予言と一致する。しかし、強い力と電弱の力との統一が未達成なこと、重力を同じ枠に組み入れていないことなど、不完全な点も多い。また、ニュートリノは質量ゼロの粒子として定義しているため、ニュートリノ振動などの実験結果を説明するためには修正が必要である。
したがって、標準理論は基本的な力の完全な理論ではない。より大きい枠組みの理論をつくるため、標準理論のほころびを示す実験結果が待望されている。2003年以降、B中間子と反B中間子の崩壊時にCP対称性の破れをみる実験(Bファクトリー)で、その破れ方から、ほころびがあるらしいとの見方も出ている。
参考HP Wikipedia「ヒッグス粒子」・キッズサイエンティスト「ヒッグス粒子と質量」
![]() | 質量はどのように生まれるのか (ブルーバックス) |
橋本 省二 | |
講談社 |
![]() | 神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器 |
ポール・ハルパーン | |
日経ナショナルジオグラフィック社 |
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