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 回転型ポンプ式・人工心臓の開発
 日本人の死亡原因(死因)の1~3位は何だろう?これはご存じの方も多いだろう。1位は「がん」、2位は「心疾患」、3位は、「脳血管疾患」である。どの死因についても、改善するよう医療技術は日々進化している。

 現在、国内では約170万人が「心疾患」に罹患し、約20万人の方が亡くなっており、心疾患治療の発展は必須といえる。心疾患の中で、心筋症とは、心臓の筋肉の変性によってうまく機能しなくなり、全身が血流不足に陥った状態だ。現在は、心臓移植のみが唯一の治療法で、今のところ他には画期的な治療法はない。しかし、移植希望登録患者数が200人近くいるにもかかわらず、心臓移植は日本では年間10例以下しか実施されていないのが現状だ。

 将来的には再生医療も期待されているが、まだ実現は数十年先になる。そこでたよりになるのが、補助人工心臓だが、これも問題が多かった。機器が大きく、体の小さい人には使えない、コード類が体の内外を出入りする貫通部分が大きいため、感染症のリスクが高い、拍動型であるため、血栓症のリスクが高いことや、耐久性に問題ある等改善すべき点が多くみられるものだった。

 また、体外装置も大きすぎるため移動不可、心臓機能が回復するか、心臓移植を行うかして補助人工心臓が不要にならなければ退院は不可能だった。

 ところが最近の人工心臓は目覚ましい進化を遂げている。これまで、ベッドに縛り付けられていた心臓病の患者たちを解放し、持ち運びが可能なほど、小型軽量化に成功した。

 補助人工心臓は、心臓の働きを助ける医療機器。患者の心臓と置き換える「全置換型」と異なり、心臓を残すため心臓機能の回復も期待できる。最初に作られたのは、人工弁を開閉して血液を送り出す「拍動型ポンプ式」であったが、最近では、羽根車で連続的に血液を送り出す「回転型ポンプ式」が開発され軽量化に成功した。

 国内メーカーによる人工心臓は、サンメディカル技術研究所の「エバハート」と、テルモの「デュラハート」が開発され、国の承認を得た。「デュラハート」は羽根車を磁石の力で浮かせる、磁気浮上式で血栓の発生を抑える工夫がある。

 正月の毎日新聞では、「エバハート」の記事が、“人を幸せにする技術”として掲載された。

 人を幸せにする技術:永遠託す「命」
 心臓の筋肉が弱り、血液を全身に送り出せない「心不全」での死者は年間18万9000人(厚生労働省、2010年)。重症の場合、残された治療法は心臓移植だけ。補助人工心臓は、提供者を待つ間の「命綱」として構想された。しかし、心臓用カテーテルや人工呼吸器など治療に使う医療器具は、リスクが高い割に市場規模が小さいため、日本企業の多くが参入を見送ってきた。

 「エバハート」開発のきっかけは、東京女子医大の心臓外科医・山崎健二さん(51)が提供した。当時の補助人工心臓は本物と同じようにドクドクと脈打つ「拍動型」が一般的。構造上、大型になってしまうため、日本で承認された機種では、患者はベッドから離れることもできなかった。1989年、人工心臓の国際学会に出席した折、心機能を助けるポンプを見てふと考えた。「これを改良し、拍動せずに血液をくみ出す人工心臓ができるのでは」

 健二さんはものづくりの家系に生まれている。祖父はセイコーエプソンの前身の一つ「大和工業」の創業者。父壮一さん(79)も精密機器部品製造の「ミスズ工業」を諏訪に起こした。壮一さんは健二さんの相談に応じて、開発してくれる企業を探したが、莫大(ばくだい)な開発費と失敗のリスクを恐れてどこも引き受けようとしない。1991年の正月、山崎家に健二さんと兄の俊一さん(53)、弟の泰三さん(50)が集まって決めた。「誰もやらないなら、僕らがやろう」。壮一さんが資金を提供し、人工心臓開発のための企業「サンメディカル技術研究所」を設立。長男の俊一さんが社長に就いた。

 3人兄弟がタッグを組んでの開発が始動した。健二さんは留学先の米国から人工心臓のイメージをファクスで送り、俊一さんの研究所が設計図を作製。泰三さんが社長を務めるミスズ工業が試作品を作り、健二さんが動物で試す。「年が近く、小さな頃はけんかも多かった」(俊一さん)という3人がそれぞれの得意分野で力を合わせた。同大や早稲田大も協力した。

 開発の過程で3人を悩ませたのは、ポンプ内で血液の塊ができてしまうことだった。わずかな血液が漏れるのが原因で、固まることで脳梗塞(こうそく)などにつながりやすい。

 「2年半、寝ても覚めても考え続けた」(健二さん)ある日、庭木の葉の隅々まで葉脈が走っているのを見て「循環」という言葉が浮かんだ。どうしても漏れるなら、漏れても問題ない仕組みを作ればいい。装置内を純水が循環し、内部の血液を洗い流す仕組みが1996年に完成。製品化が視野に入った。

 完成した「エバハート」は、重さ約420グラムのポンプと重さ約2キロの体外コントローラーからなる。左胸に埋めこんだポンプ内では、羽根車(直径4センチ)が毎分約2000回転。その遠心力で左心室から血液を吸い出し、人工血管を介して大動脈に送る。拍動型が主流の海外製品より小型で軽量。子供や女性にも使え、退院して日常生活を送れる。センサーなど壊れやすい部品を体外にまとめることで、ポンプがシンプルな構造となり、長寿命化も実現した。

 「エバハート」という名前には、「(患者の心臓との)共生・融合」そして「エバー(永遠)」という兄弟の思いが込められている。「僕らの人工心臓は耐久性が非常に高く、体内で半永久的に動き続ける。移植までの『つなぎ』から、心臓移植に代わって命を支える手段になるでしょう」と俊一さん。世の中にない人工心臓を作って人の命を助けたいという思いは、はばたいて尽きることがない。(毎日新聞 2012年1月3日)

 人工心臓とは何か?
 人工心臓とは心臓の機能の代用するために用いられる人工臓器である。国際的に見て、日本の医療機器の承認には制度上諸外国で承認された機器との時間的なラグが生じるが(デバイス・ラグ)、特に人工心臓では、承認の遅れにより本来ならば助かるはずの患者の生命が失われることもありうるので、学会等でも日本の承認の遅れの問題は大きな問題として取り上げられている。

 人工心臓には、心臓を切除して埋め込まれる「全置換型人工心臓」と、心臓の機能の一部を補う「補助人工心臓」の2種類が存在する。

 全置換型人工心臓: 全置換型人工心臓は、空気圧駆動型のJarvik7が1980年代にアメリカで臨床応用されたが脳卒中などの合併症で使われなくなった。2000年代に入り、米アビオメド社が開発した電磁駆動のアビオコアが臨床使用されるようになったが、これは余命がわずかであることが判明している患者に対し、数ヶ月延命させることを目的としたものであった。

 現在アビオコアの使用は倫理的な問題から中断している。 症例数から計算すると、補助人工心臓だけで救命できる症例数のほうが多く、全置換型人工心臓は開発しても採算が取れないと言う試算もあり、現在地球上には、開発プロジェクト自体があまりないのが現状である。その中において、東京大学の研究チームは、デザイナーの川崎和男氏とともに全置換型を目指して共同開発を進めている。

 従来の人工心臓は、拍動を再現することが必要だと考えられていたために複雑な構造が必要だった。しかし、近年では簡単な構造の無拍動型の人工心臓が実績を上げつつあり、各国の研究チームが開発を競っている。

 補助人工心臓: 補助人工心臓は、心臓の働きの一部を助けるもので、空気圧駆動型のものでは、日本ゼオンと東洋紡の補助人工心臓が臨床応用されている。心臓移植までの患者の生命を維持するためにはどうしても必要な人工臓器である。

 日本では、世界に先駆けて、空気圧駆動型の補助人工心臓の製造が承認されたこともあったが、保険収載の手続きが遅れ、承認等の審査が世界的に見ても非常に遅いことが問題になっている(デバイス・ラグ)。

 「エバハート」と「デュラハート」
 埋め込み型の補助人工心臓も開発されている。2006年、ロータリーポンプを応用したサンメディカルのエバハートの治験が開始された。エバハートはモックの耐久性試験や慢性動物実験で良好な成績を収め、特に動物実験では世界記録レベルの耐久性を持ち、欧米であれば、既に臨床で市販されるだけのデータを持っている。また、補助人工心臓は純水を循環させて1μmという薄い水の膜に、回転軸受け部分の磨耗を減少させる働きをさせている。

 同じくロータリーポンプを応用したテルモのデュラハートは、欧米でのみ、治験が行われている。デュラハートの羽根車は、磁気浮上型で、これまでの補助人工心臓の弱点の一つであった回転軸受け部を磁気で浮上・回転させてポンプの働きをする。いわば、リニアモーターカーのような原理で動いている。軸受け部分とプロペラの接触がなく、磨耗の心配がない。こちらは2007年2月にヨーロッパで医療機器としての認証を受けた。

 以上が日本で開発中の補助人工心臓だが、いずれも従来のものと比較して小型化に成功している。また、素材の改良によって血栓症のリスクの低下、拍動型でなくなったことで耐久性の向上、感染症のリスクも軽減され、拍出量も増加し、これまでの短所が改善されている。

 また、耐久性の向上により、長期間の使用が可能になり、心臓移植に取って代わる可能性もある。補助人工心臓が世界で認められれば、これまで日本の医療工学の弱点であった治療機器開発の先駆けとなり、新たな転機をもたらす可能性もある。国内で開発中の医療機器の例として、カプセル内視鏡や画像支援高精度放射線治療装置などといった世界の先駆けとなりうる医療機器の開発が進んでいる。

参考HP テルモ Duraheart サンメディカル技術研究所 Evaheart Wikipedia 人工心臓

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