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 再生医療とは?
 再生医療とは、胎児期にしか形成されない人体の組織が欠損した場合にその機能を回復させる医療分野である。

 再生医療を行う手法として、クローン作製、臓器培養、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)の利用、自己組織誘導の研究などがある。将来的には遺伝子操作をした豚などの体内で人間の臓器を養殖するという手法も考えられている。

 自己組織誘導については、細胞と、分化あるいは誘導因子(シグナル分子)と、足場の3つを巧みに組み合わせることによって、組織再生が可能になるとみられており、従来の材料による機能の回復(工学技術にもとづく人工臓器)には困難が多く限界があること、臓器移植医療が移植適合性などの困難を抱えていることから、再生医学には大きな期待が寄せられている。

 最近では、ES細胞使い視力回復に成功した研究や、iPS細胞から血小板をつくる研究に成果が得られている。

ES・iPS cell

 米バイオ企業のアドバンスド・セル・テクノロジー社は1月23日、あらゆる細胞に変化できるES細胞(胚性幹細胞)から作った網膜細胞を、ものがほとんど見えない患者2人に移植して視力を回復させることに成功したと発表した。

 また、東京大と京都大のチームは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から血小板と呼ばれる血液成分を作り、止血剤として使う臨床試験(治験)を米国で計画していて、2015年に米当局への申請を目指している。iPS細胞の究極的な目標である組織や臓器の再生ではないが、別の形の先進的な臨床応用例となる。

 ES細胞で失明改善
 人体のあらゆる組織に成長する能力を持つ胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使って、失明状態と認定された患者2人の治療に成功したとの成果を、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校ジュールズ・スタイン眼研究所の研究者らがこのほど発表した。2人とも視力が劇的に改善したという。

 同研究所のスティーブン・シュワーツ博士らが、英医学誌ランセットに報告した。ES細胞を使った治療例が正式に報告されたのは初めてとされる。同博士は「暫定的な結果であり、失明の治療法が見つかったとはいえないが、再生医療における大きな前進だ」と話している。

 2例ともそれぞれ、ES細胞を患者の網膜組織に注入した。術後は拒絶反応を抑える薬を短期間投与した。

 患者の1人、スー・フリーマンさん(78)は昨年7月に手術を受けた。難病の黄斑変性症で視力が極度に低下し、1人では歩行も買い物、料理も不可能だったが、一方の目を治療した結果、すべてできるようになったという。「自分が書いた字を読むこともできるようになった」と、喜びを語る。

 2人目の女性(51)は手術から2~3週間たった朝、目覚めた時に寝室のたんすの細かい彫刻に気付き、視力の改善を実感したという。以前は見えなかったこんろのつまみが見えるようになり、目の前に示された指の数も分かるようになった。

 シュワーツ博士は、フリーマンさんらの視力が再び低下する可能性もあるとする一方、今後全米10カ所で患者12人の治療を試みるとの計画を示した。

 チームが使用したES細胞は、不妊治療で不要となり、捨てられることが決まった受精卵から採取したという。ES細胞を使った再生医療では、米バイオ企業ジェロンが2009年、民間企業として初めて食品医薬品局(FDA)から臨床試験の承認を得たものの、11年に財政難を理由に撤退している。(CNN.co.jp 1月24日) 

 iPS細胞から大量に血小板
 中村壮 iPS細胞研究所特定研究員(臨床応用研究部門)と江藤浩之 同教授(同研究部門)の研究グループは、東京大学幹細胞治療研究センターとの共同研究で、ヒトiPS細胞から大量に血小板を作製する方法を開発した。

 江藤教授らの研究グループは、ヒトES細胞(胚性幹細胞)およびiPS細胞(人工多能性幹細胞)から血小板生体外で作製する研究を進めてきた。これまでに、血小板を作製する前段階である巨核球前駆細胞のc-MYC(体細胞の増殖に不可欠な遺伝子)を最大に活性化(発現)させた後、c-MYCの発現を抑制することが、生体外で血小板を作製するのに必須であることを報告している。また、c-MYCの過剰発現は、巨核球を増加させるが、細胞死と細胞の老化も誘発することも見出した。細胞の老化とは、細胞が分裂不可能となり、減少していく状態を指す。

 ヒトiPS細胞から血小板を作製し、それがマウスの生体内で機能することも報告しているが、大量に高品質の血小板を作製する方法を開発することが課題の一つだった。

 このたび、同研究グループは、ヒトiPS細胞から巨核球細胞株を無限に増殖させることに成功し、作製された血小板がマウス体内でも正常に機能することを確認した。これは、人工的に大量に品質の良い血小板を作り出す方法の開発に貢献する成果である。

 本研究では、c-MYCとBMI1(細胞の老化を防ぐポリコーム遺伝子を過剰発現させることにより、無限に増殖する不死化巨核球細胞株を作ることができた。そして、遺伝子の発現を抑制すると、生体内で正常に機能する血小板ができることを見出している。さらに、その血小板を培養し、免疫不全マウスに注入したところ、人間の正常な血小板と同程度の寿命を持つことが分かった。

 血小板は、凍結保存ができないため長期間の保存ができず、輸血用の血小板が不足している地域もある。将来、ヒトiPS細胞から高品質な血小板を大量に作製することができれば、輸血治療用の安定的な血小板供給源になると考えられ、血液がんや再生不良性貧血などの繰り返し輸血を必要とする病気の治療に活用できる可能性がある。

 江藤教授は、今後、現在の方法を改善し、血小板の作製効率を向上させるとともに、巨核球から血小板を作り出す分子機構の解明にも取り組みたいと話している。(京都大 2011年12月11日)

参考HP 内閣府・科学技術政策 再生医療の現状と未来 京都大学 iPS細胞から血小板を大量に生産する方法を開発

再生医療生物学 (現代生物科学入門 第7巻)
クリエーター情報なし
岩波書店
先端医療をひらく(別冊日経サイエンス177) (別冊日経サイエンス 177)
クリエーター情報なし
日本経済新聞出版社

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