ビッグバン以前

 「ビッグバン」とは、現在観測されている宇宙の膨張が始まった時点を指す。その時刻は今から137億年前と計算されている。

 1929年、エドウィン・ハッブル(1889-1953)は、近い銀河ほどゆっくり、遠い銀河ほど早く遠ざかっており、距離とスピードは比例することをアメリカのウィルソン山天文台で発見した。宇宙は膨張していることがわかったのだ。現在から過去へ遡れば、宇宙の初期には全ての物質とエネルギーが一カ所に集まる高温度・高密度状態にあったことになる。この初期状態、またはこの状態からの爆発的膨張をビッグバンという。

 最近、このビッグバン以前に宇宙があり、その痕跡を発見したという研究が発表された。発表したのは、イギリス、オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏とアルメニアにあるエレバン物理研究所のバヘ・グルザディアン(Vahe Gurzadyan)氏。


CMB

 目に見えないが、宇宙にリング状のパターンがある。これは、ビッグバン以前の宇宙でブラックホール同士が衝突し、リングが生まれた可能性があるという。ビッグバン以前に宇宙が存在した痕跡だと主張する。もしこの理論が正しければ、宇宙は絶え間なく再生しており、現在の宇宙はその“最新版”にすぎない可能性がある。その証拠が初めて示されたというのが今回の主張だ。

 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)
 1965年、アメリカのベル電話研究所の電波科学者ペンジャスとウィルソンは、宇宙のあらゆる方向からやってくるマイクロ波の電波雑音をとらえた。これが宇宙背景放射で、波長1ミリメートルあたりがもっとも強く、そのスペクトルは絶対温度3℃(3K)、つまり-270℃の黒体放射である。

 これは、とても密度が高く熱いものだった昔の宇宙が、その膨張につれて温度が下がり、3Kまで冷えたと解釈できることから、ビッグバン宇宙論を支持する根拠になっている。

 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を新たに分析した結果、リング状のパターンが発見された。CMBはビッグバンの名残で、現在は宇宙の全域に広がっている。リングの多くはまるで波紋のように、入れ子になっている。その内部は、CMBのほかの部分と比べ温度がより一定である。

 2つのブラックホールが衝突すると、重力波と呼ぶエネルギーの波動が発生すると考えられている。ブラックホールの質量が大きいほど、波の数は増え、強力になる。重力波は時空の構造をゆがめる。ペンローズ氏とグルザディアン氏によれば、その痕跡としてリング状の模様を残す可能性があるという。

 天体物理学者の間からは異論も出ている。

 カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学のジェームズ・ジビン(James Zibin)氏は、「さまざまな変遷を経ても、波紋が残りつづけるというのは奇妙に感じる。ほかにも細部の甘い点がいくつも見られる」と指摘する。

 ブラックホールの合体でCMBリングが発生?
 ペンローズ氏は数年前から、宇宙の循環モデルを温めてきた。その理論によれば、現在の宇宙を生んだビッグバンは前例のない現象ではない。少なくともそれ以前に1度は発生し、現在とは異なる宇宙を生み出した。その前にも数え切れないほどの宇宙が存在した可能性があるという。

 ペンローズ氏は宇宙の1周期を「イーオン(aeon)」と呼んでいる。1イーオンは想像を絶するほど長く、現在の宇宙の年齢137億年をはるかに凌ぐという。イーオンはビッグバンとともに始まる。そして、均質で希薄な粒子の海だった生まれたての宇宙が、銀河や恒星、惑星、生命といった複雑な構造へと進化していく。その間、おそらく謎めいた暗黒エネルギーによって宇宙は加速度的に膨張する。暗黒エネルギーは現在の宇宙でも時空を膨張させている。

 ペンローズ氏の理論によると宇宙のすべての物質は、天の川銀河をはじめとする大銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールに吸い込まれる運命にある。超大質量ブラックホールは物質を吸い込むごとに成長し、衝突による合体でさらに巨大化する。理論では、この衝突によって発生する重力波がCMBのリングを生み出すという。

 CMBのリングの存在に関しては、反対する者はない。ペンローズ氏らの研究に反論する論文を書いたブリティッシュ・コロンビア大学のジビン氏も、「リングの存在については支持する」と述べる。「われわれが異議を唱えているのは、リングの意味の解釈だ」。

 ペンローズ氏の循環モデルには、「インフレーション」と呼ぶプロセスが含まれていない。インフレーション理論によれば、初期宇宙は急激な膨張を経て、現在の大きさ、形を手に入れたという。インフレーションは、ビッグバン理論が持つ多くの問題を解決する。その中には、CMBの研究によって浮上した問題も含まれている。

 しかし、ペンローズ氏は、「現在の宇宙が生まれる前に別の宇宙が存在し、やはり加速度的に膨張したのだとしたら、インフレーションは必要ない」と主張する。

 「前のイーオンで宇宙は加速度的に膨張し、その結果、均質になった。これがインフレーションの代わりになると考えているようだ」とジビン氏は説明した。今回の研究成果は、コーネル大学図書館が運営するWebサイト「arXiv.org」で2010年12月に公開された。(Ker Than for National Geographic News December 28, 2010)

 ハッブルの法則とは何か?
 銀河は宇宙の中にただ散らばっているだけではなく、動いている。その動きに重要な特徴があることを発見したのがエドウィン・ハッブル。その特徴とは、宇宙はそれ自体膨張しており、銀河はお互いに遠ざかるように動いているということ。1929年、エドウィン・ハッブル(1889-1953)は、近い銀河ほどゆっくり、遠い銀河ほど早く遠ざかっており、距離とスピードは比例することをアメリカのウィルソン山天文台で発見した。

 エドウィン・ハッブルはまず、ウィルソン山で全天の銀河を観測し、遠方の銀河の光の波長がすべて引き伸ばされ、実際の色よりも赤く見える(赤方偏移)ことを発見した。そして、遠方の銀河までの距離と、その赤方偏移の度合いを計算し、その間に一定の比例関係があることを見出した。これは、「遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっている」ということであり、宇宙はつねに拡大しているという膨張宇宙論を証明する法則だった。

 この発見を「ハッブルの法則」といい、これはそれまでの宇宙観を根底から覆すものだった。というのは、当時は宇宙は無限の過去から未来永劫、不変なものだという考え方が支配的だったからである。ところが、エドウィン・ハッブルの発見によって宇宙にも変化があることがわかったのだ。(宇宙百科事典)

 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)とは何か?
 1965年、アメリカのベル電話研究所の電波科学者ペンジャスとウィルソンは、宇宙のあらゆる方向からやってくるマイクロ波の電波雑音をとらえた。これが宇宙背景放射で、波長1ミリメートルあたりがもっとも強く、そのスペクトルは絶対温度3℃(3K)、つまり-270℃の黒体放射であった。

 その後、この放射は非常に高い精度で一様、かつ等方的で、とびぬけて大きいエネルギーを持つことがわかった。このことは、とても密度が高く熱いものだった昔の宇宙がその膨張につれて温度が下がり、3Kまで冷えたと解釈できることから、ビッグバン宇宙論を支持する論拠となっている。

 1989年11月、NASA(アメリカ航空宇宙局)は宇宙背景放射を電波望遠鏡で正しく測定するために探査機コービー(COBE)を打ち上げた。1992年4月に公表された観測結果によると、背景放射の絶対温度は2.735Kであり、黒体放射からのずれは1/1,000以下であることが明らかになった。また、コービーは背景放射の異方性(空間的ゆらぎ)の測定を行い、10度離れた方向からの強度差は、温度に換算して1/10万の違い(ゆらぎ)であることを発見している。

 ビッグバン直後の宇宙は非常に高温だったが、宇宙の急激な膨張で温度が下がった。その温度が3,000Kになった時点で、それまで高温のために伝播できなかった光子があらゆる方向に伝播できるようになったと考えられている。つまり、この時期に放出され、約150億年かけて到達した光を、私たちは現在観測しているわけ。3,000Kあった温度は、光の移動の間に2.735Kまで下がったと計算されている。(宇宙百科事典)

参考HP National Geographic news ビッブバン以前の宇宙の存在に新説 宇宙百科事典 宇宙背景放射 ハッブルの法則

始まりの科学 宇宙、銀河、太陽系、種、生命、そして人類まで (サイエンス・アイ新書 36)
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ホーキング宇宙の始まりと終わり―私たちの未来
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