バイキングによる生物探査
 1970年代中盤に行われたバイキング計画の主要な目的は、火星の土壌中の微生物を検出する実験を行うことだった。4つの実験が行われたうち、放射性同位体で標識した元素を用いた実験だけが有意な結果を出し、14CO2の濃度の上昇が見られた。科学者はこのバイキングの実験から2つの事実について合意を得た。1つは、検出された14CO2はこの実験で使われた元素から生成したこと、もう1つは、ガスクロマトグラフ質量分析計は有機分子を検出しなかったことである。しかし、これらの事実をどう解釈するかについては、大きな違いがあった。
 
 実験の計画者の1人であるギルバート・レヴィンは、実験の結果は火星の生命の確定的な証拠だと信じていた。しかしこの結果は、土中の活性酸素によって生物なしでも同じことが起こりうるとする多くの科学者によって異議を唱えられた。またガスクロマトグラフ質量分析計は天然有機物を検出するために設計され、有機分子を検出するものではなかったため、この実験のデータは生命の証拠として合意を得ることはなかった。火星の生命に関するバイキングのミッションの結果は、専門家の分析では“決定的ではない”と評価された。

 果たして火星に生命は存在するのだろうか?火星は約40億年前に磁気圏を失ってしまったため、火星の電離層は太陽風や放射を遮ることができず、このため生命にとっては厳しい環境となっている。しかし、最近の探査で「水」があることは確実になっている。

 2004年3月、NASAは探査機オポチュニティが、火星は過去に液体の水が存在する惑星であった証拠を発見した。2004年1月、欧州宇宙機関(ESA)はマーズ・エクスプレスを用い、火星の南極付近で大量の氷の蓄積を直接的に検出した。また、2005年7月28日、ESAは火星の北極付近で地表面の氷を撮影することに成功した。

 2008年5月には、火星の北極の平原に着陸したNASAの探査機フェニックスが、地表面近くに氷の存在を確認した。これは、探査機の掘削アームに付着した明るい色の物質が3、4日で蒸発し、無くなったことで確認された。これは、掘削によって露出した表面付近の氷が、大気への露出によって昇華したためと考えられている。

 これらの観測の結果、火星に水が存在するのは、確実になった。そして、再度バイキング計画の結果が見直されることになった。

 火星の生命、30年前に発見?
 NASAのデータを新たに分析したところ、30年以上前のロボット探査ミッションにおいて、火星に微生物が存在する痕跡が見つかっていた可能性が示唆された。

 1976年、NASAは2機の探査機バイキング1号・2号を火星へ送り込んだ。この赤い惑星に生命が存在するのかを確かめるべく、探査機は3つの実験装置を搭載していた。その1つが、標識放出(Labeled Release:LR)装置と呼ばれるものだ。

 LR実験では、火星の土壌を採取し、これに栄養素と放射性炭素原子を含んだ水が少量加えられた。土壌中に微生物が存在すれば、栄養素を代謝して放射性二酸化炭素またはメタンガスを放出するはずであり、それが探査機に積んだ放射線検出器によって計測されるというわけだ。

 同時に、複数の対照実験も行われた。火星の土壌サンプルを数種類の温度まで熱したり、また別のサンプルを光のない環境に何カ月も置いたりといった実験だ。このような条件下では、光合成をする微生物、または光合成生物に依存する微生物は死滅するはずだ。これら対照実験用のサンプルにも、栄養素を溶かした水が添加された。

 その結果、LR実験は生命の存在を示し、対照実験は生命の存在を示さなかった。この結果に、当時の多くの生物学者が歓喜した。

  「栄養素が土壌サンプルと混ざったとき、1分当たりの(放射性分子の)数値は1万カウントほどになり」、火星の自然なバックグラウンド放射線の数値である(毎分)50~60カウントから急増したと、今回の研究に参加した南カリフォルニア大学(USC)の神経生物学者ジョセフ・ミラー(Joseph Miller)氏は述べている。同氏は以前、NASAのスペースシャトル計画のディレクターを務めた経験もある。

 しかし残念なことに、バイキングが行った他の2つの実験は、LR実験の結果を裏付けるものではなかった。他の2つの実験は生命の存在を示さなかったため、NASAは生命存在の可能性は認められないと結論づけた。

 今回の研究では、データを生物の痕跡と非生物の痕跡とに分類する数学的手法を用いて、バイキングが収集したLR実験のデータを解析した。その結果、ミラー氏のチームは、LR実験は火星の土壌から微生物の痕跡を確かに発見していたとの結論に達した。

 火星のデータをクラスター解析
 今回の研究でミラー氏はイタリア、シエナ大学の数学者ジョルジオ・ビアンチャルディ(Giorgio Bianciardi)氏とともに、クラスター解析と呼ばれる手法を用いた。類似したデータ集合同士をグループ分けする解析手法だ。

 「(バイキングが行った実験および対照実験の)全データをクラスター解析を用いて分類した。その結果、2つのクラスターが生じた。1つは生命の存在を示した2度の実験データからなるクラスター、もう1つは5度の対照実験データからなるクラスターだ」とミラー氏は述べている。

 結果の正当性を裏付けるため、研究チームは、地球の生物由来であることが確実な計測データ(ラットの体温計測データなど)、および非生物由来の純粋に物質的な計測データを用いて、これらをバイキングのデータと比較した。

 「地球の生物由来のデータはすべて、生命の存在を示したバイキングの実験データと同じクラスターに分類され、非生物由来のデータはすべて、対照実験のデータと同じクラスターに分類された。きわめて明快な結果だ」とミラー氏は述べている。

 ただし、この結果だけでは、火星に生命が存在する証拠にならないことは研究チームも認めるところだ。「生命の存在を示した実験と対照実験のデータには大きな違いがあることがわかったにすぎない」とミラー氏は述べている。

 “火星の概日リズム”の証拠
 それでも、今回の結果はミラー氏が以前に行った研究と整合する。先行研究では、バイキングのLR実験の結果から、火星の概日リズムの兆候が見出された。

 概日リズムは、微生物を含め、あらゆる既知の生物に内在する時計であり、歩行、睡眠、体温調節などの生物学的プロセスの制御に役立っている。

 この時計は、地球上では24時間周期となっているが、火星では火星の1日の長さと同じ約24.7時間周期となるはずだ。

 先行研究においてミラー氏は、LR実験における放射線の計測数値が、火星の1日の長さと同じ周期で変動していることに気づいた。

「詳しく見てみると、(放射性ガスの計測数値が)日中には上がり、夜間には下がっているのがわかる。(中略)この変動周期は24.66時間で(火星の1日と)ほぼ同じだ」とミラー氏は述べている。「これは概日リズムと言ってよく、そして概日リズムは生命の存在を示す十分な兆候だとわれわれは考えている」。

 NASAの次の火星ミッションとなるマーズ・サイエンス・ラボラトリ、愛称「キュリオシティ(Curiosity)」は、2012年中に火星に到達する見込みだ。ミラー氏は、この火星探査車が自分たちの説を裏付ける証拠を見つけてくれると期待している。

「(火星の生命に関する)仮説を直接検証することはないだろうが、メタンを検出することは可能なはずだ。大気中に放出されるメタンに概日リズムが認められれば、われわれの研究結果と十分に一致する」とミラー氏は述べている。

 火星の生命に関する今回の研究成果は、「International Journal of Aeronautical and Space Sciences」誌のオンライン版に掲載された。(Ker Than for National Geographic News April 16, 2012)

 その他の火星生命の証拠
 隕石: 火星からの隕石の沈着物が火星の過去の生物の痕跡を証明しているか否かの解釈については議論があるが、生物学者の関心を惹きつけてきた。アメリカ航空宇宙局(NASA)は少なくとも57個の火星隕石のカタログを所持しており、入手できる唯一の火星の物理的なサンプルとして非常に貴重である。研究により、少なくとも3個に過去の火星の生命の痕跡が認められ、火星に生命がいるという推測が大きくなった。得られた科学的な事実は信頼できるものであるが、その解釈は様々である。これまで、誤解を招く報道発表等は幾度もあったが、科学的事実自体に致命的な誤りが指摘されたことは一度もない。

 メタン: 火星の大気中の痕跡量のメタンが2003年に発見され、2004年に証明された。大気中にこのレベルで存在するためには惑星上に供給源があるはずであり、この発見はとても興味をもたれた。火星は1年当たり270トンのメタンを生産していると見積もられたが、小惑星の衝突による分はそのうち0.8%にしか過ぎない。蛇紋岩のような地質が供給源になることも考えられるが、現在は火星に活動中の火山、熱水噴出孔、ホットスポット等は見られず、地質的な供給源は考えにくい。そこでメタン菌のような微生物による供給の可能性があるが、まだ証明されてはいない。もし火星の微生物がメタンを生産しているとすると、水が液体で存在できるほどの高い温度がある地中深くに生息している可能性が高い。

 ホルムアルデヒド: 2005年2月、ESAのマーズ・エクスプレスに搭載された全球フーリエスペクトロメータ(PFS)が、火星の大気中に痕跡量のホルムアルデヒドを検出したと発表された。PFSの責任者であるビットリオ・フォルミサーノは、ホルムアルデヒドはメタンが酸化された際の副生物であり、火星が地質的に活性であるか微生物の群集が存在することの証拠であると推測した。NASAの科学者は、この発見は十分に検証する必要があると考えたが、生命の存在については否定的な見解を表明した。

 ケイ素: 2007年5月、探査機スピリットは土に車輪が嵌って動かなくなった。この場所には90%以上の豊富なケイ素が存在した。この特徴は、温泉の水か火山からの蒸気の効果を連想させるものであり、過去の環境が微生物の生育に適したものであったことが考えられた。ケイ素は、水の存在下で土壌と火山からの酸性の蒸気が反応した結果生じたか、または温泉の水から生じたとする仮説が立てられた。

参考HP Wikipedia 火星の生命 National Geographic news 火星の生命、30年前に発見? 

火星の生命と大地46億年 (KS一般書)
クリエーター情報なし
講談社
未知なる火星へ 生命の水を求めて [DVD]
クリエーター情報なし
Happinet(SB)(D)

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