探査船「ちきゅう」が最深掘削7740メートルの世界記録
 地球に掘った穴で、世界一深い穴はどのくらいあるのだろう?地上では深さ12キロメートルが最高だ。地球の半径は6500キロメートルあるから、そのわずか約500分の1しかない。この穴は、ソ連のコラ半島というところにある。北極海に突き出した半島で、ソ連の西北の端に近いところ。この穴はいまも掘っている最中である。目的の1つは科学技術振興のため。

 では、海底に掘った穴で、世界一深い穴はどのくらいだろう?地上を掘り進めるより、海底の地殻は薄くなっている。地球の中を調べるのには好都合である。

 日本大震災を起こした「東北地方太平洋沖地震」の震源域を掘削調査している地球深部探査船「ちきゅう」が、海底から地下856.5メートルまでドリルを掘り進め、海面下7740メートルの世界最深掘削記録を作った。海洋研究開発機構が4月27日に発表した。これまでの記録は、1978年に米国の「グローマー・チャレンジャー」号がマリアナ海溝チャレンジャー海淵で達成した7049.5メートル(海底までの水深7034メートル、海底下掘削15.5メートル)だった。

Chikyu

 海洋研究開発機構は、日米など25カ国が参加する「統合国際深海掘削計画」の一環として、「ちきゅう」を用いた「東北地方太平洋沖地震調査掘削」を4月1日から5月24日までの予定で行っている。掘削の目的は、巨大地震を引き起こしたプレート境界断層を構成する岩石の種類や物性を明らかにすること、断層がずれて発生した摩擦熱の温度変化を直接計測することだ。

 実際の掘削作業は、宮城県・金華山沖約220キロメートルの日本海溝で、ドリルパイプ(長さ9.5メートル)を継ぎながら海底下約1000メートルまで2種類の孔(A孔、B孔)を掘削する。A孔では、ドリルパイプの先端部に各種計測センサーを取り付け、掘削しながら地層物性の計測を行う(「掘削同時検層」)ほか、開けた孔内に最大55個の温度計からなる計測システムを設置する。B孔の掘削では岩石コア試料を採取し、孔内に最大21個の温度計と2個の水圧計からなる計測システムを設置する。これらの計測システムで得られたデータは、今回の航海後に、無人探査船「かいこう7000Ⅱ」で回収する。

 世界最深の記録はA孔の掘削で達成されたもので、海面下6883.5メートルの海底から856.5メートルまでを掘削し、同時検層も完了した。次に、近傍でのB孔の掘削作業に入るという。(サイエンスポータル 2012年5月2日)

 今なぜ、海底掘削か?
 実際に地震を起こした場所を調べる。それが目的である。いつどこで起こるかしれない巨大地震の巣窟を探るのだ。いつまでも地震が起きるのを、指をくわえて見ているわけにはいかない。人類は永遠に挑戦を続ける存在だ。

 「ちきゅう」は、日本・米国が主導する統合国際深海掘削計画(IODP)において中心的な活躍をしている科学掘削船(深海掘削船)である。巨大地震・津波の発生メカニズムの解明、地下に広がる生命圏の解明、地球環境変動の解明、そして、人類未踏のマントルへの到達という壮大な科学目標を掲げている。

 海洋石油掘削に利用されるライザー掘削システムを採用しており、水深2,500mの深海域で、地底下7,500mまで掘削する能力を備えている。世界最高の掘削能力であり、マントル物質や巨大地震発生域の試料を採取することができる。掘削機器には最新鋭のものがそろっており、ほとんど全自動なので今まで問題となっていた怪我が皆無である。

 今回は、東北地方太平洋沖地震で大きな滑りが伝播したと考えられている日本海溝の海溝軸付近において、地球深部探査船「ちきゅう」による深海科学掘削を行い、実際に巨大地震を引き起こしたプレート境界断層を構成している岩石の種類と物性を明らかにするとともに、断層面及び付近の摩擦熱の温度変化を長期にわたり直接計測することを目的としている。

 プレート境界断層で発生した摩擦熱は、地震発生後2 年ほどで周囲の地層に奪われ、計測が困難となる。また、プレート境界断層を構成する岩石も変質し、摩擦特性の分析が極めて困難になるため、早期の調査・研究が必要。海溝型地震において地震発生後早期にプレート境界断層の温度計測を実施することは世界で初めての試みとなる。 

 これにより、海溝軸付近まで大きな滑りが伝播したことを実証した上で、巨大地震発生時のプレート境界断層の摩擦特性(断層が高速で滑ったときの摩擦熱、断層帯の岩石の化学的性質、間隙率等)を分析し、巨大津波を発生させた海溝軸付近でのプレート境界断層の滑りのメカニズムを明らかにする。

 本航海により得られるプレート境界断層の摩擦特性に関する知見を、プレート境界断層の滑り量シミュレーションに活用することで、東海・東南海・南海地震等、他の海溝型地震による地震・津波の想定に寄与することが期待される。

 世界初を成し遂げた経験を生かして 
 東日本大震災を引き起こした巨大地震と津波の発生メカニズムを調べるために海底深くに温度計などのセンサを設置する計画が動き出した。技術的には南海トラフでの長期孔内観測装置設置の経験が活かされるが、環境が異なるため、まったく同じようにはいかない。今回の調査を確実に成功させるために、どのような工夫がこらされているのだろうか。 (2012年3月掲載)

 「岩盤と岩盤が擦れると摩擦熱が生じます。付近の岩石の温度はその熱を受けて上昇し、徐々に元の状態に戻ります。滑りのエネルギーが大きいほど温度も高くなるので、断層付近の温度を計測すれば、どの程度の滑りが起きたのかを知るヒントになります」

 こう語るのは地球深部探査センター開発グループのグループリーダー、許正憲氏。東北地方太平洋沖地震調査掘削プロジェクトにて、掘削孔内部への観測装置の設置を担当している。

 今回のプロジェクトは南海トラフ地震発生帯での長期孔内観測装置の設置がベースになっている。このときは掘削孔に通したケーシングパイプの内側に歪計や温度計など合計7種類のセンサを設置した。海底下の1つの孔内にこれほど多数のセンサを設置して長期観測するのは世界で初めてだった。長期孔内計測システム開発プロジェクトマネジャーだった許氏は当時の苦労をこう振り返る。

 「南海トラフは黒潮のために流れが速く、水中の振動も激しい場所。高精度のセンサは衝撃に弱いので、設置作業は慎重に進めなければならず、事前に実海域で試験もしました」

 このときの観測1号機の設置完了は2010年12月のこと。それから3カ月後の3月11日に東日本大震災が発生した。ほどなく震源域への観測装置設置の検討が始まる。南海トラフの場合は準備に約2年かけたが、震源域の状況は刻一刻と変化するので、観測開始は一日も早い方がいい。5月頃には統合国際深海掘削計画(IODP)への研究プロポーザル提出へ向けた議論が本格的に開始された。通常は評価に数年以上かかるところ、緊急掘削提案として集中的な検討を行い、8月には研究提案にGOサインが出た。

 「科学的意義、社会的意義の大きい研究だと思います。今回の震災は世界的にも関心が高く、乗船研究者を募ったところ、想像以上の応募があったと聞いています。これほどの期待を背負っている以上、我々は確実に成功させなければなりません」

 観測を成功させるために、研究チームは温度の計測をメインに据えた。温度センサは他のセンサと比べてシンプルで扱いやすい。また、設置にあたっては南海トラフの黒潮で苦労した経験が存分に活かされるという。

 地上の針に糸を通すような作業
 今回のプロジェクトでは水深7,000mの地点に直径約27cm、深さ1,000mの孔を2つ掘削する予定だ。第一の掘削孔では温度を計測し、第二の掘削孔では温度と圧力の計測を目指す。最優先に位置付けているのは第一の掘削孔。こちらは設置する温度センサの数が55個と多く、きめ細かなデータ収集が期待される。両方の掘削孔で温度を計測するのは、複数の計測方法を用意しておくことでデータ回収の確実性を高めるためだ。また、第二の掘削孔では温度と圧力のデータを同時に取ることにも意味がある。

 「地殻変動の痕跡は地層流体の圧力変化からも見て取れます。つまり、圧力を計測すれば流体の挙動がわかり、地殻の動きもわかるのです。そして温度とともに計測することで、より深い現象の理解につながると思います」

 これらすべてのデータを回収できるのが理想だが、まずは計画通りに観測装置を設置しなければならない。難しいのは、南海トラフの掘削孔が水深2,000mだったのに対し、今回は7,000mと非常に深いこと。そこに直径約14cmのパイプを用いて観測装置を設置するのである。

 この作業がいかに大変なことかは100分の1に縮尺して考えてみるとわかる。水深7,000mを高さ70mのビルに換算してみよう。1フロア4mなら18階建てのビルだ。その屋上から地上にある直径3ミリメートルの孔に目がけて、直径1ミリメートルの糸を垂らす。糸は風で揺れるし、距離があり過ぎて糸の先端をミリ単位で調整するのは不可能に近い。

 「確実に作業するには孔の付近を見る“目”が必要です。南海トラフでは遠隔操作する無人探査機(ROV)を深海に潜航させて、掘削孔周辺をモニタリングしながら作業しました。ただ、「ちきゅう」に通常搭載しているROVは水深3,000mまでしか潜れませんから、今回は光・電気複合ケーブルに接続したフレーム構造に水中カメラを装備し、ドリルパイプに沿わせて降下させ“海底を見る目”とします」

 今世紀に入って最大の自然災害と言われる東日本大震災。この計測装置によって、巨大地震と大津波を発生させたメカニズムが解き明かされる日が待たれる。

 ちきゅう」の最大の目的は、マントルに到達してコアを採取することだが、温度250℃、圧力1000 気圧以上にもなるため、現状の技術では困難である。また、マントルは非常に硬く掘削に時間がかかると予想されるため、掘削スピードも同時に上げていかなければならない。高温のコアを熱いまま、できるだけ状態を変えずに採取することも、大きな課題の一つだ。

参考HP 地球発見Webマガジン:海面下8000mにセンサーを設置摩擦熱から巨大地震を探る JAMSTEC:地球深部探査船「ちきゅう」

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