海から電気を作り出す
 日本の領土は世界第61位で、377,930平方キロメートル。世界の陸地のうちわずか 0.25%しかない。しかし、海の広さは領海と排他的経済水域を合わせた広さで世界6位となる。さらに、その全海水量を計ると、世界で4位の海水量になるという。これは凄い事だ、これを活用しない手は無い。(日本は世界4位の海洋大国 山田吉彦著)
 
 先日、海洋を利用した“風レンズ”風力発電をこのブログで紹介した。陸地に風車をつくる場合と違い、広い海洋というスペースを利用したものであった。しかし、海洋には海洋の持つエネルギーもある。それが波力、潮力などの海洋エネルギーだ。日本では、海洋発電の実用化は遅れているが、イギリスでは実用化目前だ。

 5月10日NHKクローズアップ現代で放送した「海から電気を作り出せ」では、机上の空論と思われた海洋エネルギーが、実際の電力になることをわかりやすく伝えてくれた。

Pelamis Wave Power

 原発事故を受けて、さまざまな自然エネルギーに注目が集まっている。波や潮流の力を利用する「海洋発電」は、同じ自然エネルギーである太陽光や風力よりも安定して発電できるとされている。このため欧米では数年前から実用化を目指した開発競争が始まっており、特にイギリスは数々の優遇政策をもうけ開発をリード。試験的に電力供給も始めている。

 EU全体では2020年までに海洋発電で原発およそ5基分の電気をまかなう計画だ。一方、日本は、まだ国の導入目標はなく、開発環境も整っていない。実用化を目指す日本企業は苦戦を強いられており、その1つ、川崎重工は、日本を離れイギリスで技術開発・実用化を進める決断をした。

 海洋発電、イギリスの開発現場
 イギリス・スコットランド地方のオークニー諸島。ここに、海洋発電開発の一大拠点がある。ヨーロッパ海洋エネルギーセンターである。日本の企業として初めて大手重工メーカー、川崎重工がここで開発を進めることになった。発電装置の試験を行い、実用化の足がかりにしようというのだ。

 開発チームのリーダーは、平松秀基さん。平松さんたちは、潮の流れを利用して発電する装置を設計している。来年には、直径18メートルのプロペラを持つ発電装置を海に設置して実験を始める予定。なぜ、平松さんたちは日本でなく、イギリスで実験をするのか?それは実用化に向けた開発環境が世界で最も整っているからだという。

 日本で、新しい実験場所を探して県庁を訪れたところ、県の協力は取り付けても、漁協をはじめ、関係する組織との調整の重要性を指摘される。ある企業が、10年間、実験の相談に30か所以上の地域を訪ねた。実験にこぎ着けたのは、まだ2か所だけだ。

 海は管理する組織が多く、権利が複雑。自治体や漁協をはじめ、関係する国の省庁などからの了解も必要。調整に時間がかかるうえ1か所でも反対があれば実験はできない。これに対し、イギリスは国家プロジェクトで、実験海域を確保している。

 平松さんの実験海域の近くでは、すでに、ほかの企業が実験を行っていた。潮の流れの中に設置されたやぐらだ。6年前から実験を続けているという。直径6メートルの大きなタービンが回転している。潮の満ち干(ひ)で生じる海水の流れを捉える潮流発電装置だ。

 海洋センターでは現在10を超える発電装置が開発されている。装置の性能が認められると電力会社と契約できるため開発競争がさらに激しくなっている。

 海洋発電、イギリスの戦略
 イギリス政府が実験場の整備など海洋発電開発の支援に乗り出したのは9年前。海洋発電を、自然エネルギーの柱の一つにしようと考えたからだ。

 イギリス エネルギー・気候変動委員会 ティム・ヨウ会長はいう。「私たちは2020年までに自然エネルギーを全電力の15%にします。短期的には風力ですが、長期的には海洋発電でまかなおうと考えています。なぜなら、信頼性が高く、電子力や化石燃料と同じ安定した電源として使えるからです。」

 国の手厚い支援により装置が大型化し、実用化に迫るものも登場しています。これは波の力で発電する装置。長さ140メートルもある。名前はペラミス。うみへびという意味だ。

 1基でおよそ1000世帯分の電気を生み出せる。大型化して発電量を増やしたことで相対的に発電コストも下がったという。どんな仕組みで発電をしているのか、中を特別に見せてもらった。内部は筒のような構造で発電に関わる装置が所狭しと並んでいた。

 「あそこに見えるのが油圧を使ったピストンの1つです。」このピストンが発電の要だ。波で揺れると黒いチューブの部分が伸び縮みする。それに合わせてチューブにつながる青いピストンが左右に動く。そしてピストンの中の油を圧縮。その力で発電機を回す。

 ペラミスを開発した会社は3人の研究者が14年前に設立。模型の実験から始めた。その後、政府などから開発資金の支援を受けて90億円という巨額の資金を調達。どんどん大きな試作機を作り上げてきた。今、耐久性と発電効率をさらに上げる調整を行っている。数年後には、発電コストも、普及が進む風力発電に迫るとしいう。

 発電コストとともに重要なのが電気の安定性です。電力会社による検証実験も始まっていました。4年前に設置されたこの潮流発電装置。生み出した1500世帯分の電気は岸辺の変電所で電圧を整え実際に送電線に乗せて街に届けている。検証の結果この発電装置の稼働率は風力発電の2倍。
天候の影響をほとんど受けず、安定した電気を供給できることが確かめられたという。

 電力会社 ゼネラルマネージャー リアム・モイロさんはいう。「今の海洋発電は、20年前、普及を始めようとしていた時の風力発電と同じ勢いを感じます。現在は、商業化する一歩手前まで来ていて、我が社では2030年頃には40万から50万キロワット規模の商業運転を行っていることになるでしょう。」

 海洋発電、日本の課題
 東京大学、東京大学生産技術研究所の木下健教授。「15年前までは、国のプロジェクトがあったんですけれども、それ以降、すっかりやめてしまったということで、そのときから、日本のエネルギー政策というのが一点集中になって、原子力と、あと自然エネルギーでは太陽光ということで、風力のほうもあんまり進まなくなってしまいまして、それが大きい。」

 「しかし自然エネルギーというのは、基本的に各所各所の一番適したものを、優しく集めていくということですので、そこが非常に大きな失敗点だったと思います。」

 「まず、場所を見つけるのがとても難しいんですね。というのは、漁協の方が一人でも反対すると、組合長は首を縦に振れないと、そういうことがあります。そうすると、次の漁協に当たってみる、あるいはどうのこうので2年、3年はあっという間にたってしまうんですね。」

 「もう一つはそのそこでやったとしても、2年間、いいですよって言われて、2年後に非常に大枚かけて作った海底電線、電力、送電線ですね、それまた撤去しなきゃいけないということで、効率がとっても悪いわけです。」

 「(国からの支援は、)やっとぼちぼち始まったというところでして、まだまだ欧米の各国に比べると、断然小さいですし、中国や韓国に比べても見劣りするものです。特に諸外国は数年先まで、中期的な見通しを国として出すと、そういうところが日本にはないものですから、難しいと思います。」

 エネルギーを海外から買ってくるのはどうだろうか?「それはそれで間に合うんですけれども、雇用対策や産業政策という面では、どうしても国でやったほうがいい問題。特に海洋エネルギーが雇用政策に向いているのは、すそ野産業が自動車産業と同様にとてもあることなんです。」

 「そういう意味で、漁協ともよく話し合えば合意が必ず取れる問題。今のところ水産組合法ということで、漁業組合は事業者になれないとかそういう規制があるので、漁協が自分で発電して自分で使うということができない。規制撤廃すれば、問題の8割方はそれでどんどん解決されて進むと思う。」(NHKクロ-ズアップ現代)

 英国・スコットランド、注目の波力発電『PWP社・ペラミス(Pelamis)』
 スコットランド、エジンバラに本社を置くペラミス・ウェーブ・パワー社(Pelamis Wave Power Ltd.)は、2004年に英北部で最初の試作機を稼働、2008年9月にポルトガル北部Agucadoura沿岸から約5km沖合で世界初の波力発電の商業化を実現。

 同発電所では3 基のペラミス波力発電装置(容量750kW/基)を使用しており、総設備容量は2.25MW 。同装置の半分は水面下にあり、複数の円筒を滑節で接続した連接構造で構成されている。このプロジェクトは現在合弁事業となっており、77%をプロジェクトのプロモーター3 社(Babcock & Brown 社、ポルトガル電力公社のEDP: Energias de Portugal、及び電力会社のEfacec 社)が、残りの23%をPWP 社が所有している。

 波力発電は予測可能で安定した発電能力を有し、景観や海洋生物への影響が少なく、クリーンな再生可能エネルギーとして期待される。

 英国は新しい海洋技術の世界的なリーダーであり、35 以上の研究開発と実証システムがある。欧州の海洋エネルギー技術の開発を支えている大きな要因は、①再生可能エネルギーを支援することにより世界の気候変動の脅威に取り組もうとする政府の積極的な政策、②潮力・波力エネルギー資源の利用可能性の高さ、そして、③クリーン技術の主導的地位を得て経済成長の機会をもたらそうとする意欲である。

 研究開発の取組みの多くは、「欧州海洋エネルギーセンター」(EMEC、スコットランドのオークニー諸島にある試験センター)で行われている。その他には、ポルトガルの「潮力エネルギーセンター」(2003 年に設立。企業、研究開発機関、公共団体に技術的・戦略的な支援を提供)や、「欧州海洋エネルギー協会」(海流資源、コスト、技術についての情報を提供)がある。アイルランド(ゴールウェイ)の「海洋機関」(アイルランド持続可能エネルギー機関と連携)は、ゴールウェイ湾に波力エネルギー装置の試作機をスケーリングするための、海洋エネルギー試験場を保有している。また同機関は、アイルランドのベルムレット沖合にも、大型の試作機をテストするための試験場の建設を計画している。

 欧州の近年の技術的な進展は、潮力および波力発電技術が商業的レベルにまで成熟してきたことを示している。(NEDOレポート参考・抜粋)

参考HP NHKクローズアップ現代!:海から電気を作り出せ ヨーロッパ旅行情報:英国スコットランド・注目の波力発電 
ペラミスウェーブ社:http://www.Pelamiswave.com/

日本はエネルギー大国だ―海流発電・実験成功
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ダイナミックセラーズ出版
海洋温度差発電読本(復刻版)
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GEC

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