タイタンに生命の可能性
 「タイタン」は土星にある60個以上の衛星の中の一番大きな衛星だ。タイタンは太陽系にある衛星の中で唯一の地球の様な濃い大気が確認されている衛星で、生命体がいる可能性がとても高いと言われている。しかし、生命がいるとしても、地球型生物とはちがったタイプの生命になるらしい。いったいどんな生命だろうか?

 タイタンを包む濃い大気は、表面気圧は地球の1.5倍、大気の主成分は窒素 (97%) とメタン (2%) であることが計測されている。重力が大きく低温(分子の運動エネルギーが小さい)のため重力で大気(窒素分子)を引きとめておくことができていると考えられる。タイタンの表面重力は、1.35 m/s2と地球より小さいため、表面気圧は地球の1.5倍であるが、単位表面積あたりの大気量は地球の10倍に相当する。

 太陽系内の衛星で大気を持つものには木星の衛星イオや海王星の衛星トリトンなどが存在するが、タイタンほどに厚い大気を持つものはない。また、タイタンには地球によく似た地形や気象現象があるとされている。すなわち、液体メタンの雨が降り、メタンおよびエタンの川や湖が存在すると考えられていたが、このことは、近年のカッシーニ探査により確認された。

Titan

 「生命を育むには、液体の水、エネルギー源、有機分子の3要素が揃っていると都合が良い」とアメリカ、コロラド大学の惑星科学者サラ・ホルスト(Sarah Horst)氏は話す。

 摂氏マイナス178度のタイタンの表面には、液体の水は存在しない。しかし、液体メタンの湖があり、生物学的に地球上の水と同様の役割を果たしている可能性がある。大気に閉じ込められた太陽光の熱が、エネルギー源として役に立つ。地球と似た効果をもたらすはずだ。

 タイタンで特に注目すべきなのは3番目の要素、有機分子である。地球上の生命に欠かせない炭素系物質だ。「太陽系で最も興味深い場所と言える」とホルスト氏。

 タイタンを包むスモッグ状の大気には、メタンから生成されるさまざまな有機物が混在している。メタンは地球の天然ガスの主成分だが、新研究では大気の年代特定に利用されている。

 メタンの“重さ”で年代を分析
 アメリカ、メリーランド大学カレッジパーク校のコナー・ニクソン(Conor Nixon)氏の論文では、NASAと欧州宇宙機関(ESA)による土星探査機カッシーニ・ホイヘンス・ミッションのデータを使用している。軌道周回機カッシーニは2004年から土星とその衛星を観測。カッシーニから放出されたホイヘンス・プローブは2005年にタイタンへ着陸した。

 同氏のチームはデータを丹念に調査し、メタン分子に比較的まれに存在する“重い”炭素の兆候を探した。

 タイタンの大気中のメタンは太陽光で容易に分解され、より複雑な有機物質に転換する。その一部は雨となって表面に降り注いでいる。一般的な“軽い”炭素(質量数の少ない炭素)を含むメタンは、“重い”炭素を含むメタンよりも若干速く転換する。つまり、長期的には“重い”メタンの相対濃度が徐々に増えてゆく。

 そのため、軽いメタンと重いメタンの比率の変化をたどると、大気中の分子の分解にかかった時間をモデル化できる。さらには、大気自体の年代も推定できるという。

 コナー氏のチームでは、カッシーニとホイヘンスで検出されたメタンの赤外線データと、ホイヘンスが採取した低層大気の直接サンプルを調べた。

 大規模な天体衝突で内部からガスが突然噴出して、最初のメタンが大気に放出されたと仮定した場合、分厚い大気の年代は16億年程度と推定されるという。

 初期のタイタン、生命存在には寒すぎた?
 コロラド大学のホルスト氏は、「約46億年の太陽系の年齢から考えると比較的最近のようだ」と述べる。

 「初期のタイタンには大気がほとんど存在しなかった可能性がある。メタンは温室効果ガスなので、地球と同様にタイタンの表面と大気はある程度の温度を保っている」。温室効果がなければ、窒素が大部分を占めるタイタンの大気は凍って消滅していたかもしれない。

 「他の惑星での生命探査に“時間”という4番目の要素を加えるべきだろう。太陽系の中で誕生にうってつけの地球でも、長い時間が必要だった。タイタンの大気の年代が若いとすれば、可能性がやや小さくなったと考えられる」とホルスト氏は語っている。

 今回の研究は「Astrophysical Journal」誌に4月20日付けで発表された。

 「タイタン」の大気どこから?
 太陽系の惑星の衛星に大気を持つものはいくつかあるが、タイタンほどハッキリとしたものはなく、なぜタイタンにぶ厚い大気があるのかは謎とされてきた。タイタンには地球と同様、窒素が主成分の大気がある。地球の窒素は、高温だった地球の熱がアンモニアを分解してできたが、タイタンの地表はマイナス180度と低温なため、形成過程がわからなかった。

 東京大学の関根康人助教(惑星科学)らは、大気が生じたのは40億年前に巨大な隕石が衝突したためだという研究成果をまとめた。タイタンにだけ大気があるのは、隕石衝突によって地表のアンモニアを含む氷が解けて窒素ができたと想定、レーザーによる実験とコンピューターシミュレーションで、この想定の合理性を確かめた。5月8日付の英科学誌「ネイチャージオサイエンス」電子版に論文が掲載された。

 地球では、星の形成時の高温で、アンモニアから窒素が生成したとされる。ところがタイタンは過去に高温になっておらず、アンモニアがあっても同じ仕組みでは窒素は生じない。一方これまでの研究で、月の地表の分析から、40億年前に太陽系内で多数の巨大隕石が生じ、惑星や衛星に何度も衝突した可能性が高いことが分かっている。このため関根助教は、隕石衝突時に窒素が生じたのではないかと考えた。

 実証のため、タイタンの地表に似せたアンモニアを含む氷に、レーザーを使って金の合金をぶつける実験装置を開発。隕石の衝突速度に近いと考えられる秒速10キロでぶつけると、ほぼ100%のアンモニアが窒素に変わった。関根助教は「タイタンでは、地球とは異なる仕組みで大気が生じ、他の星より(窒素が気体として存在できる)温度の条件が整っていたので大気の状態で残ったのだろう」と話している。(毎日新聞 2011年5月9日)

参考HP Wikipedia:タイタン National Geographic:衛星タイタンの大気、生命には若すぎ?

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