ホッキョクグマが687キロメートルの遠泳
 2011年の北極の海氷域面積は、2007年に次いで2番目に小さい記録となった。海氷の減少に伴い、ホッキョクグマが最長で687キロメートルに及ぶ遠泳をしていたことが、米地質調査所(USGS)の動物学者らのGPS(衛星利用測位システム)を使った調査で明らかになった。中には子連れで遠泳していたホッキョクグマもおり、地球環境の悪化があらためて、動物たちにも困難な生活を強いていることが分かった。

 調査はアラスカ北部の南ビューフォート海やチュクチ海にいるホッキョクグマのメス52頭に、GPS装置の付いた首輪をつけて移動の様子を追跡した。その結果、2004年から2009年までに、20頭のホッキョクグマによる50回の遠泳が観測された。1回の遠泳日数は平均3.4日間で、平均距離は154.2キロメートル。ほとんどが休息なしで移動したとみられ、中には9.7日間かけて687.1キロメートルも泳いだホッキョクグマもいた。

 さらに20頭のうち12頭が子グマを連れて遠泳をしていた。そのうちの6頭の親グマの子が後でちゃんと育っているのが確認されたが、残りの子グマは無事に泳ぎ切れたのか、途中でいなくなったのかは分からないという。

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 この海域では最近20~30年間に、夏から秋にかけて海氷が減少し、海面が広がってきている。このためホッキョクグマたちは、えさを取る必要から遠泳を強いられているとみられる。調査結果はカナダの動物学誌「カナディアン・ジャーナル・オブ・ズーオロジー」に発表された。(2012年5月15日サイエンスポータル)

 第20回国際クマ会議にて
 このニュースは以前、2011年7月に、カナダのオタワで開かれている第20回国際クマ会議で発表されている。今回初めて学術誌に発表された。

 このホッキョクグマが記録的な距離を泳いだのは、北極海の一部であるボーフォート海だ。ボーフォート海では、地球温暖化の影響で海氷が減少しているため、母グマは陸地や海氷を求めてより長い距離を泳いで移動せざるをえず、それが子どもの生命を危険にさらしている。

 例えば、今回記録を打ち立てた母グマの子どもは、海中移動を開始してから、次に母グマの所在が陸地で確認されるまでのいずれかの時点で死亡していた。その間には、母グマの体重も22%失われていた。

 「以前はこれほど長距離を泳ぐ必要はまずなかったと考えられる。ホッキョクグマの進化の歴史上、陸も氷もない水域が687キロにもわたって続いていることは、ほとんどなかったからだ」と今回の研究の共著者で、ホッキョクグマの保護に取り組む団体「ポーラー・ベアーズ・インターナショナル」の主任科学者スティーブン・アムストラップ(Steven Amstrup)氏は話す。アムストラップ氏は以前、アメリカ地質調査所(USGS)でホッキョクグマ研究のプロジェクトリーダーも務めており、今回の研究はUSGSの主導で行われた。

 もう1頭、別のメスも12日間以上にわたって泳いだことが判明したが、こちらは移動の途中に場所を見つけて休んだとみられる。

 生物学者の研究チームは、メスのホッキョクグマ68頭に首輪を装着し、2004年から2009年にかけてその移動を追跡した。このとき、研究共著者で、世界自然保護基金(WWF)でホッキョクグマを研究する生物学者のジェフ・ヨーク(Geoff York)氏が言うところの「技術と設計上の偶然」によって、ホッキョクグマの所在を示すデータに欠落があることに研究チームは気づいた。チームはその後、データの欠落箇所は、クマたちが海中にいた時期と相関していることを突き止めた。

 チームはGPSデータをもとに、メスのホッキョクグマたちが長距離(50キロ以上)の海中移動を通算50回行っていたことを明らかにした。そして、このデータと、子どもの生存率との相関を調べた。

 「その結果、長距離の海中移動を行うホッキョクグマほど、子どもを失う確率が高かった」と研究の共著者で、アラスカ州アンカレッジで活動するUSGSの研究動物学者、ジョージ・ダーナー(George Durner)氏は話す。

 長距離移動の開始前に子どもを連れていた母グマ11頭のうち5頭が、再び陸地で確認されるまでの間に子どもを失っていたという。(Ker Than for National Geographic News 2011年7月21日) 

 北極域の海氷域面積(年最小値)の経年変化
 北極グマにとって、解氷面積の減少は、死活問題だ。氷はホッキョクグマのエサ場であり、子育てにも欠かせない。このため、氷がとけることは、生息数の減少の大きな要因になっていると考えられている。

 地球温暖化の影響でホッキョクグマ絶滅の危機が高まり、IUCNレッドリスト2006年版では、それまでの「保護対策依存種」(LR/cd)から、さらに絶滅のおそれの高い「危急種」(VU)に変更されている。

 北極域の海氷域面積は、1979年以降、長期的に見ると減少傾向を示している。特に、年最小値において減少傾向が顕著で、2011年までの減少率は 8.5 万平方キロメートル/年となっている。

 北極域の海氷域面積は例年3月初め頃から減少に転じる。2011年は3月9日に年最大値(1489万平方キロメートル)となり、年最大値としては2006年に次いで2番目に小さい記録となった。これ以降、海氷域面積は減少に転じ、6月以降は海氷域の減少スピードが平年より上がり、特に7月はこの時期として海氷域面積がほぼ過去最小となった。 7月下旬から8月初めは海氷域の減少スピードが鈍り、海氷域面積は2007年を上回るようになった。その後は再び減少スピードが上がり、9月9日には年最小値となり、その後、海氷域面積は増加に転じた。

 結局、2011年の海氷域面積の年最小値は446万平方キロメートルとなり、2007年に次いで2番目に小さい記録となった。

 2011年の海氷域面積年最小時には、2007年と比べラプテフ海で海氷が少なくなったが、2010年の最小時と同様、東シベリア海から北極海中央部にかけて密接度が低いながらも海氷が残りった。 2011年の海氷域面積の最小時の分布を同時期の平年分布と比較すると、ボーフォート海からラプテフ海にかけての北極海の太平洋側で海氷域が顕著に減少している。また、カナダの多島海付近やカラ海でも海氷域の減少が見られる。

 海氷域面積の年最小値が過去最小となった2007年は、6月から9月にかけて海氷域を顕著に減少させる気圧配置のパターンが続いた。その気圧配置のパターンは、ボーフォート海に高気圧の中心があり、シベリアからその沿岸に低気圧があるパターン。この気圧配置では、北極海の太平洋側は、概ね南から北へ風が吹き海氷を北へ移動させ、また気温が平年より高くなり、海氷域を減少させる効果がある。(気象庁)

参考HP Wikipedia:ホッキョクグマ 気象庁:海洋の健康診断 USGS:Polar-bears-long-distance-swimming-and-the-changing-Arctic

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