複雑な植物の受精のしくみ
 植物は種子でなかまをふやすものが多い。種子はどうやってできるのだろう? そう、受粉によって種子ができる。では、花粉がめしべにつくと、どうして種子ができるのだろう?

 花粉からは花粉管という管がのびる。花粉管は胚珠の中の卵細胞に到達。花粉管の中には精細胞があって、精細胞の核と卵細胞の核が結びつき受精して、種子ができるのはよく知られている。しかし、この受精はそれほど単純ではなく、まだまだ謎が多い。例えば受精は卵細胞との受精だけではない。他に中央細胞との受精もある。

 受粉した花粉から伸長した花粉管内で生じた2個の精細胞(精核)が、卵細胞と中央細胞(2個の極核を含む)のそれぞれと受精する。精細胞と卵細胞の受精を生殖受精、精細胞と中央細胞の受精を栄養受精と呼ぶ。受精後、受精卵(核相は2nである)は胚に、中央細胞(2個の極核と1個の精核が受精するため核相は3nである)は胚乳に成長し、胚珠から生じた種皮に包まれて種子となる。これを重複受精という。

 また、このような複雑なめしべ組織の中で、なぜ花粉管が迷わずに卵細胞のある場所にたどり着けるのか。この疑問について、140年も前から花粉管をおびき寄せる誘引物質が存在するのではないかと考えられ、探索されてきた。名古屋大学の東山教授らは2001年、卵の隣にある「助細胞」が誘引物質を分泌することを世界に先駆けて示していた。

Shiroinunazuna

 そして、2009年には助細胞を取り出して、どのような遺伝子が発現しているかを解析した。その結果、助細胞だけで多く作られて細胞外に分泌される小さなタンパク質の存在と、その強い誘引活性を突き止めた。この花粉管誘引物質であるタンパク質は、少なくとも2種類あり、このタンパク質を、花粉管をおびき寄せる性質から「ルアー」(LURE1、LURE2)と名付けた。

 受精のチャンスは2回ある
 被子植物では、雌しべの先に花粉が付くと、花粉から「花粉管」が伸びて、子房の中にある「胚珠」と呼ばれる種子の基になる部分に到達する。その花粉管の先端から精細胞が放出されて胚珠内の卵細胞と受精する。このとき、胚珠内にある2個の「助細胞」が花粉管を誘引し、花粉管が到達すると1個が壊れて“受精の場”を作ることはつきとめたが、なぜ助細胞が2個あるのかが分からなかった。

 今回、名古屋大学の笠原研究員らは、この2つの植物の雌しべが受精に失敗しても、もう一度受精を試みるバックアップシステムのあることが、名古屋大学大学院の笠原竜四郎研究員らの研究で分かった。アブラナ科シロイヌナズナを用いて受精に異常のある突然変異体を調べていて、通常の50%ほどしか種子ができないはずなのに、70%近い稔性(異常なく子ができること)のあることに気が付いた。

 詳しく観察したところ、最初の花粉管が伸びて受精に失敗すると、2つ目の助細胞が壊れずに残っていて、もう1本の花粉管を誘引して伸ばし、2回目の受精を試みることが分かった。花粉管が1本だけ到達してできた種子は全体の50%、2本目でできた種子は18%となり、合計した種子の形成率は68%と、観察された稔性とほぼ一致した。

 こうした受精のバックアップ機能を、笠原研究員らは「受精回復システム(Fertilization Recovery Syatem)」と名付け、米科学誌「カレント・バイオロジー(Current Biology)」(17日、オンライン版)に発表した。受精のやり直しのチャンスは1回だけだが、他にもオオムギやエンドウなど、多くの植物が2個の助細胞を持っている。今後、「受精回復システム」の分子メカニズムが解明されれば、植物の交配をコントロールし、厳しい環境条件下でも、少しでも多くの種子を実らせることができるようになるかも知れないという。(サイエンスポータル 2012年5月22日)

 受精回復システムの発見
 被子植物の精細胞は鞭毛を欠き、自ら泳ぐことはできない。このため精細胞は、花粉から伸びる「花粉管」により運ばれる。花粉管は卵細胞の隣に2つある助細胞により誘引され、卵細胞の近傍に到達する。花粉管が到達すると、花粉管の先端が破裂して精細胞が放出される。それと同時に、一方の助細胞が崩壊して受精の場が作られる。この際、受精できない精細胞が放出されると、受精が成立しないため種子は形成されないと考えられてきた。しかし、これまで実際の様子は明らかにされなかった。

 笠原研究員らは、アブラナ科のシロイヌナズナを用いて受精に異常のある突然変異体を探索する中で、g21 という突然変異体を見いだした。g21 変異体では半数の花粉で、受精できない精細胞が作られる。このことから、めしべの中には通常の半分(50%)の種子しかできないと予想される。しかし、正確に種子の形成率(稔性)を調べたところ、g21 変異体の稔性が65~70%であることが明らかとなり、この観察が、本研究の発端となった。

 なぜg21 変異体で予想よりも多くの種子が作られるのか、詳細に調べることにした。シロイヌナズナの1つのめしべには、およそ50個の卵細胞がある。その全てにおいて、花粉管が到達する様子を調べることができるように、解剖および観察技術を確立した。その結果、g21 変異体の花粉を受粉しためしべでは、卵細胞には通常1本の花粉管しか向かわないとする定説に反し、約40%もの卵細胞で2本の花粉管が到達していた。2本目の花粉管が受精を回復しているのではないかと考え、次に最新のライブイメージング技術により、その瞬間をとらえることを試みた。その結果、1本目の花粉管が精細胞に異常を持ち受精に失敗した後、2本目の花粉管が正常な精細胞を放出し、受精が回復する様子をとらえることに成功した。

 次に、植物がどのように2本目の花粉管をコントロールしているのかを知るために、受精できない精細胞を持つ花粉管が特異的に染色されるようにし、その挙動を観察した。その結果、1本目の花粉管が染色される場合に2本目の花粉管が到達し、1本目の花粉管が染色されない場合には2本目の花粉管は全く到達しないことが分かった。これにより、めしべは受精が成立したか否かを感知し、積極的に2本目の花粉管を卵細胞まで誘引して受精の回復を試みるという仕組みが明らかとなり、この仕組みを「受精回復システム(Fertilization Recovery System)」と名付けた。

 3回目はなかった
 それでは、不運にも2本目の花粉管も受精に失敗した場合にはどうなるのだろうか。興味深いことに、2本目が失敗すると、もはや種子を作れないことが分かった。3本目の花粉管が到達して受精を回復することはなかった。このことは、卵細胞の隣にある助細胞という細胞の数と関係していると考えられる。助細胞は花粉管の誘引を担う重要な細胞ですが、花粉管が到達すると1つの助細胞が壊れて受精が行われる。2本目の花粉管が受精を試みる場合、2つ目の助細胞が1つ目と同様に花粉管を誘引したのちに壊れて受精の場を作ることが、先述のライブイメージングで確認された。

本成果により、植物は、受精の失敗に備え、したたかに2つ目の助細胞をバックアップとして持っていると言えますが、やり直しのチャンスは一度限り、ということが分かった。(名古屋大学プレス)

参考HP サイエンスポータル:受精のチャンスは2回ある 科学技術振興機構:植物の花粉管誘因物質を発見 めしべが持つ秘められた受精回復機構を発見 

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