「ウルトラ赤外線銀河」は4個以上の銀河が衝突
 ウルトラ赤外線銀河はその赤外線光度が太陽1兆個分あり、1980年代に行われた赤外線全天サーベイ観測で発見された不思議な銀河だ。そしてウルトラ赤外線銀河は、激しい星生成活動の後、巨大ブラックホールをエネルギー源として非常に明るい放射をするクエーサーと呼ばれる天体に進化すると考えられている。

 ウルトラ赤外線銀河は、今のところは次のような性質が判明している。 1.銀河同士が合体してできた銀河であること、2.激しい星生成(スターバースト)が起こっていること、3.大量に生まれた大質量星は超新星爆発を起こし、銀河風(スーパーウインド)が吹き荒れていること、4.超巨大ブラックホールが育ち、非常に明るい活動銀河中心核を持つようになる(クエーサーと呼ばれるものに進化する)と考えられている。

 これらのウルトラ赤外線銀河の起源として考えられているのは銀河の合体だが、以前から論争が続けられていた。それは「何個の銀河が合体してできたのか?」というものだ。それに対する考えは2種類あり、米国のサンダース博士らが提案した「2個の銀河による合体」案と、愛媛大学の谷口センター長らが提案した「3個以上の銀河による合体」案である。


Arp220


 一般的な銀河の形成論では、現在受け入れられているのは何度も合体を繰り返して、天の川銀河やアンドロメダ銀河のように巨大な銀河に育ってきたと考えられている。

 ウルトラ赤外線銀河は近傍の(すなわち、現在の)宇宙で観測される最も明るい合体銀河だ。しかも、前述したようにクエーサーに進化すると考えられており、銀河と巨大ブラックホールの進化という観点からも、非常に重要な位置づけにある。従って、その正体を明らかにすることはとても大切な問題というわけだ。

 しかし、ウルトラ赤外線銀河の正体を見極めることは、容易ではない。銀河の合体が絡んでいることは確かなのだが、合体がかなり進行しており、どのような銀河が合体に参加したか特定しにくいからだ。

 今回、愛媛大学宇宙進化研究センターの谷口義明センター長を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により、ウルトラ赤外線銀河 (太陽の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射している銀河) の代表格であるアープ 220 が、4個以上の銀河の多重合体である動かぬ証拠を発見しました。ウルトラ赤外線銀河は激しい星生成活動の後、巨大ブラックホールをエネルギー源として非常に明るい放射をするクエーサーと呼ばれる天体に進化すると考えられている。(国立天文台 2012年5月24日)

 銀河の衝突をHα線で分析
これまでは,単純に2個の銀河が合体することでウルトラ赤外線銀河が形成されたと考えられていた。ところが、宇宙には銀河数個が群れている銀河群が多数ある。今回の発見は、1つの銀河群に含まれる全ての銀河が合体し、ウルトラ赤外線銀河に進化したことを示している。

 銀河の合体では、星は一定のペースで生成されるわけではない。合体を通じて、ガス雲が激しく圧縮されるときに、星が大量に生まれる。それがスターバーストである。そこで研究チームは、アープ 220というウルトラ赤外線銀河の中で、星がどのタイミングで大量に生まれ、死んでいったのかを調べることにした。つまり、アープ 220 では、合体に伴い、どのような特徴的な星生成の歴史を経験してきたのかを調べる。これがわかれば、何個の銀河がどのように合体してきたかを決めることができる。
 この目的のため、研究チームは水素原子の放射・吸収で生じる Hα 線に着目することにした。その理由は、次にまとめるように、Hα 線がさまざまな星生成の歴史を物語ってくれるからである。

1. 星生成が活発な領域では大質量星の紫外線によってガスが電離し、水素原子の再結合線として Hα は輝線として観測される : スターバーストやスーパーウインドの証拠になる

2. 星生成が終了し、太陽の数倍程度の質量を持つ中質量星が卓越するとそれらの星の大気による吸収で Hα 線は吸収線として観測される : スターバーストが終了した「ポスト・スターバースト」という状態である証拠になる

 そこで研究チームはアープ 220 の Hα 線のみを検出できる特殊なフィルターを用いて、撮像観測を行った。すると、図に示すような不思議な構造が浮かび上がってきた。

 図:アープ 220 の Hα 線による画像 (左)。明るい色の場所は Hα が輝線で観測される領域で、黒く見えている場所は吸収線として観測される領域である。右には R バンドの画像を示してある。

 図に示した Hα の輝線領域は従来の観測で検出されていたもので、「8」の字を横倒しにした構造はスーパーウインドが吹いている領域である。まだスーパーウインドが壊れておらず、二つの泡構造のように見えている(スーパーバブル構造と呼ばれる)。

 今回の観測で新たに発見された構造は、Hα が吸収線として観測される領域である。場所は2カ所ある。

1. 左側のスーパーバブルの中
2. 合体の際の潮汐効果で生じた南北方向に延びる2本のテール (尾のような構造)
 これらの領域は Hα 線が吸収線として観測されるので、ポスト・スターバースト領域であることがわかる

 スターバースト領域
 驚くべきことは、20 kpc (65000 光年) の長さもあるテール領域がポスト・スターバースト領域だということだ。
 そもそも、スターバーストは銀河円盤で定常的に行われる星生成とは様子が異なり、まさにバースト的に (爆発的な勢いで) 星が生まれる。そのため、スターバーストの発生には銀河の合体が深く関連していると考えられている。二つの銀河が合体すると (一つの円盤銀河とその衛星銀河でもよい)、最終的には合体銀河の中心部に巨大ブラックホールのペアができ、それらが公転運動するときに強い衝撃波が発生する。

 これが周辺のガスを圧縮し、激しいスターバーストを引き起こすことができる。この場合、一つのスターバーストを発生させるには二つの銀河が必要になる。これは、とりもなおさず、一つのポスト・スターバースト領域を作るには二つの銀河が必要であることをも意味する。
 さて、いよいよ潮汐効果による2本のテールの形成である。これを理解するには、良い例がある。それが図に示したアンテナ銀河におけるテール形成の様子である。アンテナ銀河は、2つの円盤銀河が衝突・相互作用している銀河。

 図を見てわかるように、1個の銀河から1本のテールが出ている。つまり、アープ 220 の2本のポスト・スターバースト・テールを作るには2つのポスト・スターバースト領域が必要。結局、合計4個の銀河の合体がなければ、今回研究チームが発見した2本のポスト・スターバースト・テールの成因を説明することができない。

 以上のことから、アープ 220 の起源は (少なくとも)4個の銀河が参加した「多重合体」で非常によく説明できることがわかった。
 本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に受理され、2012年7月10日号に掲載が予定されている。本研究は、科学研究費補助金 によるサポートを受けて行われた。


 銀河とその進化
 ビッグバンから10億年の間に、鍵となる構造が現れるようになる。球状星団、巨大なブラックホール、金属量に乏しい種族IIの恒星による銀河バルジである。超大質量ブラックホールの発生は、総物質量に制限を加えることで銀河の進化を促す重要な役割を果たした。この初期の頃、銀河では盛んに星が形成される。

 次の20億年にかけて、蓄積された物質は銀河円盤を形成するようになる。銀河は一生を通じて星間雲や矮小銀河との合体を通じて物質を吸収し続ける。この物質はほとんどが水素やヘリウムだが、恒星の誕生と死が繰り返されるうちに重元素が増えてゆき、その中に惑星を持つようになる。 銀河の発展は相互作用と衝突が大きな影響を与えた。初期宇宙では、銀河の合体は一般的な出来事であった。そしてそれらは形態論から外れた形ばかりだった。

 恒星同士程度の距離があれば、銀河衝突による惑星系への影響はほとんど無い。しかしながら、渦巻銀河の腕を取りまとめる星間ガスや宇宙塵などの重力がはがされると、触覚のような長い腕が伸びた状態になる。例として、NGC 4676や触角銀河が知られる。 この相互作用は天の川銀河にも働いており、近傍のアンドロメダ銀河と秒速約120~130kmで近づき合っている。

 そして50~60億年後には衝突する可能性が指摘されている。この衝突において活発な星形成が行われた後、二つの銀河は一度通り過ぎると考えられるが、その際に太陽系がアンドロメダ銀河側に移されてしまう可能性も3%程度ある。そしてふたたび近づき、最終的には一つの楕円銀河になると考えられる。過去にも、天の川銀河は小型の銀河と何度も衝突しており、その証拠は次々と見出されている。 このような大規模な相互作用が起こることは希である。時間が経過するとともに、同規模の銀河が衝突する事例は少なくなる。ほとんどの明るい銀河では、頻繁に衝突が発生した時期は約100億年前であり、過去数10億年間にわたり抱える星の総数は大きく変化していないと考えられる。


 銀河の種類
 銀河には、1000万(10の7乗) 程度の星で成り立つ矮小銀河から、100兆 (10の14乗) 個の星々を持つ巨大な銀河まである。これら星々は恒星系、星団などを作り、その間には希薄なガス状の星間物質や宇宙塵が集まる星間雲、宇宙線が満ちている。ほとんどの銀河では質量の約90%をダークマターが占める。

 観測結果によれば、すべてではなくともほとんどの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在すると示唆される。これは、いくつかの銀河で見つかる活動銀河の根源的な動力と考えられ、銀河系もこの一例に当たると思われる。
 銀河はその具体的な形状を元に分類される。一般的な形態は、楕円形の光の輪郭を持つ楕円銀河である。渦巻銀河は細かな粒が集まった、曲がった腕を持つ形状である。渦巻銀河には棒状の腕を持った棒渦巻銀河もある。レンズ状銀河は楕円銀河と渦巻銀河の中間のタイプ。不規則でまれな形状を持つ銀河は不規則銀河と呼ばれ、近くの銀河から引力の影響を受けて形を崩したものである。

 楕円銀河に対して、渦巻銀河・棒渦巻銀河・レンズ状銀河をまとめて円盤銀河とよぶ。観測可能な宇宙の範囲には、少なくとも1700億個の銀河が存在すると考えられる。


 参考HP 国立天文台:すばる望遠鏡ウルトラ赤外線銀河の謎を解明


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