もっとも地球上で繁栄した動物
 線虫類には多数の寄生性の種が含まれる。ほとんどすべての植物、昆虫、脊椎動物に、固有の寄生種がいるといっても過言ではない。地球上でもっとも繁栄している線虫類。Lambshead(1995)は、線虫の総種数は1億種に達すると推定した。

 個体数も動物界でもっとも多いといわれている。地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれる。生態系の均衡にはたしている役割は、はかりしれないものがある。このように多種多様な線虫だが、大きさはちがっても、その構造や発生はとてもよく似ている。

 今回、これまでで最も深い地中に生息する“悪魔の虫”が見つかったという。その生物がやはり線虫であった。

Devil-worm

 発見された線虫は、ファウストの伝説に登場する悪魔、メフィストフェレスにちなんでハリケファロブス・メフィスト(Halicephalobus mephisto)と名付けられた。この発見は、地下にこれまで知られていなかった豊かな生物圏が存在することを示唆している。
 
 今回の線虫は地下3.6キロの深さで発見された。これまで線虫の生息は、数十メートルの深さまでしか確認されていない。数キロの深さで知られていたのは微生物だけで、発見された体長0.5ミリの線虫は、そうした微生物をエサにしていると考えられる。
 
 研究の共著者で、ニュージャージー州にあるプリンストン大学の地球微生物学者、タリス・オンストット(Tullis Onstott)氏は、「小さな生き物と思えるだろうが、私にとってはオンタリオ湖でクジラを見つけたほどの驚きだ。この生物はエサの細菌よりも何百万倍も大きいんだ」。
 
 地球最深部に棲む動物
 オンストット氏と、ベルギー、ヘント大学の線虫学者ハエタン・ボルホニー(Gaetan Borgonie)氏がハリケファロブス・メフィストを初めて発見したのは、南アフリカの金鉱の底深くだった。しかしそのとき研究チームは、この線虫が抗夫によって持ち込まれたものか、岩から出てきたものか、確信を持てなかった。
 
 それをはっきりさせるため、ボルホニー氏は1年かけて金鉱の奥深くの水脈をボーリングし、水の中に棲む線虫を求めてサンプルを回収し、それを濾過した。そして、合計3万1582リットルの水を漉し流した末に、ついに地中深くのいくつかの岩の中から線虫を発見した。
 
 そればかりでなく、研究チームはこの線虫が数千年以上前からこの地下に生息していた証拠も見つけた。線虫が見つかった水の同位体年代測定から、この水が3000~1万2000年前のものであることがわかったのだ。この結果は、線虫がこの深度の極端な高圧と高温の下で生存するよう進化してきたことを示している。
 
 オンストット氏は、「ボルホニー氏のように線虫に情熱を傾ける学者は、この発見に驚かないかもしれないが、私にとっては間違いなく衝撃的だ」と話す。「多細胞生物の生息限界が地球内部に向けて大きく拡大したのだ」。
 
 オンストット氏は、発見された線虫が、極端な環境下で生息する高度な生命体に関する他の研究を促すことを期待している。地球上だけでなく、ほかの場所でもだ。

「火星のような惑星の地下には細菌しか存在できないと普通は考えられている。だが今回の発見は、ちょっと待てと言っている」とオンストット氏は話す。「小さな緑の宇宙微生物ではなく、小さな緑の宇宙虫を探そうという考えを否定することはできないのだ」。
 
 地中の線虫に関する研究は、「Nature」誌オンライン版に6月1日付けで掲載されている。(Dave Mosher for National Geographic News
June 2, 2011)

 線虫(線形動物)とは?
 線形動物(学名:Nematoda、英名:Nematode, Roundworm)は、線形動物門に属する動物の総称である。線虫ともいう。かつてはハリガネムシなどの類線形動物 (Nematomorpha) も含んだが、現在は別の門とするのが一般的。また、日本では袋形動物門の一綱として腹毛動物や、鰓曳動物、動吻動物などとまとめられていたこともあった。回虫、鞭虫などが含まれる。
 
 大半の種は土壌や海洋中で非寄生性の生活を営んでいるが、同時に多くの寄生性線虫の存在が知られる。植物寄生線虫学 (nematology) では農作物に被害をもたらす線虫の、寄生虫学 (parasitology) ではヒトや脊椎動物に寄生する物の研究が行われている。 

 体は細長い糸状で、触手や付属肢を持たない。一部のものは体表に剛毛を持つ。基本的に無色透明である。体節構造をもたない。偽体腔をもつ。雌雄異体で有性生殖が主であるが、単為生殖を行う種もあり、同一種内で系統により生殖が異なる場合がある。土壌中に莫大な個体数がおり、地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれている。
 
 線形動物には、人間の寄生虫をはじめ、人間の生活に関わりの深いものも多く、それらの研究が進められる一方、自由生活のものの研究は後回しになりがちであった。しかし、自由生活のものの方がはるかに種数が多く、その研究が進むにつれ、種類数はどんどん増加しているので、どれくらいの種数があるかははっきりとは言えない状況である。その最大限の見積もりは、なんと1億種というものがある。これは、海底泥中での研究において、サンプル中の既知種の割合から算定されたものである。これが本当であれば、昆虫の種数を大きく抜き去り、地球上の生物種の大半は線形動物が占めていることになる。
 
 土壌中の線形動物はその数も多く、生態的に重要な位置を占めていると思われる。細菌など微生物を食べているものと思われる。線虫を捕食するものには、昆虫などがあり、また、菌類には線虫寄生菌や、食虫植物のように線虫を捕獲する線虫捕食菌というものがある。
 
 人間との関わり
 植物に寄生する物としては松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウ(マツクイムシ参照)や、ダイズ生産上最も問題となるダイズシストセンチュウなどがある。また農作物に及ぼす傷害の形態により、ネグサレセンチュウやネコブセンチュウとよばれる農業害虫のグループもある。これらは、薬剤散布のほかにマリーゴールドやエンバクなどのコンパニオンプランツを導入することで、減少させることが可能とされる。
 
 ヒトには、カイチュウ(回虫)、ギョウチュウの他、カ(蚊)がベクターとなってリンパ系フィラリア症や象皮症の病原体であるマレー糸状虫、バンクロフト糸状虫が感染する。また魚介類を通して感染するアニサキスも線虫の1種。
 
 特にカイチュウは戦前には日本人はほとんど全員に寄生していたほどに普通であった。しかし、現在ではほとんど見ることができない。これは、カイチュウの感染経路が遮断されたためである。卵が糞便とともに排出され、それが口にはいることで感染するので、現在のように、糞便の処理が行われ、また、畑に下肥が入らない環境では生活史が維持できない。他方、卵が手から手へと移るギョウチュウは、現在でも広く見られる。(Wikipedia)

参考HP Wikipedia:線虫 National Geographic news:http:地下3.6キロに生棲息する線虫を発見

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった
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線虫―1000細胞のシンフォニー (ネオ生物学シリーズ―ゲノムから見た新しい生物像)
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