月の表面はどうなっているのだろう?
 月の表面は岩石ではなく砂。砂でおおわれている。人類は1969年に初めて月面におり立つが、それ以前から月が砂に覆われていることを知っていた。岩がむき出しの場合、たまたま岩に対して真正面から太陽光線が当たった場合、鏡のようにピカッと光ることがある(遠くの岩山が妙に明るく光っているのを見たことがあるだろうか?)。ところが月を観察していても、あちらこちらがピカピカと点滅することがない。これは岩の表面が細かい砂によって覆われていることを示している。

 月の表面を覆う砂のことをレゴリス(regolith)という。砂の厚さは「高地」と呼ばれる比較的古い地形のところで20~30m、「海」と呼ばれる比較的新しい地形のところで2~8m、最も新しいクレーターの周辺では数cm、と考えられている(アポロ計画前には着陸船や宇宙飛行士が砂に埋もれてしまうのではないか、と真剣に心配した)。新しい地形ほど砂が少なく、古い地形ほど砂が多い、ということは、月の砂レゴリスが月の歴史の中で常に作り出され、だんだんと積もってきたことを示している。

 月の表面を覆う砂は、月面を舞うことがあり、さらに深さ2メートルの地点の温度は表面の砂と比べて摂氏にして167度も低いケースがある。このように奇妙な性質を持つ月の砂にまつわる謎を解明したと、このたびオーストラリアの研究チームが発表した。謎を解く鍵は、ナノサイズのガラス質微粒子にあるという。

Regolith

 地球上では、通常こうした泡の内部には気体が入っているものだが、月の場合は「見たこともないようなガラス状の微粒子が多孔質の網の目のように結びつき、泡の内部全体に広がっていた」と、クイーンズランド工科大学のマレク・ズビック(Marek Zbik)氏は声明で述べている。

 ズビック氏は現在も起きている微小隕石の衝突によって、こうした泡の内部にあるナノサイズの微粒子が放出され、他の砂と混じり合うのではないかと推測している。このような微粒子は非常に小さいため、その挙動は量子力学の法則に従うが、この法則は一般的(巨視的)な物理学の法則とは大きく異なっている。

 月の砂の謎、ナノ粒子モデルで解明?
 「ナノ粒子は非常に小さく、その材質に関係なく、この小ささゆえに他にはない性質を帯びる」とズビック氏は説明する。

 月のナノサイズのガラス質微粒子が、量子力学上どのような性質を持つかは、正確にはまだ明らかになっていない。しかし、ナノ粒子は一般的に物質の電気的性質や伝導性に影響を与えることがわかっている。この特質を考えると、月の砂が静電気を帯び、月面に舞う性質を持つことや、異例なほどの断熱性を持っていることも、ナノ微粒子が原因とも考えられるとズビック氏は提起している。

 しかし月を研究する科学者らは、ガラス質のナノ粒子がこの奇妙な量子力学的性質の唯一の原因かどうかには疑問が残るとしている。NASAのジョンソン宇宙センターの宇宙物質および探査科学部門に所属する研究者、ロイ・クリストファーソン(Roy Christoffersen)氏は、「我々はこれまで、考え得るあらゆる手法を使って、月の砂に関する広範な解析を行ってきた」と話す。

 クリストファーソン氏によれば、こうした解析により、例えば月の砂に含まれる気孔(ガラス質の泡)の平均的な割合についても、既に把握されているという。同氏の話では、この量に基づいて考えると、月の砂には他の種類のナノ粒子もふんだんに含まれていなければ説明にならないとのことだ。

 「計算すればわかるが、月の砂を構成する物質の中で気孔を持つ物質をすべて集め、そのすべての内部を微粒子で満たし、さらにそのすべてを放出したとしても、その総量では月(にあるとみられるナノ粒子)の量全体を説明することはできないはずだ」。

 さらに、月の1カ所から採取したたった1種類の試料だけでは、月面において微粒子に内部を埋め尽くされたガラス質の泡が一般的な存在かどうかはわからないとクリストファーソン氏は言う。

 UCLAのウォーレン氏も同意見だ。ウォーレン氏は、ズビック氏の構築した画像は「こうした気孔の内部を前例のないほどの拡大率で示し、内部の微細な構造を明らかにしたものだ」としながらも、月の砂を構成する物質に関する「我々の既存の認識を変えるものになるかは何とも言えない」としている。

 月のガラス状の微粒子の内部に関する研究は、オープンアクセスの学術誌『ISRN Astronomy and Astrophysics』の2012年号に掲載されている。(2012年6月22日 ナショナルジオグラフィック)

 月の砂(レゴリス)の秘密
 どうやら、月の砂(レゴリス)は地球のものとは違った性質を持つ、ガラス状の微粒子が含まれているようだ。ところで、月の砂はどうやってできるのだろう?

 ではどのようにしてレゴリスは作られたのか。レゴリスのなりたちを考えるとき、月と地球の違いが大きな意味を持っている。月には大気と液体の水と、そしてプレート運動がない。これがレゴリスを生み出した要因になる。

 地球にしろ月にしろ、常に宇宙から微小粒子(ちり)が降り注いでくる。大きさは爪の先ぐらいの小さなものだが、スピードは秒速5~10kmというとてつもないものだ。ぶつかったときの衝撃はスペースシャトルの船体に小さな穴をあけてしまうほどだ。

 地球の場合は大気があるので、これらの高速微粒子は上空で燃え尽き(これが流れ星の正体)、地面まで届くことはない。ところが月の場合は大気がないので、高速微粒子が直接月面にぶつかってくる。その衝撃によって月面の岩が削りとられたものがレゴリスなのだ。レゴリスの粒の大きさはおよそ50μm(1mmの20分の1)。レゴリスにはガラスの粒子、岩の破片、鉄粉が含まれている。ガラスは衝突の衝撃によって岩の表面が溶け、再度急速に固まった。

 地球の場合、このような細かい砂は水に流され、粘土として集められる。それが長い年月の中で堆積岩という岩に変わり、やがてプレート運動によって地球内部に運ばれると溶岩に生まれ変わる。月には水もプレート運動も無いため、レゴリスは一度作られると、ひたすら積もりつづけてしまうのである。

 レゴリスは非常に細かく、電気を帯びやすく、磁石にもくっつく、というやっかいな性質を持っている。そのため、アポロ宇宙飛行士は非常に苦労した。払っても払っても宇宙服にまとわりつき、精密な実験装置にも入り込んで故障を引き起こした。

 しかしながら未来の月面生活では、このレゴリスは非常に重要な役割を担うはずである。レゴリスは酸素、水、金属の原料となり、居住施設の建築材料となり、月面生活者を守る防御壁となる。

 月の岩石で呼吸する
 月には空気がない。液体の水もない。といって、生活に必要な水や酸素を全部地球から持っていくのは大変だ(1kgあたり200万円のコストがかかるので、お風呂1回分約400kgの水道代がなんと8億円!)。

 レゴリスは重さの比率で約45%が酸素からできている。もちろん空気としてではなく、金属類とがっちりと結びついた化合物として存在している(SiO2, TiO2, Al2O3, FeO, MgO, CaO, FeTiO3, CaAl2Si2O8など)。またほんのわずか(50ppmほど)だが水素も含まれている。この水素は太陽から吹いてくる風(太陽風)に含まれていたものである。

 レゴリスを700℃に熱すると水素が回収できる(1gの水素を回収するのに20kgほどレゴリスが必要)。さらに、その水素を1000℃以上でレゴリスと反応させると、水素がレゴリスの中の酸素と結びつき、レゴリスを水(H2O)と金属類に分けることができる。こうして作られた水を電気分解すれば酸素ができる。

 以上のプロセスでは多大なエネルギーが必要ですが、晴れ続きの月面では太陽光発電によって十分な電気エネルギーを得ることができる。太陽光発電装置に必要な材料(シリコン)もレゴリスから取り出せるし、レゴリスを水と混ぜて焼き固めれば丈夫な建材になる。建物をさらに厚さ3mのレゴリスで覆えば、微小粒子の衝突や放射線から建物や人を守り、室温の変化を穏やかにすることもできる(月面は-150~100℃と激しい温度変化をしている)。

 やっかいもののレゴリスは一方で、月面基地建設に無くてはならない、宝の砂なのだ。

参考HP National Geographic news:月の砂の謎ナノ粒子モデルで解明? 大阪市立科学館:月の砂レゴリスと月面探査

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