新しい素粒子「ヒッグス粒子」発見
 欧州合同原子核研究機構(CERN)は4日、物質に質量を与えたとされる仮説上の素粒子「ヒッグス粒子」とみられる新しい素粒子を発見したと、発表した。2つの国際チームによる探索実験の結果、質量125-126GeV(ギガ電子ボルト)付近に、新素粒子が99.9999%以上の確率で存在することが分かった。年内にさらに実験を繰り返し、発見を確定させるという。

 宇宙が誕生した137億年前の大爆発(ビッグバン)によってヒッグス粒子を含むあらゆる素粒子が光速で飛び回った。その約100億分の1秒後に、宇宙空間の状態が変わり、他の粒子の周りにヒッグス粒子がまとわりついて、動きにくくした(質量を与えた)と考えられる。この仮説は英国の物理学者ピーター・ヒッグス博士が、南部陽一郎・米シカゴ大学名誉教授(2008年ノーベル物理学賞受賞)の理論「自発的対象性の破れ」を土台に、1964年に提唱していた。

 今回、東京大学や高エネルギー加速器研究機構など日本の16機関が参加する「ATLAS」と、欧米を中心とした「CMS」の2つの研究チームが、2008年に本格稼動したスイス・ジュネーブ近郊にあるCERNの「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」を使って、ともに陽子同士の衝突実験を繰り返した。

Higgs boson

 このうちATLASチームは11年に500兆回の実験を行い、さらに今年6月までに600兆回の実験を重ねて膨大なデータをコンピュータ分析した。その結果、実験でヒッグス粒子とみられる新しい素粒子が生じた確率は99.99998%、CMSチームによっても99.99993%との結果が得られたという。

 ヒッグス粒子の発見が確定されれば、素粒子物理学の基礎となる「標準理論」で考えられた17種類の素粒子のうちの最後の1つが見つかったことになる。CERNのロルフ・ホイヤー(Rolf Heuer)所長は「ヒッグス粒子の発見により、さらなる宇宙の謎の解明につながるだろう」と話している。(マイナビニュース 2012/07/05)

 “神の粒子”ヒッグス粒子とは何か?
 ヒッグス粒子は私たちの身の回りも含め、すべての宇宙空間を満たしている素粒子として、1964年にイギリスの物理学者、ピーター・ヒッグス氏が存在を予言した。もし、ヒッグス粒子が存在しなければ、宇宙を構成するすべての星や生命が生まれないことになるため、「神の粒子」とも呼ばれている。

 物質を「これ以上分けられない」ところまで小さくした粒を素粒子と呼ぶ。原子核を作っている陽子や中性子は、「クォーク」と呼ばれる素粒子の組み合わせ。電子は「レプトン」の仲間である。これらさまざまな種類の素粒子がいろんな力で結びついてこの世があるわけだが、全体を説明するために考えられたのが「標準理論」。

 私たちの宇宙は、1960年代以降まとめられた現代物理学の「標準理論」で、17の素粒子から成り立っていると予言された。これまでに、クォークやレプトンなど16については実験で確認されてきましたが、最後の1つ、ヒッグス粒子だけが見つかっていなかった。

 ヒッグス粒子が担っている最も大きな役割は、宇宙のすべての物質に「質量」、つまり「重さ」を与えること。およそ137億年前、宇宙が誕生したビッグバンの大爆発によって生み出された大量の素粒子は、当初、質量がなく、自由に飛び回っていた。

 ところが、その後、ヒッグス粒子が宇宙空間をぎっしりと満たしたため、素粒子がヒッグス粒子とぶつかることで次第に動きにくくなり、物質を構成していったと物理学者たちは考えた。ヒッグス粒子にぶつかることで動きにくくなる、この「動きにくさ」が質量そのものだと考えられている。

 どうやって発見したのか?
 およそ半世紀前、物理学者によってその存在が予言されながら、発見されてこなかった「ヒッグス粒子」。今回、研究グループはどのような方法でこの未知の素粒子の正体に迫ろうとしたのだろう?

 ヒッグス粒子を見つけるには、宇宙が誕生した直後の状態を再現する必要がある。その壮大な実験は、スイスのジュネーブ郊外にあるCERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)で、世界30か国以上からおよそ6000人の研究者が参加して4年前から行われてきた。

 実験には、CERNの地下100メートルにあるLHC=大型ハドロン衝突型加速器と呼ばれる施設が使われた。一周27キロの山手線とほぼ同じ規模の円形のトンネルの中に真空のパイプが通されている。

 この「加速器」の中で、原子を構成する陽子を2つ、それぞれ逆方向から光と同じぐらいの速さで飛ばし、正面衝突させることで、極めて高いエネルギーを生み出し、ビッグバン直後に匹敵する超高温の状態を再現する。このときに生まれるさまざまな粒子の中からヒッグス粒子を探し出すのが、高い感度を持つ巨大な「検出器」だ。

 「検出器」は直径20メートルほど、長さが40メートルほどの円筒形で、総重量は7000トン。内部には粒子を検出するためのセンサーが何重にも取り付けられている。検出器の中では陽子と陽子が1秒間に数億回もの衝突を繰り返すが、コンピューターの処理能力に限界があることから、実際に記録できるのは全体のおよそ10万分の1に当たる300から400程度。

 このため検出器には、ヒッグス粒子の発見につながりそうな粒子を瞬時に選び出す仕組みが組み込まれている。研究グループでは、こうした加速器や検出器を使った実験を、保守点検のため去年12月から停止していたが、ことし3月に再開し、最新の実験の成果に世界の注目が集まっていた。

 「ヒッグス粒子の発見」は、どんな意味を持つか?
 現代の素粒子物理学は、17種類の素粒子の存在を前提として考案された「標準理論」が基本になっており、60年代に構築された。ヒッグス粒子もその一つだが、これらの素粒子の中で唯一、実験で見つかっていなかった。ヒッグス粒子が見つかれば標準理論は完全なものとなる。

 ヒッグス粒子が見つかったら、この世界は説明できるのだろうか?いいえ。質量の起源は説明できるが、素粒子によって質量が異なる理由や、ヒッグス粒子がどうやって生まれたかなど、謎はまだ多い。

 素粒子の数を予測した「小林・益川理論」で2008年のノーベル物理学賞を受賞した名古屋大素粒子宇宙起源研究機構長の益川敏英・京都産業大教授(72)は「ヒッグス粒子周辺の現象やその振る舞いなどについて、科学者の予想を超える部分があるはずだ。そうした検証を続けて、今回の発見を一つのステップに新しい素粒子物理学が切り開かれることを期待したい」と話した。

 宇宙の誕生や進化の解明の手がかりになると期待を寄せる研究者もいる。東大で誕生初期の宇宙の様子を研究している村山斉(ひとし)・カブリ数物連携宇宙研究機構長は「何もないと思われていた宇宙空間が、ヒッグス粒子をはじめとするいろいろなもので満ちているということがこれではっきりしてきた。

 ヒッグス粒子は宇宙の始まりと関係していると同時に、実は宇宙の終わりや宇宙の運命にも関係している」と指摘する。これまでの研究で、宇宙の96%は正体不明の暗黒エネルギーと暗黒物質で占められていることが分かっている。一方、宇宙が加速しながら膨張していることが判明し、この成果は2011年のノーベル物理学賞に輝いた。

 村山さんは「膨張を加速させている正体は、真空のエネルギーとされている。ヒッグス粒子は真空のエネルギーの一部になっているため、ヒッグス粒子を理解することが、宇宙の膨張が加速する謎にせまる手がかりとなる。宇宙は膨張の加速が進むと終わるのか。宇宙の運命を考える重要な鍵だ」と夢を膨らませた。

 標準模型の17種類の素粒子とは?
 素粒子物理学において、素粒子のあり様とその振る舞いを現在最も正確に記述している理論が「標準理論」と「標準模型」と呼ばれているもの。

 物質を「これ以上分けられない」ところまで小さくした粒を素粒子と呼ぶ。原子核を作っている陽子や中性子は、「クォーク」と呼ばれる素粒子の組み合わせ。電子は「レプトン」の仲間である。これらさまざまな種類の素粒子がいろんな力で結びついてこの世があるわけだが、全体を説明するために考えられたのが「標準理論」。

 「標準模型」は、自然界を構成する基本粒子である素粒子(12種類)と、それらの間に働く力(相互作用と呼ばれる)と粒子(5種類)で構成されている。自然界を構成する粒子には、大まかに分けて、原子核を構成する力を感じる事ができる粒子群(クォークと呼ばれる)と、その力を感じない粒子群(レプトンと呼ばれる)に分かれる。それらは、次に示すように、それぞれ2種類からなる3グループ(世代と呼ばれている)に分かれていて、合計6種類ずつある。

 物質を構成する基本粒子12種類は次の通り。クォーク 1.第1世代:u-クォーク,d-クォーク 2.第2世代:c-クォーク,s-クォーク 3.第3世代:t-クォーク,b-クォーク、レプトン 1.第1世代:νe;電子ニュートリノ,e;電子 2.第2世代:νμ;ミューニュートリノ,μ;ミュー粒子 3.第3世代:ντ;タウニュートリノ,τ;タウ粒子。

 基本粒子の間に働く力と、それを担う粒子5種類は次の通り。「場の理論」では,力はそれを担う粒子の交換によって働くものと考えられている。
 強い相互作用(原子核を作る力): グルオン、電磁相互作用(電気,磁気の力): 光子、弱い相互作用(原子核の崩壊等を起こす力): Wボゾン,Zボゾン、質量を生み出す力: ヒッグス粒子。

参考HP 原子炉ニュートリノ振動実験ダブルショー:素粒子の標準模型 NHK news Watch9:世紀の大発見科学者に密着取材 マイナビニュース:新しい素粒子「ヒッグス粒子」か

質量はどのように生まれるのか―素粒子物理最大のミステリーに迫る (ブルーバックス)
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神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器
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