突然原因不明の病気で足を切断
 自分の体が思うようにならない、最近は年のせいかそう思うようになった。今まででは何ということもなかったことで、体がいうことを聞かない。どうやらこの夏は本格的に治療せねばならないようだ。気持ちの上では若いつもりだが、これからは年齢を考えながら生活しなければならない。

 しかし、若い人が突然原因不明の病気になり、まったく自分の思うとおりにならず、手足が化膿して切断せねばならなくなったとしたらどうだろう?しかもそれまで、健康的ではつらつとしていた若く美しい女性がその当事者だとしたら…私だったらとても耐えられず、人生に絶望してしまうことだろう。(以下、アンビリバボー 2012.7.5放送より)

 今から2か月前の2012年5月1日、アメリカジョージア州に住む、エイミー・コープランドさんはこの日、「ジップライン」というロープを使って川を渡るという遊びをしていた。 だが、ロープが切れ川に転落してしまい、その拍子に川底の岩で左足のふくらはぎを深く切ってしまった。

  その後、病院で治療を受けたエイミーは、ポジティブで活発な性格からか、さほど痛みを見せるそぶりもなく、その日は自分の足で歩いて帰宅したという。 だが、この時すでに彼女の体にはある魔物が住み着いていた!

Aeromonas

 事故から2日後。 回復するどころか、増していく痛みに耐えかねて、エイミーは再度病院にを訪れた。 しかし、医師が傷口を確認したが、綺麗に縫合されたまま特に変わった様子はなかった。 しかたなく、その日も家に帰ったエイミーだったが・・・

 病院から帰宅したエイミーはその夜、突如高熱を出して意識を失い、救急車で再び病院に運び込まれてきた。 そして、担当医が再びエイミーの包帯を取ると・・・わずか十数時間で傷口が大きく広がり、周囲の皮膚や肉が溶けるようになくなっていたのだ!! そして検査の結果、緊急手術が行われたのだが、エイミーは左足の切断を余儀なくされたのだ!十数時間前まで、自分の足で歩いていた彼女の左足は、こうして失われた…。

 全米を恐怖に陥れた人喰いバクテリア
 2012年7月5日フジテレビ「アンビリバボー」で放送した、「人喰いバクテリア」の話には驚いた。健康ではつらつとしていた女性が、わずか数日後に足を切断されてしまうことがある。いったいどんな病気なのだろう?

 番組では感染症に詳しい佐賀大学・青木教授を訪ねていた。 青木教授によると、エイミーは壊死性筋膜炎ではないかという。 壊死性筋膜炎、ある種類のバクテリアが人体に感染すると、細菌が血流に乗って四肢から順に、体中の組織を次々に壊死させてしまう感染症の一種。 皮膚を溶かして体中を浸食していく様から『人喰いバクテリア症』とも呼ばれている。

 そしてこの恐ろしい病気を引き起こす殺人バクテリアの正体が、以前アンビリバボーでも紹介した「溶血性連鎖球菌 A群β(ベータ)溶連菌」。 人が主な宿主とされ、口や喉、皮膚などから感染すると考えられているが、詳しい感染経路など、未だに不明な部分も多い未知のバクテリア。 しかし、エイミーの体内から、このA群β(ベータ)溶連菌は検出されなかった。

 ただし、殺人バクテリアはこれだけではない。 こちらも以前アンビリバボーで紹介した壊死性筋膜炎を引き起こすもう1つの細菌、ビブリオ・バルニフィカス。 腸炎ビブリオやコレラ菌の仲間で、主に海水に生息すると考えられており、海産物を通して人間に感染する可能性が高い。

 増殖が非常に早いと言われる大腸菌は、15分から20分で倍に増えるが、ビブリオ・バルニフィカスは、その半分の時間で倍に増える。 感染すると24時間以内に発症するという。 皮膚の下の筋肉の膜を破壊し壊死させ、発症からわずか3日間で命を奪う、殺人バクテリア。

 だが、このビブリオ・バルニフィカスには大きな特徴がある。 それは発症する殆どの人が肝硬変など、重い基礎疾患を抱えている人、もしくは、免疫力の弱っている妊娠後期の妊婦であるということである。 しかしエイミーの体は、それまで活発にアウトドアを楽しむなど、健康そのものだった。 そして検査の結果、やはりビブリオ・バルニフィカスも検出されなかったのである。

 ついに両手、両足を失う 
 左足の切断手術から2週間後、エイミーの容態が再び悪化。 このままでは全身がやられると判断した医師は、再び手術を決断。 残っていた右足、さらに両手までも切断することになってしまった!

 原因不明の壊死性筋膜炎に冒されたエイミーさん、彼女の体内からある細菌が大量に検出されていた。 その細菌とは、「アエロモナス・ハイドロフィラ」。 国立感染症センターによれば、主に淡水域の河川やその周辺の土壌に生息する細菌とされているが、実はこの細菌、観賞魚マニアの間では以前から良く知られた存在なのだという。 なぜなら、水槽の水を事前に変えなかったり、事前に煮沸殺菌を行わなかったりすると、金魚や鯉の体にウロコが逆立つ症状や体に穴が空いたような症状が現れることがある。 実はその症状を引き起こすのがアエロモナス菌だというのだ!!

 魚に起こる人喰いバクテリアと同じ症状。 しかし、これはあくまで魚の話し、人間に感染することなどあるのだろうか? アエロモナス菌は口から体内に入っても、稀にお腹を壊す程度だという。 だが、傷口から直接大量に感染すると、稀に壊死性筋膜炎を発症することがあるというのだ! その場合、健康な人でも感染するという。
 エイミーさんは、水中で深い傷を負った。 その時、遇然その川に大量に発生していたアエロモナス・ハイドロフィラが、運悪く彼女の傷口深くに感染してしまったと考えられるという。

 アエロモナス・ハイドロフィラは世界中どこにでもいるという。 そこで番組スタッフは関東近郊の川や池、海などから水を採取。 東京海洋大学の廣野教授に調査を依頼したところ、なんと全ての場所からアエロモナス菌が検出された!

 実は今から20年ほど前、漁師の男性の指に釣り針が刺さり、そのまま放置していたところ、腕が壊死。 その後、彼は肝機能障害を起こし、多臓器不全で死亡した。 そして調査の結果、体内からアエロモナス・ハイドロフィラが検出されたという。 かなり以前の記事であり、事故の詳細については不明だが、この日本でも20年も前からアエロモナス菌による死亡者が出ていたのだ!

 さらに他にも、大阪の男性が車のポンプの下敷きとなり骨折、その時、アエロモナス菌に感染し死亡する事故も起きている。 実は、アエロモナス・ハイドロフィラへの感染例は、アメリカよりもアジア地区のほうが多いのだという!

 今回被害にあったエイミーさんは、依然、予断は許さないものの、壊死の進行は止まり、間もなくリハビリが開始される予定だという。間もなく迎える夏本番、だがこの時期、海や川では気温が上昇し、バクテリアの活動も活発化している。 水辺での怪我には細心の注意を払いたい。(アンビリバボー 2012.7.5)

 アエロモナス・ハイドロフィラ/ソブリア感染症
 アエロモナス(Aeromonas)の研究の歴史は古く、1800年代の末期にはカエルの“red leg”の病原菌として認識されていた。本菌のヒト感染症へのかかわりは1950年代中頃から報告されたが、特に1970年代からは本菌による下痢症に対する関心が高まり、わが国では1982(昭和57)年にアエロモナス属菌のうちA. hydrophila および A. sobria(アエロモナス・ハイドロフィラ/ソブリア)が新たに食中毒菌に指定された。しかしその後、本菌の分類は複雑化していることから、はじめに分類の概略を示す。

 厚生省がアエロモナス・ハイドロフィラ/ソブリアを食中毒菌に指定した当時、アエロモナスの分類はPopoffの分類が世界的に受け入れられていた。Popoff は実用性を重視した結果、分類学的には元来は種に分けるべき菌を、生化学的性状では鑑別できないという理由であえて同一種とした。しかしその後の研究で、アエロモナスには現在16のハイブリダイゼイション群(HG)が認められ、それぞれに該当する14遺伝種(genospecies)および13表現種(phenospecies)が命名されている。

 アエロモナス・ハイドロフィラ/ソブリアをはじめとするアエロモナスは淡水域の常在菌で、河川、湖沼、その周辺の土壌および魚介類等に広く分布している。また、河川水のみならず沿岸海水からもよく分離される。本菌感染症の発生は、それら自然環境の本菌による汚染が直接または間接に影響し、菌の増殖が活発な夏期に多い。本菌の分離率は、地域、年、季節、検査方法などによって異なるが、全体的に熱帯および亜熱帯地域の開発途上国で高いので、これらの地域への渡航者下痢症からも本菌が分離される。

 わが国では明らかなアエロモナス集団下痢症の事例はないが、疫学的証拠から本菌は下痢症の原因菌として広く承認されている。症例のほとんどは散発例で、小児や50才以上の成人に多く発生するのが特徴的である。また、腸炎ビブリオなどの他の病原菌が同時に分離される事例が多い。

 一方、本菌は腸管外感染症の原因ともなり、下痢症についで多いのは創傷感染である。腸管外感染症の部位はほぼ全身の組織に及ぶが、特に皮膚や筋肉などの軟組織感染が多く報告されている。ごく最近、新しい症例として溶血性尿毒症症候群、熱傷に起因する敗血症、咽頭蓋炎などの様々な呼吸器系感染症の報告がみられた。(神奈川県衛生研究所細菌病理部 山井志朗)

参考HP フジテレビ:全米を恐怖に陥れた人喰いバクテリア 国立感染症研究所: 感染症の話「アエロモナス・ハイドロフィラ/ゾブリア」

誰がつくりだしたのか?エマージングウイルス―21世紀の人類を襲う新興感染症の恐怖
クリエーター情報なし
VIENT
崩壊の予兆〈上)―迫りくる大規模感染の恐怖
クリエーター情報なし
河出書房新社

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ ←One Click please