「酒で煮ると超伝導」酸化鉄系化合物
 2年前の、2010年7月、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の研究チームが、鉄を含むある化合物を赤ワイン、ビールなどの酒で煮込んでから、極低温に冷やすと、電気抵抗がゼロになる超伝導状態になることを、突き止めた。しかし、この原因が何なのか当時はわからなかった。

 今回、この不思議な現象の謎が解明された。物質・材料研究機構(茨城県つくば市)と慶応大先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)が7月16日発表した。

 詳細な分析で、酒に含まれるクエン酸やリンゴ酸などが化合物に作用し、余分な鉄イオンが酒の中に溶け出すことで、超伝導物質になることが分かった。この発見は鉄系の物質が超伝導になる仕組みを解明する手掛かりとなり、超伝導になるマイナス約220度以下の温度を引き上げて電磁石などにした場合の冷却コストを安くするのに役立つと期待される。(時事通信 7月16日)

RedWine

超伝導物質とは、1911年にオランダの物理学者カメリン・オンネスが水銀を約4K(−269℃)まで冷やしたときに、電気抵抗がゼロになることを発見した。超伝導物質には、「金属系」、「銅酸化物系」、「鉄酸化物系」のほか最近は「有機化合物」がある。

 銅酸化物系は、1986年、ドイツのベドノルツとミュラーが、ランタン、バリウムを含む銅酸化物系のセラミックスが30Kで超伝導状態になると報告したのが始まり。電気抵抗がゼロになる温度「臨界温度」(転移温度、Tc)が高かったことから、高温超伝導研究ブームの火付け役となった。

 鉄酸化物系は、2006年、東京工業大学の細野秀雄教授らのグループが、鉄を含む化合物(LaFePO;オキシニクタイド)が6Kで超伝導物質になると発表。この鉄酸化物超伝導体の登場は、手詰まり感があった高温超伝導に新たな息を吹き込んだ。というのも、磁性元素の鉄を含む物質は超伝導にはならない、という常識を覆すものだったからである。

 NIMSと慶応大が原因物質と機構を解明
 物質・材料研究機構(NIMS)は、慶應義塾大学(慶応大) 先端生命科学研究所との共同研究により、酒中に含まれる超伝導誘発物質を同定し、そのメカニズムを解明したことを発表した。同成果は、NIMSナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダーらと、慶應大先端研の佐藤暖特任助教らの共同研究によるもので、国際学術誌「Superconductor Science and Technology」の7月出版予定の鉄系超伝導特集号に掲載される。

NIMSでは2010年に鉄系超電導関連物質の鉄テルル化合物[Fe(Te,S)系]を酒中で煮ると超伝導体に変化することを発見しており、今回の研究はその超伝導誘発物質の同定と、誘発メカニズムの解明を目的に実施された。

 鉄テルル化合物の1つであるFeTe0.8S0.2は、空気中で数カ月間放置することで超伝導体になるという奇妙な性質を示す物質である。従来、この反応は空気中の水分や酸素が関与すると予想されてきたが、反応に長い時間がかかるためメカニズムの解明は容易ではなかったが、2010年、NIMSの研究結果として短時間で超伝導化する条件を探索した結果、酒中で煮ることが有効であると判明した。

 しかし、酒であればどれも同じ効果が得られるわけではなく、調べた6種類では「赤ワイン(超伝導体体積率62.4%)」「白ワイン(同46.8%)」「ビール(同37.8%)」「日本酒(同35.8%)」「ウイスキー(同34.4%)」「焼酎(同23.1%)」の順に有効であり、純粋な水/エタノール混合液ではそれほど効果がなく、このことは酒中のエタノール以外の成分が超伝導誘発の鍵を握っていることを示唆した結果となった。

 今回の研究では慶応大先端研が開発したメタボロミクスの手法で、イオン性の低分子を数百種類同時に定量することが可能なキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)を用いて上記6種類の酒に含まれる220種類の低分子を定量し、それらの濃度と超伝導体積率の比較を行った結果、10数種類の物質で強い相関を示していることを確認した。

そこでこれらの「候補物質」の中でも特に相関が高かった「リンゴ酸」「クエン酸」「β-アラニン」について、赤ワインと同濃度の溶液を調製して試料と煮たところ、実際に超伝導が誘発されることが確認されたほか、溶液のpHとも関連することが明らかとなった。

これら十数種類の候補物質はすべてキレート効果を持つと予想されることから、酒中の成分が試料から金属イオンを奪っていると考えられ、試料を煮た後の溶液をICP-AES(誘導結合プラズマ発光分析法)で定量した結果、鉄イオンが溶け出ていることが判明した。

 この結果から、酒中の超伝導誘発因子とはキレート効果を持つ有機酸などであり、それらが超伝導を抑制する過剰な鉄を試料から除去することで、超伝導が誘発されると結論づけるに至ったという。

 なお、過剰な鉄が超伝導に悪影響を与える可能性は、FeTe0.8S0.2に限らず関連する鉄系超伝導体すべてに言えることから、今回の成果は鉄系超伝導体の研究開発に新たなアプローチを与えると考えられると研究グループでは説明しており、これまで超伝導体の有力候補でありながら超伝導性を示さなかった物質に対しても応用できる可能性があるという。(マイナビニュース 2012/07/19)

 超伝導とは?
 超伝導(Superconductivity)とは、特定の金属や化合物などの物質を超低温に冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。電気工学分野では「超電導」と表記されることもある。

 1911年、オランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オンネスにより発見された。この現象が現れるときの温度は超伝導転移温度と呼ばれ、この温度を室温程度に上昇させること(室温超伝導)は、現代物理学の重要な研究目標の一つ。なお、この現象と同時に、マイスナー効果により外部からの磁力線が遮断されることから、電気抵抗の測定によらなくとも、超伝導状態が判別できる。

 金属は温度が下がると電気伝導性が上がり、逆に温度が上がると伝導性は減少する。これは温度の上昇に伴って伝導電子がより散乱されるためである。この性質から、絶対零度に向けて金属の電気抵抗はゼロになることが昔から予想されていた。このことを検証する過程で、超伝導は1911年にヘイケ・カメルリング・オネスによって発見された。超伝導となる温度(臨界温度、Tc)は金属によって異なり、例えばニオブは9.22K、アルミニウムは1.20Kとなる。

 特定の物質が超低温に冷やされた時に起こる現象は「超伝導現象」(Superconductivity phenomenon)、超伝導現象が生じる物質のことは「超伝導物質」(Superconductor)、超伝導物質が超伝導状態にある場合「超伝導体」と呼ばれる。
 液体窒素の沸点である-196℃(77 K)以上で超伝導現象を起こすものは特に高温超伝導物質(Cuprate superconductor)と呼ばれる。
 物質が超伝導状態になるということは「水が氷になるように、まったく新しい相へ移行すること(相転移)」を意味する。このため超伝導相に移り変わる温度を、(超伝導)転移温度という。超伝導に転移する前の相は常伝導という。
 超伝導体には電気抵抗がゼロになる他にも、物質内部から磁力線が排除されるマイスナー効果によって「磁気浮上」現象を起こす。この時、磁力線の強度への応答の違いから第一種超伝導体(Type I superconductors)と第二種超伝導体(Type II superconductors)とに分類される。第二種超伝導体では磁力線の内部侵入を部分的に許すことで高強度の磁力に対してマイスナー効果が発生する。第二種超伝導体では、ピン止め効果によりゼロ抵抗を維持している。
 これらの現象はいずれも、量子力学的効果によって起きていると考えられており、基本的なしくみはBCS理論によって説明される。日常では扱わない低温でしか発生しない現象で、その冷却には高価な液体ヘリウムが必要な事から、社会での利用は特殊な用途に限られていた。20世紀末にようやく上限温度(転移温度)が比較的高く安価な液体窒素で冷却できる高温超伝導体が相次いで発見されてから一般への認知も大きく進んだ。今後はさらに一般的な低温環境や室温で機能する実用的な超伝導体の発見が期待されている。(Wikipedia)

参考HP Wikipedia:超伝導 マイナビニュース:酒で煮れば超伝導ができる? アイラブサイエンス:なぜ?赤ワインにつけると超伝導化

量子の世界―宇宙と物質の神秘に迫る〈2〉 (学術選書)
クリエーター情報なし
京都大学学術出版会
超伝導の基礎
クリエーター情報なし

東京電機大学出版局

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