CO2濃度が上昇400ppm越える
 2012年5月16日、気象庁は、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が国内の観測地点、で初めて400ppm(0.04%)を超えたと発表した。世界平均で400ppmを超えると地球温暖化が深刻化するとされており、同庁は「これだけ温暖化対策が叫ばれても全く減る兆候がない」と危機感を強めていた。

 観測されたのは、人間活動の影響を受けにくい岩手県大船渡市、東京都・南鳥島、沖縄県・与那国島の3地点でCO2濃度を観測。大船渡市では3月の月平均値が401.2ppm、4月に402.2ppmを記録し、1987年の観測開始以来、初めて400ppmの大台を超えた。過去10年間は1年に約2ppmのペースで上昇が続いている。気象庁によると、一般的に人口の多い北半球の方がCO2濃度が高く、2010年の世界の年平均値は389.0ppm。産業革命以前と比べると100ppm以上も増加しており、100年当たり0.68度の割合で気温が上昇している。(毎日新聞)

 地球温暖化対策として、CO2削減は欠かせない。我が国でも、節電や省エネ、再生可能エネルギー買取制度など行っている。しかし、3 ・11以来、原発停止のため、CO2削減は難しい状況が続いている。

 世界では緑化にも努めているが、温暖化の影響で砂漠化はすすみ、CO2削減にどの程度効果があるか疑問である。そこで、陸がだめなら広い海で緑化しようという研究が進んでいる。7月19日号「Nature」誌では、海洋に鉄分を投入して植物プランクトンの増殖を促し、二酸化炭素(CO2)を吸収させるという温暖化対策が提唱された。

Geoengineering-iron-plankton

 海への鉄分投入、温暖化防止に効果?
 鉄分投入は長年、“地球工学的”な究極のアプローチの一つとして提案されてきた。気候をコントロールして温室効果ガスの影響を減らす手法である。いくつかの研究結果から、問題点も指摘されていた。海洋生物に悪影響を及ぼす酸素欠乏状態を引き起こしたり、一部の生物に有害なタイプのプランクトンが増殖する危険性があるという。

 しかし今回、このような問題点には根拠がないと示された。また、鉄分が投入された海域で増殖したプランクトンは、大部分が海底に沈み、堆積物に埋もれることもわかった。事実ならCO2の長期間にわたる封印を実現できる。

 研究に参加したドイツ、アルフレッドウェゲナー極域海洋研究所(AWI)のクリスティン・クラス(Christine Klass)氏によると、2004年に硫酸鉄「7トン」を南極海の150平方キロに投入したという。地球規模の炭素循環の中で、きわめて重要な役割を果たす海域である。

 やがて、植物プランクトンの1種である珪藻が繁茂、粘着性が高い大規模なグループが形成された。この実験では、発生したプランクトンの50%以上が海底に沈み込んでいる。研究チームはその後、何年間も検証を続けてきたが、鉄分投入の効果については慎重だ。

 この手法によるプランクトン増殖では、現代のCO2排出量の10%ほどしか回収できないという。「しかもかなり楽観的な想定に基づいている」と、同じくAWIに所属し、研究の共同責任者を務めたディーター・ウルフ・グラッドロウ(Dieter Wolf-Gladrow)氏は指摘する。「鉄分投入でCO2問題がすべて解決する訳ではない」。

 クラス氏も、「さまざまな不確実性や副作用が懸念されており、検証を重ねる必要がある。大規模な計画を実行できる段階ではない」と語っている。(National Geographic News July 20, 2012)

 海の砂漠化の原因
 まだまだ、海への鉄分投入には検証が必要で、実現段階にはないということだが、日本でも実証実験が進んでいる。

 2010年1月3日の毎日新聞によると、北海道、東北地方の日本海沿岸では、外洋のように含まれる鉄イオンの濃度が低く、本来なら河川などの水によって鉄イオンの濃度が高くなければならないのに、そうではなくなっている。この理由は、河川水の流入がほとんどなくなっているからで、ここでは「海の砂漠化」いわゆる「磯焼け」が起きていた。こうした場所では、植物プランクトンが少ないし、海藻も生えないから、これを食料とする魚なども少ない。

 最近では、「豊かな森があるところは、海も豊かである」という言葉は、常識的になってきた。豊かな森があるところは、木の葉が腐って腐葉土になると、鉄イオンと結びついて、「フルボ酸鉄」という植物プランクトンに吸収されやすい鉄が出来る。河川の水と外洋水が混じり合うところを「沿岸海域」と呼ぶが、ここに河川からフルボ酸鉄、腐植物質、栄養素が供給されることで、沿岸の生物が育つしくみだ。

 「磯焼け」の現状に対しては、鉄鉱石から鉄を取り出す際に生じる副産物「鉄鋼スラグ」を使い、海洋中に不足していた鉄を補って海藻の成長を促すことに、新日本製鉄や東京大などの研究チームが成功している。

 研究チームは5年前に鉄鋼スラグを沿岸へ埋めて鉄を人工的に補給する実験に着手した。鉄が海水に溶けやすくなるよう鉄鋼スラグ8トンを腐植土4トンと一緒に混ぜて袋詰めにし、磯焼けが発生している北海道増毛(ましけ)町の日本海沿岸に沈めた。

 その結果、海藻1本当たりの重さは何の対策も取っていない近くの場所に比べて、約8カ月間で8倍に増えたことが分かった。また、埋設場所から算出されるCO2吸収量は海藻1平方メートル当たり年間5.5キロだった。過去30年間に消失した日本沿岸の藻場のほぼ半分をこの方法で再生すれば、日本の年間排出量(約13億トン)の約0.5%に当たる700万トンを吸収することになるという。

 現在、北海道以外にも三重県や長崎県など十数地点で実験しており、効果の継続期間などを検証していく。(毎日新聞 2010年1月3日)

 海のCO2吸収量は何が影響するか?
 それにしても、鉄にたよらなくても、地球温暖化で空気中のCO2濃度が上昇すれば、海が吸収するCO2量も自然に増加しそうだがそうはならないのだろうか?

 国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、温暖化に関する最新のデータを分析する。そして、政策立案者への助言することを目的としている。その第3次報告書では、海水のCO2吸収量が増えると予想されていたが、第4次報告書によると、逆に温暖化とともに低下すると予想されている。

 地球表面の7割を占める海は、毎年約20億トンの二酸化炭素(CO2)を吸収している。これは、全世界の1年間の化石燃料燃焼によるCO2排出量の約3分の1。海のCO2吸収量が今後どう推移するのかを探ることは、気候変動予測や温暖化対策に役立つため、国内でも船舶による観測やブイを使った自動観測装置などの研究が進んでいる。

 海は大気中の約60倍のCO2を海水中にとけ込ませており、一部は植物プランクトンの光合成に利用されている。大気中のCO2濃度(379ppm)より海洋の濃度が低くなると海洋はCO2を吸収、大気中より高くなると放出する。

 CO2の排出が増えて大気中の濃度が増加すれば、理論的には海洋の吸収量も増えるが、東京大海洋研究所の植松光夫教授は「温暖化で海洋表面の水温が上昇すると、表層域と深層域との水温差が広がり海水が混ざりにくくなる。深層域からの栄養分の供給が減るので、光合成のためにCO2を取り込む表層域の植物プランクトンも減少し、CO2吸収量が減ることもある」と説明する。(毎日新聞 2007年5月9日)

 さらに、海でCO2吸収量に、大きな役割をはたしているのがサンゴ礁である。 最近では地球温暖化の影響で、海水が30℃以上になり、サンゴが死滅する「白化現象」が起きている。やはり、地球が温暖化する前にCO2量を減らさねばならないようだ。

参考HP Natiopnal Geographic news:海への鉄分投入、温暖化防止に効果 アイラブサイエンス:“森が海を育てる”“心に木を植える”

鉄が地球温暖化を防ぐ
クリエーター情報なし
文藝春秋
地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)
クリエーター情報なし
化学同人

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