「ヒッグス粒子」の発見
 2012年7月4日、欧州合同原子核研究機構(CERN)が、物質に質量を与えたとされる仮説上の素粒子「ヒッグス粒子」とみられる新しい素粒子を発見したと発表した。存在確率は99.9999%以上になるという。年内にさらに実験を繰り返し、発見を確定させるという。

 宇宙が誕生した137億年前の大爆発(ビッグバン)によってヒッグス粒子を含むあらゆる素粒子が光速で飛び回った。その約100億分の1秒後に、宇宙空間の状態が変わり、他の粒子の周りにヒッグス粒子がまとわりついて、動きにくくした(質量を与えた)と考えられている。この仮説は英国の物理学者ピーター・ヒッグス博士が、南部陽一郎・米シカゴ大学名誉教授(2008年ノーベル物理学賞受賞)の理論「自発的対象性の破れ」を土台に、1964年に提唱していたもの。

 これで、素粒子物理学の基礎となる「標準理論」で考えられた17種類の素粒子のうちの最後の1つが見つかったことになる。これで理論は完成したのだろうか?

 実験結果を精度よく説明できる標準理論にもいくつかの謎がある。例えば、標準理論の3つの力、強い力と弱い力、電磁気力を統一的に考えようとすると、理論が矛盾なく成立するためには方程式に現れるパラメータを何十桁にもわたって細かく調整する必要がある。また、宇宙の質量の大部分を担うとされる暗黒物質も、標準理論の素粒子ではうまく説明することができない。

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 超対称性理論が暗黒物質の謎を解く
 標準理論に現れる謎を解決するために考えだされた理論の一つが超対称性理論。この理論では標準理論で考えられる6種類のクォークと6種類のレプトン、さらに力を媒介する粒子やヒッグス粒子のすべてに超対称性という性質にもとづくペアの粒子があるものと考える。

 超対称性理論にあらわれる素粒子。未発見な超対称性粒子のうち、電気的に中性なものが宇宙の暗黒物質の候補と見られている。

 電子やクォークや光子などは回転をあらわすスピンという性質を持っている。電子やクォークはスピンが1/2(半整数スピン)、光子はスピンが1(整数スピン)、ヒッグス粒子はスピンが0(整数スピン)となっている。

 超対称性理論ではこれらのそれぞれにスピンが1/2だけずれたペアの粒子、超対称性粒子があるものと考えられる。電子のペアのスカラー電子、クォークのペアのスカラークォークはスピンが0(整数スピン)、光子のペアのフォティーノはスピンが1/2(半整数スピン)、ヒッグス粒子のペアとなるヒグシーノもスピンが1/2(半整数スピン)となる。

 これらのペア粒子があると理論上は便利だが、これまでの実験では見つかっていない。超対称性は現在の宇宙では破れていて、ペアになる粒子はこれまでに見つかっている粒子よりもずっと重いためだと考えている。

 超対称性理論が本当に正しいかを確かめるには高いエネルギーの実験で超対称性粒子を作り出すしかない。これまでに得られたいろいろな実験データを総合すると、超対称性粒子もLHC加速器で発見される可能性がある。また、もし超対称性理論が正しければ、超対称性粒子の中の電気的に中性なものが宇宙の暗黒物質の最有力候補となる。

 Dゼロ実験の説明
 物理学の標準模型では説明できない“刺激的”な研究結果が発表された。“神の粒子”が5種類存在する可能性が加速器実験で示されたという。ヒッグス粒子と呼ばれる理論上の粒子は、宇宙のすべてに質量を与えると考えられているため、“神の粒子”という名も持っている。

 今回、アメリカのイリノイ州バタビアにあるフェルミ国立加速器研究所の研究者たちは、複数のヒッグス粒子が存在する新たな証拠をつかんだと主張している。

 フェルミ研究所の陽子・反陽子衝突型加速器テバトロンによる「Dゼロ」と呼ぶ実験で最近、陽子と反陽子を衝突させた場合、反物質より物質の粒子ペアが生じる確率の方が高いと判明した。

 確率の差は1%未満で、ごくわずかだ。それでも、今回の研究に参加した同研究所の理論物理学者アダム・マーティン氏によると、ヒッグス粒子の種類を1つとする標準模型では説明できないという。「本当にわずかな違いだが、標準模型のルールにとっては非常に大きな差だ。1種類しか認めない標準模型は、Dゼロ実験の結果を説明するには不足だ」とマーティン氏は話す。

 一方、ヒッグス粒子が5種類あると仮定すれば、実験結果の説明が成り立つ。この考え方は標準模型の拡張版で、2ヒッグス二重項模型と呼ぶ。「標準模型を拡張する際、新たな粒子や相互作用を導入した。その相互作用は、物質や反物質に異なる形で作用する可能性があり、より有意義な実験結果が得られるかもしれない」とマーティン氏は話す。

 ヒッグス粒子が5種類ある可能性
 もし複数のヒッグス粒子が存在すれば、それぞれが物質に異なる形で作用している可能性がある。その場合、標準模型の枠を超えた未知の理論が見つかるかもしれないと研究チームは期待している。「標準模型を拡張する方法の多くが、第1段階として複数のヒッグス粒子を付け加えている」とマーティン氏は言う。

 同じフェルミ研究所に所属する理論物理学者クリス・クイッグ氏は、「今回の研究結果はかなり刺激的だが、まだ予備的なものにすぎない」と強調する。「疑う理由はないが、これほど意外で理解が難しい結果については、時間をかけてじっくり考えていく必要がある。とにかく、早くから騒ぎ立てないことだ」。

 もしマーティン氏らが主張する通りヒッグス粒子が5種類存在すれば、スイスのLHCでも検出できるはずだ。「われわれの解釈では、ヒッグス粒子が重すぎるという可能性はない。LHCが本格稼働を始めれば間違いなく検出できるはずだ」とマーティン氏は語る。

 LHCの重イオン衝突実験装置ALICEのプロジェクト責任者で、イギリスにあるバーミンガム大学の物理学者デイビッド・エバンス氏は、電子メールで次のようなコメントを寄せている。「個人的には、ヒッグス粒子が5種類ある可能性は低いと思うが、もし正しいと証明されればLHCからますます目が離せなくなるだろう」。

 今回の実験結果は、物理学の研究論文が登録されているウェブサイト「arXiv.org」で公開されている。(Ker Than for National Geographic News June 17, 2010)

参考HP Wikipedia:超対称性理論  National Geographic news:神の粒子は5つあるとの新証拠

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