熱波や干ばつ、原因は地球温暖化
 アメリカは地球温暖化に確たる証拠はないといって、京都議定書に参加していないが、実際に地球温暖化で起きる現象を目の当たりにしているのもまたアメリカである。以下は8月2日付National Geographic news からの引用。 

 アメリカなど各地を襲っている最近の熱波で、山火事や干ばつが頻繁に発生、死傷者数が増加している。原因は地球温暖化の可能性が非常に高く、NASAの気候科学者ジェームズ・ハンセン(James Hansen)氏は、今後も相次ぐだろうと予想している。

 60年分の地球全体の気温データを分析した最新研究では、夏の異常気象の発生確率が急激に高まっている原因は、人間が引き起こした地球温暖化以外に考えられないと結論付けられている。

「かつてないほど異常気象の確率が高まっている。温暖化が原因だ」と研究の共同責任者を務めたハンセン氏は話す。

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 異常気象は人為的な影響抜きでも自然発生する可能性があるので、多くの気候科学者は温暖化との関連付けに慎重な姿勢だった。このような旧来の考え方が支配的だった頃から同様の警告は絶えなかったが、ハンセン氏はさらに発展させた見解を示した。

 温室効果ガスの排出による気候への影響は、細工が施されたサイコロに例えられる場合が多い。毎回6の目が出るわけではないが、その確率を高める仕掛けがある。

 つまり、「温暖化イコール毎年の異常気象」ではなく、“発生する確率”の問題だった。しかし、ハンセン氏によると、もはやその比喩では状況を説明しきれないほど、影響は顕著になってきているという。

 「慎重論を繰り返すだけでは不十分な段階に来ている。“地球温暖化によってやがて異常気象の発生確率が高まる”といった警告や、“異常気象と気候変動を関連付ける直接的な証拠はない”など、どれも実態とかけ離れてしまった」とハンセン氏は指摘する。「むしろ最近の酷暑の原因は気候変動以外にないと考えるべきだろう」。

 この研究に先立って温暖化の実態を調査したバークレー地表温度プロジェクト(Berkeley Earth Surface Temperature)の共同設立者リチャード・ミュラー(Richard Muller)も、同様の結論に至っている。同氏は温暖化の影響について懐疑的だったが、7月後半に「New York Times」紙に掲載された論説欄で持論を転換、「気温の上昇はすべて温室効果ガスの排出に起因しているようだ」と述べている。

 異常な熱波の発生確率が上昇
 ハンセン氏のチームは60年分の地球全体の気温データを分析し、夏の異常気温の発生数が、「3シグマ」という標準分布を越えて増加していることを突き止めた。このレベルの異常は、温暖化がなければ、熱波1000回のうち2回ほどしか発生しないという。

 しかしハンセン氏は、「オクラホマ州、テキサス州、メキシコ北部を襲った2011年の熱波と、2010年のモスクワ、そして現在のアメリカ中西部で発生している猛烈な熱波も、このレベルに該当する」と言う。

 かつては非常に稀で、温暖化の兆候が現れる前の1951~1980年の期間には、この種の異常高温に見舞われる地域は地球上の0.1%に留まっていた。ところが過去30年間で範囲は10%に広まっており、今後10年間で17%に拡大するとみられている。

 「自然発生の可能性はきわめて低い。それでも温暖化とは関係がないと言い張るのは、仕事をやめて宝くじで生計を立てるのと同じくらい無謀だろう」とハンセン氏は話している。

 「今回の研究が温暖化に歯止めをかけるきっかけとなり、各国政府が化石燃料関連の補助金を廃止し、石油会社から税金を徴収する取り組みを活発化させてほしい」とハンセン氏は述べる。

「生まれた予算は市民に分配し、経済を活性化させてクリーンエネルギーの開発を推進する。そのようなエネルギー政策をいち早く施行できた国が、インフラを最新化して他国にテクノロジーを輸出し、躍進を遂げることになるだろう」。

 今回の研究は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌で8月6日に発表された。(Ker Than for National Geographic News August 7, 2012)

 50年で最悪の米干ばつ、熱波が追打ち
 実際に、アメリカの干ばつが深刻の度合いを深めている。バラク・オバマ大統領は7日、過去50年で最悪の干ばつのために農業・畜産業の被害が甚大であるとして、農家・農場経営者への災害救助策強化法案の可決を議会に求めているが、干ばつの影響は水供給や農業生産だけでなく、森林環境、エネルギー生産、流通、衛生など、幅広い方面に及びつつある。以下は8月8日付National Geographic news からの引用。

 干ばつ情報を提供するWebサイト「アメリカ干ばつモニター(U.S. Drought Monitor)」によれば、国土の約50%は深刻度が中程度のD1以上、約40%が深刻なD2以上、約17%が非常に深刻なD3以上に該当している。

 同サイトの運営に携わる気候学者ブライアン・フュークス(Brian Fuchs)氏は7月26日のレポートの中で、「中西部から南部のイリノイ、アイオワ、ミズーリ、インディアナ、アーカンソー、カンザス、ネブラスカで特に被害が大きい。先週には、深刻な干ばつの範囲がワイオミングとサウスダコタの一部まで拡大した」と述べている。

 干ばつに伴い食糧価格は上昇。このまま高騰が続けば、「食糧危機」という事態さえ懸念される。2007~2008年の食糧危機に関する国連の推定によると、2006年の価格が一部の国では75%も上昇、慢性的な飢餓に苦しむ人口が1億1500万人増えたという。カリブ海のハイチやアジア、サハラ以南のアフリカなど、発展途上国が特に大きなダメージを受けた。

 世界人口は2050年までに90億人を突破すると予想され、食糧危機が頻発するリスクが高まっている。アメリカを襲う記録的な干ばつなど、異常気象の増加も食糧不足に拍車をかける可能性がある。「今のうちに手を打っておかなければ、さらに深刻な事態に見舞われるのは確実だ」と、国際食糧政策研究所(IFPRI)の所長シェンジェン・ファン(Shenggen Fan)氏は話している。

 トウモロコシの収穫量30%減少
 アメリカのトウモロコシ生産地帯「コーンベルト」全体が大打撃を受けており、価格が高騰している。収穫量が30%も減少した1988年以来、最悪の作物被害となる可能性が高いという。専門家の予測では、トウモロコシ、大豆、小麦などの主要穀物の供給不足により、間もなく食料の流通価格が上がり、その状況が2014年ごろまで続く。家畜の餌でもある穀物の価格が上昇すると、やがては食肉や乳製品の値段にも転嫁されるはずだ。

 また、アメリカで生産されるトウモロコシの40%はエタノール用に使用されており、エタノール製造量も約2年間の最低レベルまで落ち込んだ。トウモロコシの価格高騰による供給不足への不安から、今年のエタノール価格は約22%上昇している。

 干ばつに強いモロコシ(ソルガム)への転作は考えられるが、取引価格はトウモロコシほどにはならず、何より今年の作付けは既に間に合わないケースが多い。

 飼料用トウモロコシや干し草の供給量低下と価格上昇は、牛などの畜産農家を苦しめている。牧草地が枯れて放牧ができなくなり、飼料も高騰となれば、畜産業者は家畜が十分に育つ前に売却せざるを得なくなる。

 深刻化する干ばつは、農場の雑草除去にも大きな影響を与える可能性がある。乾燥した条件下では、除草剤の分解スピードが非常に遅くなる場合が多い。次の作付け時期まで残留し、輪作作物に害を及ぼす恐れがある。残留農薬のリスクを背負って雑草対策を進めるべきか、水不足と猛暑で苦しむアメリカの農家に新たな難問が突きつけられている。

 多発する山火事・砂嵐
 干ばつの時期には山火事の頻度が増える。コロラド州で6月に発生した複数の山火事は、州最悪の火災の記録を2度にわたって塗り替えた。

 山火事が発生すると、水に関連する問題も起きやすくなるという。世界水資源方針計画(Global Water Policy Project)のサンドラ・ポステル(Sandra Postel)氏は次のように説明する。「水処理システムにさまざまな影響が及びかねない。雨が降ると、焼き払われた河川流域から堆積物や岩屑(がんせつ)が流出して洪水を引き起こす。その結果、水質が悪化したり、水処理設備に詰まったりする。2011年6月にニューメキシコ州、ロスアラモス国立研究所周辺で発生した“ラス・コンチャス(Las Conchas)火事”が一例だ。火災と洪水のワンツーパンチに見舞われたのだ」。

 一部の専門家は、気候変動によって激しい砂嵐「ハブーブ(haboob)」の頻度が増えると予想している。

 ハブーブは、地面に降下した雷雨の冷たい空気が、乾燥した表土や砂を巻き上げて発生する。アメリカ南西部では5~9月のモンスーン期に多く見られる。卓越風に乗って高温多湿な空気が流れ込み、激しい下降気流を伴う雷雨が起きやすいからである。

 砂嵐が発生すると視界がほぼゼロになり、交通に支障が出る。また、特に呼吸器系が弱い人は症状が悪化しかねない。重金属、化学物質、バクテリアなどの汚染物質も運ばれてくるため、長期的な健康被害も懸念される。

 森林への影響は山火事だけではない。気温の上昇に干ばつが重なってキクイムシが大発生し、アラスカからメキシコに至る地域の何十億本もの針葉樹が、わずか数年で壊滅した。

 キクイムシ・西ナイル熱など感染症
 高い気温でキクイムシの繁殖サイクルが促進され、冬を生き延びる個体も増える。一方、樹木は干ばつのストレスによって弱り、さまざまな脅威の影響を非常に受けやすくなっている。食欲旺盛なキクイムシも例外ではない。

 洪水後に大量発生する種類の蚊は、干ばつで水がなくなり、発生が抑えられている。しかし、西ナイルウイルスを媒介する、より危険なイエカ属は増えているという。多数の州保健局が、今年は蚊による西ナイルウイルスの感染率が上昇し、発症も例年より早いと報告している。

 気温が上昇すると、蚊の繁殖サイクルが短くなり、ウイルスの増殖スピードも早まる。また、水位が下がって淀んだ河川は蚊の新たな産卵場所になっているという。

 干ばつは、感染症の増加を招く可能性もある。例えば、コクシジオイデス症を引き起こす危険な真菌「コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)」は、アメリカ南西部やメキシコなど中南米の乾燥した土壌に住み、干ばつが発生すると感染の危険が大幅に増える。強風などで胞子を含むちりが舞い上がり、人間の肺に侵入するためだ。発熱や重い肺炎につながる恐れがあり、死亡するケースも確認されている。2010年に発表されたアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、国内での発症は1万6000例以上。大部分は南西部のカリフォルニア州とアリゾナ州に集中していたという。

 流通への影響・シェールガス採掘
 トラック輸送がほとんどと思われがちなアメリカだが、水運は今も大きな比重を担っている。艀(はしけ)は毎年1800億ドル(約14兆円)相当の農作物や石炭、鉄鋼などを運んでいるが、水位の下がったミシシッピ川などでは、積載量の削減を余儀なくされている。その結果、輸送回数が増え、コストの上昇を招くという。

「干ばつと水位低下は経済にとってダブルパンチだ。農業への直接的な影響だけでなく、農作物など必需品の水上輸送も滞っている」と、アメリカ水上輸送業者協会(American Waterways Operators)の代表兼CEO、トム・アレグレッティ(Tom Allegretti)氏は声明で述べている。

 河川・地下水の水量低下のために、大量の水を消費するシェールガス採掘が一部で停止に追い込まれている。

 化学物質を混ぜた水を高圧で地下に注入して岩石層を砕き、クラック(割れ目)を作って天然ガスを噴出させる水圧破砕(フラッキング)という手法が普及し、埋蔵量の豊富なアメリカでは近年生産量が拡大してきた。フラッキングでは1回あたり約1万5000キロリットルの水が消費されるが、そのための取水許可が、サスケハナ川流域のペンシルバニア州13郡とニューヨーク州1郡で停止された。2008年6月にこの目的の取水が許可されて以来、最も厳しい制限だという。(Kastalia Medrano for National Geographic NewsAugust 8, 2012)

参考HP National Geographic news:食糧価格高騰、米国干ばつの影響 50年で最悪の米干ばつ、熱波が追打ち

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