水の分子構造
 1936年のノーベル化学賞の受賞理由は、「双極子モーメントおよびX線、電子線回折による分子構造の研究」である。受賞したのは、オランダ・マーストリヒト出身の物理学者・化学者でピーター・デバイ(1884年~1966年)である。

 今日、水の分子構造、二酸化炭素の分子構造というと、図のようなおなじみの分子モデルをイメージする人が多いだろう。だが、どうして二酸化炭素分子(CO2)の酸素分子(O)2個は、炭素原子(C)1個に結合すると、ほぼ一直線になるのに、水分子(H2O)の水素原子(H)2個は、酸素原子(O)1個に結合すると直線にならないのだろう?

 デバイは、分子内に電気的な極性ができると考えた。すなわち、水分子(H2O)の場合は、水素原子(H)2個と、酸素原子(O)1個が結合すると水素原子(H)側が+電気を持ち、酸素原子(O)側が、-の電気を持つようになる。

Peter Debye

 このように、分子内に電気的な偏りができるものを、極性分子(Polar molecule)という。極性分子には+の電気を持つ原子と-の電気を持つ原子が存在し、これを電気双極子という。

 極性分子の代表的なものとして、水(H2O)、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)などがある。分子が極性を持つ原因の一つに、分子を構成する種類の異なる原子同士の電気陰性度の差がある。一般に、極性分子は極性の無い(無極性な)溶媒(例:ベンゼンなど)には溶け難く、極性を持つ溶媒(例:水、エタノールなど)には可溶(場合により易溶)である。

 これとは逆に、分子内の結合に電気的な偏りがなく、電気双極子をもたない分子を無極性分子(非極性分子)という。二酸化炭素、四塩化炭素などがある。

 デバイは、物質にX線や電子線をあてて、分子構造を調べる方法も開発した。これをX線回折や電子線回折という。現代においても物質の構造を調べる重要な方法になっている。

 デバイの考えた、原子・分子モデルによって、目に見えない原子・分子の構造が分かりやすくなった。ワトソン、クリックの発見した、DNA分子の螺旋構造もデバイの分子モデルがなければ理解できない。現代の医薬品などの化学物質の合成にも、デバイの分子モデルがさかんに使われている。 

 ピーター・デバイ
 ピーター・デバイ(1884年~1966年)は、オランダ・マーストリヒト出身の物理学者・化学者で、1936年のノーベル化学賞の受賞者。受賞理由は「双極子モーメントおよびX線、電子線回折による分子構造の研究」である。

 出生時の名は「ペテルス・ヨセフス・ウィルヘルムス・デバイェ」または「ピーター・ヨセフ・ウィレム・デバイェ」(Petrus Josephus Wilhelmus Debije / Pieter Joseph Willem Debije)であった。

 1911年からチューリッヒ大学、ユトレヒト大学、ゲッチンゲン大学の教授を歴任した。1920年チューリッヒ工科大学教授、1927年ライプツィヒ大学教授を経て、1934年から1938年までベルリン大学教授とカイザー・ウィルヘルム物理学研究所の所長を兼任した。

 1939年に渡米して、1940年から1950年までコーネル大学教授を務めた。1946年にアメリカ合衆国に帰化した。

 おもな研究分野・業績は次の通りである。
1912年 - 非対称分子の電気双極子モーメントの研究、これにより分子モーメントの単位名にデバイの名前が使われている。
1912年 - 低温領域の比熱に対するアインシュタインの式をプランクの量子論をつかって拡張した(デバイの比熱式)。
1913年 - ニールス・ボーアの原子構造の理論を拡張した。
1914年–1915年 - ポール・シェラーとX線散乱による構造解析法デバイ-シェラー法を開発した。
1923年 - エーリヒ・ヒュッケルと電解液中の、デバイ-ヒュッケルの式を提出した。
1923年 - コンプトン効果の説明を行った。
1936年 - 分子構造の研究への貢献でノーベル化学賞を受賞。

 ピーター・デバイの名前は、電気双極子モーメントを表す単位「D (デバイ:debye)」に残されている。SI単位系・CGS単位系としては認められていないが、物理学・化学などの分野では頻繁に使用されている。

 10−18cm を 1 D と定義する。SIでは、厳密に (1/299792458)×10−21C·m(クーロンメートル)であり、約 3.33564×10−30C·m に等しい。
 一般的な原子や分子の電気双極子モーメントは、「電気双極子モーメントの原子単位」である、ボーア半径と電気素量の積 ≒ 2.54 D のオーダーとなる。SI単位でこの値を表すと 2.54 D ≒ 8.47×10−30C·m と極めて小さな値となって使いづらいため、一般的にデバイが使用される。(Wikipedia)
 電気双極子とは何か?
 電気双極子(electric dipole)とは、正電荷 q と負電荷 -q(ここでは簡略化のため、いずれも点電荷とする)が微小な距離 d 離れて存在する状態のことである。

次の式で示される  P = q×d  p を電気双極子モーメント(或いは単に双極子モーメント)と言う。ここで、 d は負電荷 -q から正電荷 q へ向かうベクトルである。この式は次のように説明できる。

 まず初めに、ヤジロベエを思い浮かべよう。左右に同じ重量のオモリがあり、ちょうど釣り合いが取れている。 今、右のオモリを2倍にする。当然右に傾き、バランスを崩して倒れてしまう。

 オモリを2倍にしたまま釣り合いを取るには、右のオモリの位置を支点の方にずらせばよく、具体的には支点と力点との距離を半分にすれば釣り合いが取れる。 つまり、ヤジロベエでは左右の重量を一致させるよりも、重量×距離を一致させることが重要になる。左右に傾くという運動(回転運動)を考える上で、このような「重量×距離」の値が本質的に重要であることを、まずは、理解しておこう。

 次に水分子などの極性分子について考えてみよう。極性分子は分子内でδ+とδ-に分極している。このため、外部電場を印加すると分子は回転する。この回転力はどうやって記述すればよいか? もうお分かりだろう、分極によって発生した「電荷と距離」を掛け算すれば、それが回転力を表す。この「電荷(q)×距離(d)」のことを「電気双極子モーメント(P)」、もしくは単に「双極子モーメント」と呼ぶ。

 X線回折とは何か?
 X線を結晶に照射すると、ブラッグの法則を満たした方向にのみX線が回折され、結晶構造を反映したパターンが生じる。 これをX線回折(X‐ray diffraction、XRD)という。X線が結晶格子で回折を示す現象である。1912年にドイツのマックス・フォン・ラウエがこの現象を発見し、X線の正体が波長の短い電磁波であることを明らかにした。

 この現象を利用して物質の結晶構造を調べることが可能である。このようにX線の回折の結果を解析して結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定する手法をX線結晶構造解析あるいはX線回折法という。しばしばこれをX線回折と略して呼ぶ。他に同じように回折現象を利用する結晶構造解析の手法として、電子回折法や中性子回折法がある。

 1895年にヴィルヘルム・レントゲンがX線を発見。1912年にマックス・フォン・ラウエが硫化亜鉛結晶によるX線回折現象を発見し、続く1913年には、ヘンリー・ブラッグとローレンス・ブラッグの父子がブラッグの法則を発表してX線回折による構造解析に理論的な基礎を与えた。1916年にはピーター・デバイとパウル・シェラーが粉末試料から構造を解析するデバイ--シェラー法を発表し、X線回折による構造解析が広く行われるようになった。

 マックス・ペルーツによる重原子同型置換法やハーバート・ハウプトマンによる直接法などの開発、さらには放射光やコンピューターの進歩により、X線回折法は複雑な結晶にも適用が可能となった。

 20世紀中頃には、X線回折法は構造生物学においても広く用いられるようになった。特に1953年のロザリンド・フランクリンによるDNAのX線回折写真は、二重螺旋構造解明に重要な寄与をしたことが知られている。X線回折による生体分子の構造解析はその重要性から繰り返しノーベル化学賞の対象ともなっており、1962年にジョン・ケンドリュー(ヘモグロビンの構造決定)、1964年にドロシー・ホジキン(ペニシリンなどの構造決定)、2003年にロデリック・マキノン(カリウムチャネルの構造決定)が受賞している。

 X線回折計はX線の発生部、試料室、検出部からなる。X線の発生部は通常X線管球が使用される。これは陽極で発生させた熱電子を対陰極の金属に衝突させてX線を発生させるものである。対陰極に使用される金属に応じた特性X線とバックグラウンドとして白色X線が放射される。検出部はかつては写真乾板が使用されていたが、現在では比例計数管が使用されている。(Wikipedia)

 電子線回折とは何か?
 電子回折または電子線回折 (electron diffraction) は、試料に電子を当てて干渉パターンを観察することで、物質を研究するのに使われる技法。粒子と波動の二重性によって起こる現象であり、粒子(この場合は電子)は波動としても説明できる。このため、電子は音や水面の波のような波動として見ることができる。類似の技法として、X線回折や中性子回折がある。

 電子回折は固体物理学や化学において、固体の結晶構造の研究によく使われる。実験では電子後方散乱回折像法を使った機器である透過型電子顕微鏡 (TEM) や走査型電子顕微鏡 (SEM) を使うことが多い。これらの装置では、電子は静電ポテンシャルによって加速されることで必要なエネルギーを得、対象の試料に向かって放出する前に特定の波長となるよう設定する。

 結晶体は周期的構造を持つため、回折格子として機能し、予測可能な形で電子を散乱させる。観測された回折パターンに基づき、その回折パターンを生じさせた結晶構造を推測することができる。しかし位相問題があるため、この技法の有効性は限定的である。結晶の研究以外に、電子回折は非晶体や気体分子の研究にも使われる。

 1926年、ド・ブロイの仮説が定式化された。これは、粒子は波動のような振る舞いをするという予測である。ド・ブロイの式は3年後に(静止質量を持つ)電子について成り立つことが、独自に行われた2つの実験での電子回折の観測によって証明された。アバディーン大学のジョージ・パジェット・トムソンは、薄い金属膜に電子ビームを透過させ、予測された干渉パターンが生じることを確認した。

 ベル研究所のクリントン・デイヴィソンとレスター・ジャマーは、結晶質の格子を通して電子ビームを透過させた。トムソンとデイヴィソンは1937年、この業績に対してノーベル物理学賞を授与された。

 X線や中性子を使った回折による物質の研究とは異なり、電子は荷電粒子であり、クーロン力によって物質と相互作用する。つまり放出された電子は、正の電荷を帯びた原子核とその周りの電子の両方から影響を受ける。これに対してX線は価電子の空間分布と相互作用し、中性子は原子核との強い相互作用によって散乱させられる。さらに、中性子の磁気モーメントはゼロではないため、磁場によっても散乱させられる。このように相互作用の仕方が異なるため、それぞれに用途がある。(Wikipedia)

参考HP Wikipedia:ピーター・デバイ デバイ 電気双極子モーメント X線回折 電子線回折 OKWave:双極子モーメント

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