オリンピックの栄光と影
 楽しかったロンドンオリンピックが終わった。日本が獲得したメダル総数は、金7、銀14、銅17の38個。17日間の大会期間中、毎日必ず誰かがメダルを獲得した。男子フェンシング、女子アーチェリー、女子卓球、女子バレー、男女サッカー、男女競泳チーム…など、特にチームプレーで力を発揮したのがよかった。体格で勝る外国選手にも、チームで協力・工夫すれば結果を出せるのが面白い。

 一方、華やかなオリンピックにも、影の部分があることを知った。サッカー男子の3位決定戦、日本―韓国の試合後に韓国の選手が竹島(韓国名・独島)領有を主張するメッセージを掲げた問題で、国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は、同選手へのメダル授与を保留していることを明らかにした。スポーツと国の問題が別にできないものなのかと感じた。

 毎日の各国のメダル数も気になった。中国や韓国だけでなく、北朝鮮もしっかりメダルを取っているのは、国として立派だなと感じた。日本人もメダル獲得者が言っているように、選手個人の力だけではメダルは獲れない。いろいろな人の応援・協力があって獲れるのだ。国のバックアップも重要。しっかりオリンピックのために予算をかけた国は、しっかりメダルを獲っていた。開催国の英国が米国・中国に次ぎ、3番目のメダル獲得数だった。

GeneRecombination

 そしてあいかわらず「ドーピング」の問題もあった。女子砲丸投げで1位を獲った、ベラルーシの選手が薬物違反(ドーピング)で金メダルを剥奪されることになった。筋肉増強剤のメテノロンが検出された。

 また、陸上男子400メートルにエントリーしていたコロンビアの選手がドーピング違反で暫定的に資格停止にされた。その選手は8月4日の予選を欠場した。7月26日の事前検査で禁止薬物のテストステロンが検出されたからだ。ロシアの自転車トラックの女子選手も、7月24日の検査でテストステロンが見つかり失格となった。

 「遺伝子組換えアスリート」も可能
 将来は遺伝子を組換えて、筋力を強化する選手も出場する可能性がある。マウスを使った動物実験では、遺伝子操作により動物の持久力や筋肉の増強に成功している。

 一部では、競技能力を強化するための遺伝子ドーピングが、すでに現実のものとなっているとの声も上がっている。ただ、今の検査技術は遺伝子ドーピングを検出できるほど精度が高くないため、本当のところは誰にも分からないというのが現状だ。
 確かなことは、スポーツ選手の能力強化に遺伝子組み換えを使用することは技術的には可能だということ。そして、命の危険にさらされても金メダルを取りたいと思っている選手が存在していることだ。

 米ペンシルベニア大学のリー・スウィーニー教授は2007年、筋ジストロフィーの研究をしている際に、老化が進んでも筋力が衰えず、十分な強さを保ち続けるマウスを作り出すことに成功した。
 2004年には、遺伝子操作したマウスが通常のマウスの2倍の距離を走ることも発見されており、当時は「マラソンマウス」という言葉がメディアでもてはやされた。ただ、こうした遺伝子操作が人間にも適用できるかどうかはまだ分からず、生殖機能や寿命などへの影響も不明確だと懸念する声もある。
 ペンシルベニア大学の研究者がサルを対象に行った遺伝子操作の実験では、赤血球数が増えて血液の流れが悪くなるという副作用が起き、最終的にはサルを安楽死させなければならなくなったという実験結果も出ている。
 このため、前述のクーパー氏は「現段階で遺伝子ドーピングは技術的には圧倒的に困難かつリスキーなものだ」と指摘している。しかし、こうした命の危険や未知の副作用があったとしても、遺伝子組み換えアスリートになりたいと望む五輪選手は間違いなく存在するだろう。
 米スポーツ医学協会(NASM)の創設者でもあるボブ・ゴールドマン氏が1980年代に実施した調査の結果は、驚くべきものだった。世界レベルのスポーツ選手198人を対象に「ドーピングで金メダルが保証されるなら、5年以内に死んでも構わないか」と質問したところ、過半数が「イエス」と答えた。その後10年にわたり、2年ごとに同じ調査が行われたが、約半数が「イエス」と答える結果に変わりはなかった。
 ゴールドマン氏は「私が聞き取り調査した相手には16歳の選手もいた。21歳で死んでもいいと考えるのは、心理学的にも深刻な問題だ」と語っている。
 現時点で、実際に遺伝子ドーピングをした選手が五輪に出場しているかどうかは誰にも分からない。しかし同時に、金メダルの持つ魔力が、アスリートを危険な「遺伝子の領域」に踏み込ませてしまう可能性も、誰にも否定できないだろう。(原文執筆:Kate Kelland記者、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)(2012.8.8 ロイター)

 遺伝子ドーピングとは何か?

 オリンピックをはじめ、スポーツ競技では規制薬物使用の疑惑が絶えない。近い将来、通常の検査では見抜けない新種のドーピングが登場するおそれがある。筋肉疾患を治すための遺伝子治療を悪用すると、簡単に筋肉を増強できるのだ。

 筋肉の成長と修復は体内の生化学分子によって調節されており、その分子は遺伝子によってコントロールされている。代表的な筋ジストロフィー症であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーは遺伝子変異によってジストロフィンというタンパク質ができなくなるのが原因だ。また、筋肉の再生過程ではインスリン様成長因子1(IGF-1)という物質が細胞分裂を活発化させ、ミオスタチンという別の調節因子は増殖を抑制している。

 人工の遺伝子を導入してこれらの分子を増やしたり阻害したりすれば、加齢や病気で失われた筋肉を復元できる。米国ではジストロフィンの遺伝子を導入する遺伝子治療の臨床試験がすでに計画されている。

 同様の手法を運動選手が使うと、筋肉を増やし、筋力や回復力を高められるだろう。導入遺伝子が作り出したタンパク質は筋肉組織の中だけに生じ、血液や尿には出てこない。また、もともと人体の中にあった天然タンパク質とまったく同じなので、区別できない。このため薬物利用と違って検出困難で、証拠が残らない。

 スポーツ界はこうした遺伝子治療が新たなドーピングの手段として使われるのをどうすれば避けられるか、科学者に対策を諮問している。しかし,この種の遺伝子治療が臨床試験を経て広く普及すれば、運動選手による利用を防ぐのは不可能になるだろう。一方では遺伝子操作による能力増強に対する見方も変わってくる可能性がある。(著者H. Lee Sweeney 原題名Gene Doping(SCIENTIFIC AMERICAN July 2004)

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