ナノポーラス金属とは何か?
 ナノポーラスとは何だろう?ナノは10億分の1、ポーラスとは多孔質のこと。ようするに非常に小さい穴のあいた物質のこと。イメージとしては、とても細かいスポンジみたいな感じだろうか?

 ナノポーラス金属の性質としては、表面積が非常に大きくなるので、吸着材、イオン交換材、触媒などとして広く利用される。現在、化学工業分野では、さまざまなナノメートル(nm:10億分の1m)サイズの粒子を用いた不均一系(固体)触媒が主流。しかし、使用過程でナノ粒子同士が合体してしまい、5nm以上のサイズになると触媒活性がほとんどなくなるという問題があった。

 そこで今回、東北大の藤田武志准教授らの研究グループが、ナノポーラス金属(スポンジ状にナノサイズの多孔が空いた金属)の触媒が、従来のナノ粒子触媒と同等の機能を持ち、細孔のサイズが30nm程度でも優れた触媒活性を保つことに着目し、触媒活性の起源の解明に挑んだ。


NanoPoruous

 藤田准教授は、高分解能を持つ球面収差補正装置を搭載した透過電子顕微鏡や世界に1台のガス環境セルを備えた超高圧電子顕微鏡を駆使し、ナノポーラス触媒の原子が反応時に動く様子をリアルタイムで観察することに成功した。

 その結果、触媒活性は触媒表面の「原子ステップ」と呼ばれる原子レベルの段差と、それと同じ位置に生じる歪みによって起こること、そして触媒表面が「ファセット化」すると活性が落ちることが分かり、触媒活性反応の起源から終わりまでの一連のメカニズムを解明した。さらに、「ファセット化」しない合金設計を行い、実際に触媒活性の低下を押さえたナノポーラス金属の作製にも成功した。

 今回の成果によって、ナノポーラス触媒の活性を維持する材料設計に具体的な指針を得ることができた。さらに、ナノポーラス触媒は、合金の腐食のみで作製できるため、量産に適しており合金設計も容易で、助触媒を必要としないため材料の組み合わせを選ばず、また目に見える大きさのため体内に取り込む危険性もないため、既存のナノ粒子触媒の抱える多くの課題を一挙に克服できる可能性がある。

 「原子ステップ」による表面の歪みが触媒活性化
 今回、ナノ粒子ではなく、孔サイズが30nm以上でも触媒活性を持つナノポーラス金属(金:Au)の触媒に着目し、高性能な電子顕微鏡2台を使用して観察が行われた。

 まず、「球面収差補正装置」を2つ搭載した「透過電子顕微鏡」を用いて、「高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADEF-STEM)」で約1Åまで電子線を細くしぼり、原子構造を詳細に観察。ナノポーラス金属の高密度な原子レベルの段差(原子ステップ)の正確な可視化に成功し、孔の周りに数多くのステップが存在していることがわかった。

 このような場所は、触媒の活性点であることが知られており、重要な因子は「ステップの数密度」であることを明らかにすると共に、「ステップ幅」から数密度を計算するための式が提案された次第だ。そして、孔サイズが30nm以上でも原子ステップの数密度が極めて高く、これが触媒活性の起源となっていることが明らかになったのである。

 また、球面収差補正装置によって、ナノポーラス金属表面近くの表面歪みを正確に評価することにも成功した。表面近くの歪みを可視化すると、表面に沿って歪みが確認できる。

 そしてこの表面歪みは、「原子ステップ」によって引き起こされることが第一原理計算によって明らかになった。表面歪みも触媒活性を起こすに当たり、有効であることが知られている。すなわち、ナノポーラス金属のすべての表面において、「原子ステップ」と「表面歪み」によって触媒活性が起こることがわかったというわけだ。

 ここまでの電子顕微鏡観察では、試料は真空中に置かれており、不活性な状態での観察にとどまっていた。しかしながら、触媒活性中の様子を観察することはメカニズムを推察する上で不可欠だ。

 「ファッセット化」によるギザギザが触媒不活性化
 今回の研究では、さらに世界に1台しかないガス環境セルを備えている「超高圧電子顕微鏡」を用いて、最も触媒反応で研究されている一酸化炭素の酸化反応(CO+1/2O2->CO2)を原子レベルで観察した。

 すると、反応前に、表面はなだらかな曲線になっていた。これは原子ステップが多数あるためだ。しかし、触媒反応が始まると、全ての表面で特定の結晶面のみが現れるようになり、平坦な部分がより強調された表面構造になった(ファセット化)。 このファセット化がより顕著に表れるのは、表面が不安定な面(結晶面方位(110)面)を向いているところだった。もともと平らであった不安定面が安定((111)面)に変化してファセット化し、表面がギザギザの状態になっていることが写真で分かる。これらの直接観測により、ファセット化は、触媒反応に何らかの悪影響を及ぼす要因ではないかということが推察された。

 そこで、今度は触媒特性がさらに優れた銀を多く含むように合金設計が行われたナノポーラス金属で同様の観察が行われた。すると、銀を少なく含んでいた場合では触媒反応中、不安定だった面((110)面)が安定になっている様子を電子顕微鏡像が示し、銀を多く含むように設計することで、触媒反応に由来する表面原子の再配列は少し見られるものの、ファセット化はまったく観察されず、原子ステップの数は反応前に比べてほとんど変わらないことが判明。

 すなわち、触媒反応に特有の現象であるファセット化が、触媒活性の失われる原因になっており、それを防ぐように合金設計を行うことでファセット化が抑制され、触媒特性が向上することが明らかになった。

 今回の研究による原子レベルの触媒活性の起源や活性が失われる一連のメカニズムの解明により、ナノポーラス触媒の材料設計に具体的な指針を得ることに成功した。さらに、ナノポーラス金属は、合金の腐食のみでできるため、その製造工程が非常に単純で大量生産に適しており、助触媒を必要としないため材料の組み合わせを選ばない。合金設計が簡単で、目に見える大きさのため加工など材料の取り扱いが容易で、なおかつ体内に取り込む危険性もないというメリットがあり、既存のナノ粒子触媒の抱える多くの課題を一挙に克服できる可能性があると研究グループでは説明している。

参考HP 科学技術振興機構・東北大学:ナノサイズの孔を持つ金属の触媒活性機構を原子レベルで解明

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