銀河群と銀河団、超銀河団
 銀河は単独では存在せず、グループをつくって存在している。銀河群は銀河の集団の中では最も規模の小さなもので、銀河はせいぜい50個程度である。銀河群の質量はおよそ1013太陽質量である。銀河群内で個々の銀河は約150km/sの速度で運動している。我々の銀河系(天の川銀河)が属している銀河群は局部銀河群と呼ばれ、40個以上の銀河が含まれている。

 銀河団は銀河群よりも規模が大きい銀河集団を指す。銀河団は通常、50個から1000個程度の銀河、X線を放射する高温ガス、質量の大半を占めるダークマターから構成される。

 さらに、銀河群や銀河団は超銀河団と呼ばれるより大きな構造を形作っている。宇宙での最も大きな空間スケールでは、物質はフィラメント状、あるいはボイドと呼ばれる空洞を取り囲む壁のような構造を作って集まっている。この宇宙の大規模構造は泡に似ているため、泡構造などとも呼ばれる。

 今回、新たに発見された非常に明るい銀河団は、“フェニックス銀河団”と呼ばれ、これまで知られている銀河団の中でおそらく最も質量が大きく、通常の1000倍近いペースで新しい恒星を生み出しているという。とても本当とは思えない発見だ。


Supermassive-galaxy

 しかし、この“フェニックス銀河団”の奇妙な姿は、10種類もの別々の望遠鏡で確認されている。非常に稀な銀河団だが、この発見が、あらゆる銀河団の進化についての説明の助けになるかもしれないと科学者たちは話している。

 フェニックス銀河団の発見を詳述した研究論文の主著者でマサチューセッツ工科大学(MIT)の宇宙物理学者マイケル・マクドナルド(Michael McDonald)氏は、「この銀河団の発見は、ジェットコースターのような感じだった。というのは、新しい観測を行うたびに、それまで以上にエキサイティングな発見があったからだ」と話す。

 大量の星形成、巨大銀河団を発見
 「最初はみな懐疑的だった。銀河団(数百の銀河が重力により結びついた集団)の見え方についての現行の説と合わなかったのだ」。「しかし2カ月ほどの間に、これは本当に例外的で独特な銀河団だと確信するようになった」とマクドナルド氏は述べた。

 フェニックス銀河団は、地球から57億光年離れた位置にある数千の銀河の集団だ。南天のほうおう座(英名Phoenix)にあることから、このように名付けられた。

 マクドナルド氏によると、質量が非常に大きく、銀河系を含む銀河群の総質量も、フェニックス銀河団の0.1%程度にしかならないという(銀河系が属する集団は銀河が30ほどしかなく、銀河団ではなく銀河群と呼ばれる)。もう1つの記録的な特徴として、この銀河団からは史上最も明るいX線が観測されている。


 フル稼働する恒星製造工場
 天文学者たちが一番困惑したのが、フェニックス銀河団の中心にある銀河が、活発に恒星を生み出す「スターバースト」期にあるように見えることだった。NASAのチャンドラX線観測衛星、アメリカ国立科学財団(NSF)の南極点望遠鏡、その他地上と軌道上合わせて8つの望遠鏡から得られたデータに基づいて、この中心銀河が年に740個以上もの恒星を生み出していることがわかっている。

 銀河団の中心銀河の「これまでの恒星形成ペースの記録は、年に約150個だった。今回の発見は、その記録を大幅に塗り替えた」とマクドナルド氏は話す。

 銀河団の中心にある銀河は一般に、その銀河団の中で最も古く、その証拠に特徴的な赤い光を放っている。恒星を生み出す年齢をはるかに過ぎているということだ。それだけに、今回の発見に研究者は困惑した。

 マクドナルド氏によると、フェニックス銀河団の中心部は青白く、若い星の色で輝いている。


 冷えていく銀河団
 今回発見された銀河団は、宇宙物理学で長年の謎とされてきた「クーリングフロー問題」に光を投げかけるかもしれない。

 理想的なモデルによれば、(とくに年齢を重ねた銀河の中心部に多いとされる)恒星の爆発により放出されたガスは、時とともに自然に冷え、迅速に固体化して星を形成する程度に十分に低温のガスの流れを生み出すはずである。このようなシナリオをクーリングフロー説といい、1970年代に提唱された。

 ところが、多くの銀河団はこうはならなかった、中心部は何らかの原因で熱くなっている。だが、“フェニックス銀河団”は中心部が冷えて、大量の星を生み出している。マクドナルド氏も、カナダのウォータールー大学の宇宙物理学者ブライアン・マクナマラ(Brian McNamara)氏も、たいていの場合、銀河の中心にある超大質量ブラックホールから放出される物質のジェットが周囲のガスを加熱し、大量の恒星が誕生できる温度にまで冷えることを妨げると説明する。

 「フェニックス銀河団では何らかの理由でこの(加熱)サイクルが働いていない。理由はわからない。そこが謎だ」とマクナマラ氏は話す。

 マクドナルド氏には答えがあるようだ。我々は、通常の銀河の進化の中で、これまで知られていなかった重要な段階にある中心銀河を、たまたま目にしただけなのかもしれないとマクドナルド氏は言う。ブラックホールが成長して十分な熱をもたらすほど強力になる前の段階だ。

 「この段階はほんの1億年ほどしか続かないと我々は考えている。これは、宇宙の年齢の1%にも満たない。したがって、このような銀河団が稀であることは驚くに当たらない。このようなスターバースト期にある銀河団を観測できる確率は100分の1程度なのだから」。

 ウォータールー大学のマクナマラ氏には、それほどの確信はない。フェニックス銀河団は「クーリングフロー中の大半の銀河とは異なる振る舞いをしている。なぜそうなのかについては多くの説があるが、どれが正解か、その中に正解があるのかもはっきりしないのだ」とマクナマラ氏は話している。

 フェニックス銀河団の発見についての論文は、「Nature」誌のオンライン版に8月15日付けで掲載された。(National Geographic news 8月16日)


 クーリングフローとは何か?
 近年注目されている宇宙物理学上の問題として、「銀河団のクーリングフロー問題」というものがある.銀河団とは数百から数千の銀河が密集した,重力的に束縛された系としては宇宙最大の天体である。その強い重力場によって引き寄せられた銀河間ガスは、重力エネルギーが転化した熱によって1億度もの高熱になり、X線で輝くことは良く知られている。

多くの銀河団中心では、そのX線放射による冷却時間は銀河団の年齢(宇宙年齢と同程度でざっと100億年) よりずっと短いため、何も加熱源がなければ中心部のガスは冷却し,中心へ落ち込むクーリングフローとなるだろう…これが銀河団分野で数十年に渡り「常識」とされたクーリングフロー学説である。

 そして、このクーリングフローを観測的に検証する努力が長く続けられたのだが、近年の最新X線観測によって明らかになったのは、皮肉にも、理論が予想するようなクーリングフローは存在しない、というものであった。(ただし、慣例として現在でも、中心部の冷却時間が短くクーリングフローの存在が “信じられていた”銀河団を「クーリングフロー銀河団」と呼んでいる。)

今や、銀河団の中心部にはクーリングフローを抑制するなんらかの加熱機構が必要であるということが世界的に認められ、様々な可能性が検討されている。超新星爆発のエネルギーでは足りない。活動銀河中心核は解放されるエネルギーとしては何とか足りそうであり、現在最もポピュラーな説であるが、具体的な加熱機構は全く不明である。

その活動は一般に間欠的で、どの銀河団でもまんべんなくクーリングフローを止めるというのは難しく見える。周囲の冷えていないガスからの熱伝導は重要なプロセスだが、それでも問題を完全に解決することは難しいとされている。(京都大学)


参考HP 京都大学:暗黒物質が熱を出す? National Geographic news:大量の星を形成、巨大銀河団


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