米国の西ナイル熱の流行、過去最大規模に
 今夏の米国における西ナイル熱の流行は過去最大規模であることが、米疾病対策センター(CDC)の統計で明らかになった。西ナイル熱とは何だろうか?また、この原因は何だろうか?

 西ナイル熱は蚊を媒介とする感染症。ウイルスを持っている蚊に刺されても約80%の人は発症しないが、150人に1人は重症化し、死に至ることもある。

 今年1月から8月21日までにCDCに報告された患者数は1118件で、米国内での感染例が初めて見つかった1999年以降、最多となった。38の州で人への感染が報告され、うち41人が死亡した。22日にはアーカンソー州でさらに1人が死亡している。

 感染例の約75%はテキサス州とミシシッピ州、ルイジアナ州、サウスダコタ州、オクラホマ州で占められている。最も多いのはテキサス州で、同州当局によれば感染報告数は586件で21人が死亡した。


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 「流行のピークは通常8月半ばだが、発症して受診し、医師から報告が上がるまでに2週間かかる」とCDCで蚊が媒介する感染症の対策にあたっているライル・ピーターセン博士は言う。「感染例はもっと増えると予想している」

 ピーターセン博士によれば、今年の大流行の原因は不明。だが、暖かい天候が人に感染しやすい条件を作ると見られている。(CNN 2012.8.23)

 確かに今年の夏は日本でも暑い、米国も猛暑で大干ばつが起きている。干ばつなので、洪水後に大量発生する種類の蚊は水がなく、発生が抑えられている。しかし、西ナイルウイルスを媒介する、より危険なイエカ属は増えている。

 気温が上昇すると、蚊の繁殖サイクルが短くなり、ウイルスの増殖スピードも早まる。また、水位が下がって淀んだ河川は蚊の新たな産卵場所になっているという。(National Geographic News August 7, 2012)


 西ナイル熱とは何か?
 西ナイル熱はウエストナイル熱(West Nile fever)ともいう。ウエストナイルウイルスによる感染症の一種である。感染症法では4類に属する。ウエストナイルウイルスは、1937年にウガンダの西ナイル地方で最初に分離された。日本脳炎ウイルスと同じ、フラビウイルス科フラビウイルス属に属する。

 ウエストナイルウイルス自体は、最初に発見されたアフリカ以外に、オセアニア、北アメリカ、中東、中央アジア、ヨーロッパに広がっている。1990年代以降、感染者が報告されたのはアメリカ、アルジェリア、イスラエル、カナダ、コンゴ民主共和国、チェコ、ルーマニア、ロシアである。アメリカ合衆国本土全体でウイルスが見つかっており、2005年米国だけで発症者3000人、死者119人が報告されている。

 日本では、2005年9月に米国カリフォルニア州ロサンゼルスから帰国した30歳代の男性会社員が川崎市立川崎病院で診察を受け、国立感染症研究所での血液検査をした結果、日本初のウエストナイル熱患者と診断された。

 アメリカでは臓器提供者から移植を受けた患者の事例や輸血による感染例の多発が2002年~2003年にかけて問題になったことがある。


 中間宿主・症状・治療法
 ウエストナイルウイルスの増幅動物は鳥である。鳥からの吸血時にウイルスに感染したイエカやヤブカなどに刺されることで感染する。米国で感染が確認された鳥類は、220種類以上におよぶ。特にカラス、アオカケス、イエスズメ、クロワカモメ、メキシコマシコなどで高いウイルス血症を呈する。通常、人間同士の直接感染は起こらない。ただし、輸血と臓器移植は例外である。

 感染者のうち80%は症状が現れない(発症率は20%)。潜伏期間は通常2~6日。発熱・頭痛・咽頭痛・背部痛・筋肉痛・関節痛が主な症状である。発疹(特に胸背部の丘疹が特徴的。痒みや疼痛を伴うこともある。)・リンパ節が腫れる・腹痛・嘔吐・結膜炎などの症状が出ることもある。

 感染者の0.6~0.7%(発症者の3~3.5%)がウエストナイル脳炎を起こす。病変は中枢神経系であり、脳幹・脊髄も侵される。よって、激しい頭痛・高熱・嘔吐・精神錯乱・筋力低下・呼吸不全・昏睡、不全麻痺・弛緩性麻痺など多様な症状を呈し、死に至ることもある。また、網膜脈絡膜炎も併発する。

 その他、アメリカ疾病予防センター(CDC)によれば、ウエストナイルウイルスに感染し重篤な症状に至るケースは特に50歳以上に集中しているという統計がある。なお、ヒト用のワクチンは実用化に至っていない(馬用のワクチンは存在する)。特異的な治療はなく、対症療法が治療の中心である。

 ウイルスを媒介する蚊の駆除が最優先される。アメリカでは、蚊の幼虫(ボウフラ)の繁殖を阻止するために、住宅地のプールの清掃や水抜きなどの管理、航空機による殺虫剤の散布が行われている。しかし、住宅地以外の森林や湿地への対策は、面積が広すぎて事実上不可能となっており、拡大を十分に食い止めることができていない状況にある。(Wikipedia)


 地球温暖化で、広がる感染症
 干ばつは、感染症の増加を招く可能性もある。右の画像は感染者の肺の中で、内生胞子を放出する「コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)」。「コクシジオイデス症」を引き起こす危険な真菌だ。

 アメリカ南西部やメキシコなど中南米の乾燥した土壌に住み、干ばつが発生すると感染の危険が大幅に増える。強風などで胞子を含むちりが舞い上がり、人間の肺に侵入するからだ。発熱や重い肺炎につながる恐れがあり、死亡するケースも確認されている。

 2010年に発表されたアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、国内での発症は1万6000例以上。大部分は南西部のカリフォルニア州とアリゾナ州に集中していたという。(National Geographic News August 8, 2012)

 日本でも地球温暖化に伴い、マラリアやデング熱などの感染症が流行するおそれがある。両者とも西ナイル熱と同じように蚊を媒体とし、過去に日本で流行したこともある感染症だ。

 マライアの病原体は単細胞生物であるマラリア原虫(Plasmodium spp.)。ハマダラカ(Anopheles spp.)によって媒介される。我が国に生息する9 種のハマダラカの中で、マラリアの媒介に係わる種類は4 種類。水田地帯に多く発生し、いずれも夜間に活動して血を吸う性質(夜間吸血性)を持っている。1960 年代と比べると発生数が減少したといわれている。また、石垣島では熱帯熱マラリアの媒介蚊として知られているコガタハマダラカの生息が確認されている。

 デング熱(dengue fever)は、デングウイルス(dengue virus)による感染症。英語ではその強い痛みから「break bone fever」とも呼ばれる。 ネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)などの蚊によって媒介される。ただしヒトスジシマカにとってヒトは主な吸血対象ではなく、デング熱の媒介はまれである。

 温暖化やヒートアイランドなどで年平均気温が11℃以上になる地域が今後も増えると、ヒトスジシマカの分布が一層北上する可能性もある。ヒトスジシマカの分布域が拡大することは、将来、デング熱流行のリスクがある地域が拡大することを意味する。


参考HP Wikipedia: デング熱 マラリア National Geographic news:危険な蚊の増加、米国干ばつの影響

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