太陽表面の現象再現
 9月も半ばだというのに、厳しい残暑が続いている。太陽のエネルギーは凄まじいものがある。太陽の外側にあるコロナの温度は約100万℃。ところが表面の温度は意外に低く6000℃。この違いはなぜなのかよく分かっていなかった。

 今回、太陽で起きているガスの噴出や磁場の揺れなどの類似現象を地上の実験装置で再現することに、JAXAの西塚直人研究員と東京大学大学院の小野靖教授らのチームが世界で初めて成功。ダイナミックな太陽活動の様子や謎とされる「コロナ加熱」などの解明につながる結果を得た。

 太陽(半径約70万キロメートル〈km〉)の温度は、熱源となる中心核では1,500万℃もあるが、表面では6,000℃に下がり、表面上空の「彩層」(厚さ約2,000 km)を過ぎた外側のコロナでは100万℃以上に高まるといった逆転現象がみられる。この「コロナ加熱」の問題は長年の太陽研究の課題とされているが、6年間に及ぶ太陽観測衛星「ひので」の観測により、彩層での活動現象が重要な役割を果たしていることが分かってきた。


Plasma

 研究チームは、東京大学にあるプラズマ実験装置「TS-4球状トーラス実験装置」を使い、彩層での活動現象の再現に取り組んだ。その結果、陽子と電子からなるプラズマのガスの温度を1万℃から3万℃に急速に加熱したり、ガスを時速2万kmの速さで噴き出す小爆発(彩層ジェット)の様子、加熱に伴って発生した磁場の激しい“揺れ”などの現象を観測することができた。

 実際の彩層ジェットの速さは時速10万~70万kmもあるなど、太陽で起きている現象とは桁違いの結果だが、「コロナ加熱」の加熱源とも考えられている磁場の揺れを直接発生することができたことは、貴重な結果だという。


 コロナ加熱問題
 太陽では、1500万度もある中心核の熱が放射や対流によって表面に伝わり、光球では6000度に下がる。ところが、そこを過ぎると逆に表面から遠ざかるほど高温になり、コロナでは100万度を超えることが知られている。熱源から離れるほど熱くなるというこの逆転現象は「コロナ加熱問題」として知られ、これを解き明かすことが太陽研究の長年の課題となっている。
 これらの問題に挑むため、JAXAが2006年に打ち上げた太陽観測衛星「ひので」は、かげろうのない宇宙空間から太陽を詳細に観測している。6年に及ぶ観測を通じて、光球とコロナの中間にある彩層では爆発現象や高速で吹き出すジェットなどが頻繁に発生しており、これらの活動現象がコロナ加熱において重要な役割を果たすことが分かってきた。また、そこでは磁場が大きな働きを果たしていると考えられている。
 従来、太陽表面で起きているこのような現象を理解するためには、「ひので」のような高性能の望遠鏡を用いて現象を詳しく観測する「観測的手法」と、スーパーコンピューターなどを用いて現象を理論的に予想する「理論的手法」とを組み合わせて研究が進められてきた。ところが、光球面でしか磁場を観測できない「ひので」の観測では磁場の立体構造を把握することが難しく、また彩層でのプラズマの物理的な状態やそのミクロなスケールでのふるまいを知ることもできないという課題があった。

 ドーナツ状プラズマを磁力線で加速
 JAXA宇宙科学研究所の西塚直人(にしづか・なおと)研究員を中心とする研究チームは、そこに新たに、地上の実験室にあるプラズマ実験装置を用いた「実験的手法」を導入し、太陽の彩層で起きているのと類似の現象を地上で再現することに世界で初めて成功した。このような実験的手法に成功した背景には、彩層と類似の環境を模擬できる高性能のプラズマ実験装置の存在に加え、「ひので」を用いた観測によって磁場形状を正確に推定できたことが挙げられる。
 今回の実験では、東京大学TS-4球状トーラス実験装置を用いて装置内に強い磁場にとらえられたドーナツ状のプラズマをつくり、周囲の磁力線と近接させることで磁力線のつなぎ替えを発生させた。その結果、元の1万度から約3万度まで急速に加熱されるガスや、時速2万kmもの速さで吹き出すジェット、そして加熱に伴って発生した磁場の激しいゆれ(波動)などの現象を世界で初めて観測することができた。

 これは、規模こそ違うものの、太陽で観測される彩層ジェットに類似した特徴を持っている。また、磁場の激しいゆれが磁力線のつなぎ替えに伴って発生することを直接的に突き止めたことは、コロナ加熱の有力な仮説のひとつである「コロナ波動加熱説」において、コロナの加熱源と考えられている磁場のゆれがどのように発生するのかを示す貴重な結果だ。
 このような実験的手法では、実験装置内のプラズマや磁場の状態を至近距離から計測できるため、従来の観測的手法では特定が難しい磁場の立体構造(特に高度方向の構造)やプラズマ状態(温度・密度・速度や抵抗)のミクロなスケールでのふるまいを診断することができ、理論的手法も組み合わせることで、太陽で観測される現象がどのような物理過程によるものなのかを推定することができるようになる。
 今回狭い装置内で観測されたプラズマのふるまいは、実際に観測される太陽ジェットの特徴を定量的に説明できるものではない。例えば、再現されたジェットの速度は時速2万km程度で、実際の太陽ジェットの時速10-70万kmには遠く及ばない。しかしながら、この違いは、何十桁も大きな太陽ジェットとの空間スケールの違いや、電離度の違いによるものと考えられる。これを踏まえ、今回開拓された実験的手法に基づく研究をさらに進め、観測的手法による直接の証拠の検出や理論的手法を補うことができれば、ダイナミックな太陽活動やコロナ加熱問題の理解が大きく進むと期待される。
 今回の成果は、アメリカの専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』の9月10日号に発表された。(JAXA)


参考HP JAXAプレスリリース:太陽表面での活動現象を世界で初めて地上で再現


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