元素はどうやって誕生したか?
地球上にあるさまざまな元素はいったいどうやって誕生したのだろう?現在宇宙にある元素のうち93%は水素で、あとの7%はヘリウム。他の酸素、炭素、鉄、金、銀などの元素は1%もないのだ。
こうしたことから、宇宙の始まりには、水素やヘリウムしか存在しなかったとされる。他の物質はすべて、水素やヘリウムが核融合することで誕生した。核融合には高温が必要で、それは、恒星などの中心で得られる。恒星は水素の核融合で輝きを放ち、水素はヘリウムになり、ヘリウムが核融合すると、酸素や炭素になる。
さらに、恒星の中心では酸素、炭素などの元素の核融合が進み、他のさまざまな元素が誕生する。しかし、恒星内でできる元素は鉄まで。鉄より重い元素の誕生には、もっとエネルギーを必要とする。そのエネルギーは恒星の最後である、超新星爆発で生み出される。
地球上に存在する金や銀などの金属が、超新星爆発によって形成されることは、知られていた。しかし、それぞれの金属の正確な起源は謎に包まれている。今回、新たな研究で、核融合により宇宙空間で「銀」が生成される際の具体的な条件が明らかになった。
水素やヘリウムといった、最も大量に存在する軽元素がビッグバンの過程で生まれたのに対し、炭素や酸素などのより重い元素は、核融合により恒星内で作られる。
しかし、銀や金などの希少な重金属は、恒星内でも最も極端な環境でのみ生成される。こうした環境は、巨大な恒星の爆発、すなわち超新星にしか存在しない。
こうした巨大な恒星は、寿命を迎えて爆発する際に、新たな物質を宇宙に放つ。地球上にある重金属の元素は、ほとんどがこの爆発に由来するものだと、今回の研究の主著者でドイツのハイデルベルク大学に所属する天文学者カミーラ・ハンセン(Camilla Hansen)氏は述べている。
金と銀、誕生の条件
銀の正確な生成過程を解明するため、ハンセン氏が率いる研究チームは、70を超える巨大な恒星の観察に加え、コンピューターモデルを用いた。
研究チームでは、光の波長を分析し、これらの恒星の化学的組成を突き止めた。「各元素の量は、スペクトル線の強さと直接的な関連があり、さらにこれは恒星の温度とも関係している」とハンセン氏は説明する。
これらの分析により、銀の生成は、金が生成される恒星よりも質量が小さい星で起きるとの結論が導き出された。また、銀はまったく異なる種類の核融合である、弱いr過程と呼ばれるプロセスにより生成されることもわかった。
今回の発見により、特定のタイプの超新星が生成可能な金属には限度があることも判明した。
「太陽の8~9倍の質量を持つ恒星は、寿命を迎えると爆発し、規模の小さい低質量の超新星になることがある。この際にパラジウムや銀までの元素が生成されるが、それ以上に重い元素は生まれない」とハンセン氏は説明した。
さらにハンセン氏は、「この弱いr過程は、これまで我々が考えていたよりもかなり質量の小さな超新星と関連している可能性があるようだ」と述べている。
質量が小さいため、個々の恒星から放たれる金属の量は非常に少なく、元の恒星の質量の10億分の1程度とみられる。それでも、こうした銀を生成する超新星は、金を生成するより大きな超新星と比べて広範に存在すると考えられる。
こうした宇宙空間における超新星の数の差が、地球上でも銀が金より大量に存在する理由の説明になるかもしれないとハンセン氏は述べている。
今回の宇宙空間における銀の生成に関する研究は、『Astronomy & Astrophysics』誌の9月号に掲載されている。(Andrew Fazekas for National Geographic News September 11, 2012)
宇宙の始まりから元素の誕生まで
宇宙はビッグバンという大きな爆発から始まった。ビッグバンから少したつと素粒子ができはじめる。少したつといっても10-11秒(10ps(ピコ秒))という、ほとんど瞬間といってもいいくらいのことである。宇宙の温度はまだ1015K(1000兆K)もある。このころの存在していた素粒子は、レプトン、クォーク、グルーオン、光子などである。
さらにビッグバンから10-4秒(1万分の1秒)くらいたつと、宇宙の温度は1012K(1兆K)くらいになり、陽子(水素の原子核でもある)や中性子もできる。そして、ビッグバンから1分後、宇宙の温度は109K(10億K)まで下がり、ヘリウム、リチウム、ベリリウムといった軽い原子の原子核も存在できるようになる。
ビッグバンから数十万年後、宇宙はさらに膨張を続け、そのために温度は数千Kまで下がる。すると、原子核が電子を捉えて電気的に中性な原子を作ることができるようになる。ようするに、ふつうの物質(のもと)ができる。量的には水素原子がもっとも多く、ついでヘリウムの原子である。
すると、それまで電子などの荷電粒子と反応していた光子は、物質とほとんど反応しなくなる。いわゆる宇宙の晴れ上がりである。現在の約3Kの温度に相当する宇宙背景マイクロ波放射は、宇宙が数千Kであったこの時代の名残りといわれている。
さまざまな元素の生成
水素原子やヘリウム原子は宇宙空間にまったく均一・一様に分布しているのではない。どこかにちょっと密度が高い場所、どこかには密度が低い場所といったゆらぎができる。密度の高い場所はその質量による引力(万有引力)によって、まわりの水素原子やヘリウム原子を集め、ますます密度が高くなる。こうして巨大なガスの塊ができる。原始銀河の誕生である。
原始銀河の中でも密度が高い場所とそうでない場所がある。密度の高い場所は、ますますまわりのガスを集める。このガスの塊は自分の引力によって、ますますまわりのガスを集め、中心部の温度・圧力は次第に上昇する。このため原子は原子核と電子がばらばらになったプラズマという状態になる。
中心部の温度が1000万Kに達すると、むき出しになった水素の原子核(+の電荷)が激しく衝突し、電気的に反発する前にくっついて(グルーオンの働き)、ヘリウムの原子核になる核融合反応が始まる。これが恒星の誕生である。恒星のエネルギー源は、この核融合反応のエネルギーである。核融合反応が始まると、核反応で生成され熱による膨張しようとする力と、恒星自身が作り出す縮もうとする重力が釣り合って安定な状態になる。
できたヘリウムは恒星の中心部にたまり芯をつくる。ガスをあまり集めることができなかった、太陽程度の比較的軽い恒星の中心部の核反応はここまである。
最初、ヘリウムは核反応しないので、自分自身の重力で収縮する。かなり重い恒星では、その中心部の温度・圧力はさらに上がり、こんどはヘリウムが炭素や酸素になる核融合反応が始まる。その炭素や酸素の芯の中心部の温度・圧力がさらに上がると、より重いネオンやマグネシウムが、さにケイ素がという具合に、だんだんと重い原子の原子核が次から次に段階が高まる核融合反応によって合成されていく。こうして、恒星はいわば玉ねぎ状になる。
鉄より重い元素の誕生
恒星内部の核融合反応で生成される元素は鉄までである。ここまでの核反応は発熱反応で、エネルギーを得られるのだが、それ以上は吸熱反応になってしまうのである。つまり、鉄より重い元素の原子核は、分裂するときにエネルギーを出す。鉄の原子核は(「鉄の原子は」ではない!)、この世の中でもっとも安定な原子核だともいえる。
だから、中心部に鉄の原子核ができてくると、鉄の芯ではそれ以上の核反応が起こらず、鉄の原子核はたまる一方になる。ある程度はまわりからの重さに耐えられるが、核反応が起きないので膨張しようとする力は得られない。それでまわりからの重さが限界に達すると、中心核自身が崩壊し、その反動で恒星は大爆発する。これがII型超新星である。このときのほぼ一瞬の爆発で、太陽がこれまでの50億年間(太陽のおおよその年齢)かかって放出したエネルギー以上のエネルギーを放出する。
鉄はI型超新星の方からの方が沢山生成されるという。この莫大なエネルギーで、ふつうの恒星内部の核融合反応では合成されない、鉄よりも重い元素が合成されるのである。そして、この超新星爆発で吹き飛ばされた元素(もちろん鉄よりも軽い元素も含めて)を材料に、再び新しい恒星や惑星がつくられることになる。
地球上には鉄よりも重い元素が存在する。じつは太陽を含めた、太陽系にも地球と同じように存在している。もちろん、われわれの体の中にも、鉄よりも重い元素は存在する。だから、太陽系の他の天体と同じように、われわれ自身(を作る元素)はいまは輝いていないとしても、かつてはどこかの恒星で燦然と輝いていたということになる。
恒星の誕生からその最後までに要する時間は、恒星によって異なる。超新星爆発を起こすような重い恒星の寿命は短く、せいぜい数億年、場合によっては数千万年、あるいはそれ以下のこともある。だから、宇宙の年齢を140億年として、少なくともすでに130億年くらい前から恒星が存在しているとすると、もう何回も何回も超新星の爆発は起き、そのたびに宇宙は鉄よりも重い元素が誕生してきたことになる。
参考HP Natinonal Geographic news:宇宙の銀生成過程が明らかに 山賀進のWeb site:物質の起源 Astro Date:元素誕生物語
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