南極のオゾンホール 去年より縮小
 有害な紫外線をさえぎるオゾン層が破壊されて穴があいたような状態になる、南極上空の「オゾンホール」が、ことしは去年よりも小さいことが国連機関の調査で分かり、今後、時間はかかるもののオゾン層の回復が軌道に乗り始めたと評価している。

 これは、オゾン層を破壊するフロンガスなどの排出を規制する国際的な枠組み、「モントリオール議定書」の採択を記念した9月16日の「国際オゾン層保護デー」を前に、国連の世界気象機関が発表したものである。

 それによると、オゾン層の破壊が深刻な南極の上空にある「オゾンホール」の大きさは、今月中旬の時点で1850万平方キロメートルで、去年の同じ時期よりも20%ほど小さいということ。

 世界気象機関では、フロンなどの破壊物質の量は2000年ごろをピークに、このところ年に1%程度ずつ減っており、オゾン層の回復が軌道に乗り始めたと評価している。


Ozone

 ただ、オゾン層を破壊する物質は、長期間、大気中にとどまるため、オゾン層が1980年より前の水準に回復するためには、今後数十年の時間がかかるとしている。

 また、フロンの代わりに使われるガスの中には温室効果が高いものがあり、地球の温暖化の原因となるおそれがあるとして、世界気象機関では、こうした物質の削減も各国に呼びかけている。 (NHK news 2012年9月15日)

 北極のオゾンホール
 一方、北極の上空では南極のオゾンホールに匹敵する深刻なオゾン層の破壊が起きたことが、昨年、日米など9カ国の国際研究チームの調査でわかっている。北半球は緯度が高い地域にも人口が多く、本来はオゾン層で遮られる生物に有害な紫外線の増加が懸念される。英科学誌ネイチャー(電子版)に2011年10月2日付で論文が掲載された。

 研究チームは、測定機器を積んだ気球や人工衛星を使って観測した。その結果、北極圏の成層圏で昨年4月上旬、もともとあったオゾンのうち最大で80%が失われた。南極ほど濃度は薄くなっていないが、北極はもとの濃度が高いため、破壊された量は南極のオゾンホールに匹敵したという。

 気象条件の違いから、北極は南極のような大規模なオゾンホールはできないと考えられていたが、研究に加わった国立環境研究所の中島英彰室長は「南極で観測されていたオゾンホールが、北極にも出現したといえる」と話す。

 影響で3~4月にスカンディナビア半島やロシア北部で成層圏中のオゾンの濃度が低くなった領域が広がり、人の居住する地域でも有害な紫外線が増加したとみられる。オゾンが薄い領域は4月下旬、「かけら」のようにちぎれて日本の本州付近上空も通過した。(asahi.com 2011年10月3日)


 原因は北極上空の気温低下
 これまで、北極域の成層圏に関しては、海陸分布の違いから南極に比べて冬季でも10度くらい気温が高いおかげで、南極ほど顕著なオゾン破壊がこれまで起きてきなかった。それでも、1996年、1997年、2000年、2005年など北極上空の成層圏が低温で推移した年には、南極オゾンホールと比べると小規模ながら、北極上空でもオゾンホール的な状況が現れていた。それが昨年、南極オゾンホールと匹敵する規模のオゾン破壊が北極上空で起こっていたことが、観測史上初めて明らかとなった。

 最近の傾向を見ると、北極上空の成層圏の気温は暖かい年と寒い年が入れ替わりにやってきており、さらにその振幅が1970年代に比べ増大してきているという報告がある。また、その寒い年の冬季の気温が、近年になるにつれてより低くなってきているような傾向も見られる。

 北極では、これまで、寒くなる冬の間でも、気温は南極ほど下がらなかった。平均気温を見ても、-80度ギリギリのところで止まっていた。このため、科学者たちは、北極上空ではオゾン層の破壊はそれほど進まず、オゾンホールはできないだろうと考えてきた。
 ところが今年3月、その北極上空に、突然オゾンホールが現れた。北極上空の成層圏の気温変化をみると、1月頃から気温が急激に下がり、4月にかけて―80度を下回っている。平均気温から10度も低く、今まで見られなかった現象だった。

 専門家は、この極端な気温低下がオゾン層の破壊を生んだと考えている。また、北極のオゾンホールは、南極ほど薄くはなっていないものの、元々、オゾンの濃度が高いため、破壊されたオゾンの量は、高度20km付近では最大80%。南極のオゾンホールに匹敵する量だと述べている。


 オゾンホールとは何か?
 私たち人間を含むすべての生物は、地球が持つ絶妙の仕組みの中で生かされている。その仕組みのひとつが上空20-30キロにあるオゾン層。オゾン層は、地球に大気が生まれる過程で出来たものだが、有害な太陽の紫外線を吸収し、生物を守る働きをしている。このオゾン層が破壊されると、人間も含め、生物に悪影響が出る恐れがある。

 今から30年前の1980年代、世界各国は、冷蔵庫やエアコン、缶スプレーなどにフロンという気体を使っていた。フロンは圧力をかけると、安定した性質を保ったまま、気体と液体の間を行き来し、熱を運ぶ気体「冷媒」としては最適な「夢の気体」と呼ばれていた。ところが研究の結果、このフロンが大気中のオゾン層を破壊することが分かり、国際的な問題となった。1987年、国連は議論の末、フロンの使用を禁止するモントリオール議定書を制定した。しかし、フロンは2050年ころまでは大気中に残存するため、長期間、オゾン層に影響を与えるのではないかと心配された。

 異変は、南極ではじまった。1982年、初めてオゾンホールが発見された後、年を追って大きくなり、2000年以降も、ほぼ同じ大きさのままだった。オゾンホールができると、太陽の紫外線をさえぎれなくなり、地上に降り注いで、皮膚がんや白内障などの原因になる。

 オーストラリアやニュージーランド、チリやアルゼンチンなど、南極に近い国々では、住民が太陽の紫外線を大量に浴びないように、サングラスをつけたり、皮膚を隠すなど、さまざまな対策が取られている。

 オゾンホールは、なぜ南極にできたのか?それは、気温と深く関係している。フロンは放出された後、通常の大気温ではおとなしくしているが、気温がおよそ-80度まで下がると、活性化してオゾンを破壊し始める。

 南極は巨大な大陸で、気温の低下が激しく、特に5月から10月にかけて、成層圏の気温が-80度を下回る。この低温によって、フロンが活性化し、オゾン層が破壊されるしくみだ。(NHK 室山哲也 解説委員)


参考HP NHK解説委員室:「北極オゾンホールの意味」 アイラブサイエンス:北極でオゾンホール


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nature [Japan] October 27, 2011 Vol. 478 No. 7370 (単号)
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