化学電池の原理
 化学電池とは何だろう? 化学変化を直接電気のエネルギーに変えるのが化学電池だが、物質の化学変化は必ずしも電気的な作用を発生させるものではなく、化学変化と電気を結びつけるにはイオン(ion)が必要。イオンの移動が電流になる。

 具体的には、イオンの存在する水溶液に、化学変化を起こす、2種類の金属を入れると電流がとり出せる。金属のうち、電位の高い方が「正極」であり、電位の低い方が「負極」である。電池では正極側で還元反応が起こり、負極側で酸化反応が起こる。

 還元反応が起こる正極を「カソード」と呼び、酸化反応が起こる負極を「アノード」と呼ぶ。出力される電圧は2つの電極電圧の差が主要な要素であるため、正極側の活物質は電極電位が高い方が良く、負極側の活物質は電極電位が低い方が良い。

 現在、電気自動車(EV)では、リチウムイオン電池が主流だが、走行距離が100km~200kmと短い。さらに強力な電池とバッテリーが要求される。リチウムイオン電池を上回る性能を求め、新たな方法で材料を処理し、組み合わせる研究が各地で進められている。以下National Geographic news 9月24日の記事より引用する。


Battery

 長寿命、低コスト、高いエネルギー貯蔵量、大出力、省スペースの実現が目標だ。2012年中に10車種を超える新型EVが市場に投入される予定だが、アナリストの大半は、市場への浸透が困難と予測している。主な要因は高い価格と扱いにくいバッテリーだ。

 米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所の化学研究員クリスティン・ペーション(Kristin Persson)氏は、「ノートパソコンを分解すると、バッテリーの大きさが目立つ。車の場合も同じだ」と語る。例えば、ゼネラル・モーターズ(GM)のプラグインハイブリッド車「シボレー・ボルト」の場合、T字型のバッテリーパックは約180キロの重さで、前後に1.5メートル以上も伸びている。狭い後部座席には、2人分のスペースしかない。

 もし現在より小さく同等のエネルギーを供給できるバッテリーが実現したらどうなるか? 携帯電子機器メーカーもEVメーカーも、空いたスペースで「新たな工夫を凝らす」ことができるとペーション氏は話す。同氏はマグネシウムイオン電池企業ペリオン・テクノロジーズ(Pellion Technologies)の共同創業者で、ローレンス・バークレー国立研究所とマサチューセッツ工科大学(MIT)の共同研究「マテリアルズ・プロジェクト(Materials Project)」にも立ち上げから関わっている。同プロジェクトでは、何万もの化合物の特性を検索可能なデータベースにまとめ、新しい化合物の特性をスーパーコンピューターで予測するという。
 電池をサンドイッチに見立てた場合、2枚のパンは電極で、一方が正極、もう一方が負極だ。パンに押しつぶされるマヨネーズは有機溶媒の電解液。正電荷を持つリチウムイオンが電解液内を行き来することで充電、放電を繰り返す。ただし、電極は多くのイオンを蓄えられないため、電池の容量に限界が生まれる。もっと多くのイオンを蓄えられるようになれば、電池のエネルギーも増やせる。マテリアルズ・プロジェクトで新しい材料を探している理由だ。


 現在の主役: リチウム
 リチウムは、充電可能な携帯電子機器や、電気自動車(EV)には欠かせないレアメタルだ。

 「今後もしばらくは、リチウムが最も有力なバッテリー素材だろう。コスト面の課題をクリアできる元素は他にない」とペーション氏は語る。トヨタ「プリウス」など、ハイブリッドカーにはニッケル水素電池が使用されるケースが多いが、この数年間でリチウムイオン電池を採用する車種も増えてきた。同じ重量と体積で2倍のエネルギー密度を実現できるからだ。

 しかし充電時間などの課題はまだ克服されていない。自動車のエネルギー源として普及するには、さらなる軽量化や小型化も必要だろう。また、政治的なリスクも存在する。ペーション氏は、「大規模な埋蔵地は世界的に見ても限られている」と指摘。大部分は塩水から生産されており、圧倒的なシェアを持つチリをはじめ、ボリビアや中国などに偏在しているという。

 安全性も懸念材料だ。リチウムは水と激しい反応を示す。イオン化傾向が大きいリチウムが水に電子を渡して酸化還元反応が生じると、水酸化リチウムと泡立つ水素が発生する。自動車に搭載する場合は細心の管理が必要となる。

 「水に触れると多少危険なのは確かだが、リチウムを超えるバッテリー素材はまだ現れていない。反応性の高さは、高電圧にもつながるからだ」とペーション氏は述べる。


 安定度の高い正極材: マンガン
 石炭とマンガンはどちらも製鉄に欠かせない資源だが、マンガンはクリーンエネルギーにも一役買っている。日産リーフ、シボレー・ボルト、フィスカー・カルマの動力源、リチウムイオン二次電池の正極材料に採用されているのだ。

 古代、南米チリのアタカマ砂漠でミイラ作りに使用されていたマンガンは、その耐久性が蓄電においても望ましい特性と判明している。正極にコバルト酸リチウムを使うよりも、マンガンを材料としたほうが安定性が高い。コバルト酸リチウム二次電池は、家庭用電化製品に幅広く使用されているが、過熱により熱暴走に至る心配がある。「できることならすべての電池にマンガンを使用したいぐらいだ」とペーション氏は言う。

 マンガンは比較的安価で資源量は豊富だが、産出地に偏りがある。世界の既知埋蔵量の約75%が南アフリカにあり、次いで中国とオーストラリアが多い。 マンガンには電解液中に溶解するという重大な欠点がある。「正極材にマンガンを用いると寿命が低下する」とペーション氏は説明する。15年以上走行する自動車にとって耐久寿命は重要問題だ。「解決方法を求めて長年取り組んでいる」。


 グラファイト負極に代えて: 銅ナノワイヤー、シリコン、カーボンナノチューブ
 2つの電極は1つのチームとして機能する。つまり、イオンを蓄える量が少ない方の電極が、バッテリーの容量を制限してしまう。現在のバッテリーで足かせになっているのは負極である。

 半導体の材料となるシリコンは、リチウムイオン電池に使用されているグラファイト負極の約10倍のエネルギーを吸蔵する、前途有望な素材だ。

 「シリコンの電極材は良いアイデアだ」とペーション氏は言う。「世界中の至る所に豊富に存在し、地殻の4分の1以上を占める。また、半導体業界で培われた高純度シリコンの生産技術により、低コストで製造できるというメリットもある」。

 しかし、シリコンは充電時に膨張する欠点がある。「例えて言うなら風船だ。風船を薄くコーティングし、空気を入れて膨らませた後に空気を抜くと、その層ははがれ落ちてしまう。負極で失われた層は再形成する必要があるが、その分の材料が失われる。つまり、充放電を繰り返すたびにシリコンが減り、容量が低下してしまう」。

 銅を使う電池ははるか昔に時代遅れとなったが、銅ナノワイヤーの新技術が実を結べば、将来の蓄電デバイスの重要な役割を担うかもしれない。

 ペーション氏は、「銅は通常、電池の電極材ではなく電流コレクターとして利用される」と話す。「マンガンと同様、電解液に溶解する傾向があるからだ。さらに、価格も比較的高い」。

 しかし、コロラド州立大学の助教が創設したプリエトバッテリー(Prieto Battery)社は、通常のグラファイト負極の代わりに、銅とアンチモン化合物でできたナノワイヤーを利用する次世代リチウムイオン電池の試作に成功した。同社によると、ナノワイヤーの細さは人間の毛髪の5万分の1。最先端のグラファイト負極材に比べて2倍のリチウムイオンを格納できるという。現在は数時間かかる電気自動車のフル充電を、わずか数分で完了できる技術につながると期待されている。

 グラファイトは炭素の形態のひとつだが、同じ炭素でもナノチューブを利用した方が充電、放電の速度が上がると考えられている。ナノチューブは原子1個分の厚さしかない炭素シートを中空の管状に巻いてあり、表面積が大きいからだ。

 すでに酸素でコーティングしたカーボンナノチューブを負極に使用する研究が始まっている。燃料電池や金属空気電池に使われている白金触媒の安価な代替品として、カーボンナノチューブを利用する実験も行われている。

 「炭素はいくらでも存在するが、バッテリーで使うには少し構造を変えてやる必要がある」とペーション氏は説明する。「相当な高温で処理しなければならない。石炭の類とはまったくの別物なんだ」。


 豊富で安価な素材: マグネシウムとナトリウム
 「電池材料をリチウムからマグネシウムに変えると、電圧は弱くなるが、容量が2倍になる。マグネシウムは安価で、地殻で6番目に豊富な元素だ」とペーション氏は話す。同氏が設立したペリオン・テクノロジーズ(Pellion Technologies)社では、マグネシウムの金属正極を用いた電池を開発している。「もちろん鉱石のままでは使えないが、少なくとも素材としての値段が安い」。
 同じく豊富で低コストのナトリウムも、リチウムの代替材料として魅力的だ。「リチウムとナトリウムには共通点が多いので、当面の材料候補になる」とペーション氏は言う。東京理科大学の研究者は、ナトリウム、鉄、マンガンの酸化物を正極に、ナトリウム金属を負極に使った二次電池を開発した。手に入りやすい材料を使いながら、リチウムイオン二次電池と同等の電気を充電できるという。

 一方、ゼネラル・エレクトリック社(GE)は、バスや配送トラック用に、ナトリウムとリチウムの技術を組み合わせた電池システムを実証実験している。同社の声明によると、「現在の乗用電気自動車の加速性能と、大型工業用電池の電力貯蔵力を組み合わせた。リチウム電池は加速性能が高いが、走行に十分なエネルギーを溜められない」という。一方、ナトリウム電池はエネルギーを大量に貯蔵できるがパワー不足で、実用化はまだ先の話だ。

 ナトリウム電池の安全性には弱点がある。「ナトリウムの融点は非常に低く、電池のセル全体にナトリウム金属が沈着しやすい」とペーション氏は説明する。また、リチウム金属と同様に反応性が高い。「水や空気と激しく反応する。EVの電池に使うにはハードルが高い」。


 究極の素材? 酸素
 低コストで安全、軽量、しかも豊富に存在する酸素は、二次電池の究極の材料になる可能性がある。2009年にアメリカ、デイトン大学の電気化学発電グループが開発したプロトタイプは、固体素材を使用した初の「リチウム酸素電池」で、他のリチウム二次電池が抱えている発火や爆発のリスクを解消できるという。

 研究チームは、電解液の代わりに固体のガラスセラミックを採用した。漏出や腐食、揮発を避けるためである。デイトン大学の工学者ビノッド・クマール(Binod Kumar)氏によれば、必要なすべての化学物質を電池内に収めるのではなく、酸素は外部から調達する仕組みだ。周囲の空気から抽出し、正極での反応に使用するという。

 ローレンス・バークレー国立研究所のペーション氏は、「酸素は大量に存在し、コストも極めて低い。課題は、空気から酸素だけを取り出す方法だ。水分を含んでいると問題が発生するため、水素などは分離する必要がある」。

 リチウム酸素電池の実用化までは時間がかかるだろう。しかし実現すれば、リチウムイオン電池の10倍の容量を持つ二次電池や、航続距離800キロの電気自動車、1度の充電で1週間通話できる携帯電話が誕生するかもしれない。
 イギリスのセント・アンドリューズ大学では、リチウム酸素電池の電極に金を使用して、充放電を繰り返しても電極の分解を防ぐ実験に成功した。各国で開発が進んでいるが、解決すべき問題も多い。「携帯電話で使えるようになるのはまだ先の話だ。空気ダクトやフィルター、配管など、電池本体以外にもさまざまな装置が必要となる」とペーション氏は説明する。さらに、リチウムイオンと酸素が結合した過酸化リチウムなど、非常に化学反応しやすい物質も生成される。「部材の開発も容易ではない」と同氏は指摘する。


 電池開発の重要性と課題
 アメリカ、カリフォルニア州ニューアークにある新興企業エンビア・システムズ(Envia Systems)社では、ゼネラル・モーターズ(GM)ベンチャーキャピタル部門による出資の下、政府の助成金を受けながら、低コスト、高エネルギー密度の二次電池開発を進めている。マンガン系材料の正極材、シリコンと炭素を複合化したナノ複合材料の負極材の実用化を狙っている。

 2012年3月のアメリカ議会で、エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)で当時局長を務めていたアルン・マジュムダール(Arun Majumdar)氏は、電池開発が重要な理由についてエンビア・システムズを取り上げた。同社が設計上の世界記録を達成したエネルギー密度(400ワット時毎キログラム)は、ワシントンD.C.からニュージャージー州までのガソリン代が40ドル(約3170円)のところを、6ドル(約470円)の電気代で済むという画期的な性能である。問題は、3万ドル(約240万円)という電池パックの価格だ。「ARPA-Eの目標は、電池の価格を抑えて選択肢を増やし、コスト面でもガソリン車と対抗できるようにすることである。助成金も不要になり、石油の輸入依存度も低下するだろう」とマジュムダール氏は述べている。

 バッテリー開発は予定通りに進むとは限らない。米国エネルギー省から2億4900万ドル(約195億円)の助成金を受け、リチウムイオン・ナノリン酸塩電池を開発する「A123 Systems」社がその一例だ。フィスカー・オートモーティブのプラグインハイブリッドカー「カルマ」や、ゼネラル・モーターズ(GM)の「シボレー・スパークEV」にバッテリーを供給する契約を獲得、順調に成長を続けていると考えられていた。しかし、予想よりも低調なEV販売、フィスカー用のバッテリーで見つかった欠陥(2012年3月に交換プログラムを実施)、第2四半期に発生した約8300万ドル(約65億円)の損失が原因となり、中国の自動車部品メーカー万向集団に緊急出資を要請する事態となった。万向集団の出資額は最大4億6500万ドル(約360億円)で、株式の最大80%を取得する予定という。(Josie Garthwaite for National Geographic News September 24, 2012)


参考HP National Geographic news:次世代の自動車電池を担う素材技術


燃料電池と水素エネルギー 次世代エネルギーの本命に迫る (サイエンス・アイ新書)
クリエーター情報なし
ソフトバンク クリエイティブ
次世代電池 2007/2008 (2007)
クリエーター情報なし
日経BP社

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