ゾウの密猟、アフリカ内戦の資金源に
 現在、アフリカゾウの密猟と象牙の密輸がワースト記録を更新している。中国で所得が伸び、「需要」を押し上げているためだ。価格が高騰して密輸のうまみを高め、アフリカでは武装勢力による密猟が激化した。象牙の人気がアフリカゾウを殺し、内戦に油を注ぐという悪循環を招いている。

 「5年間で半分に減った。この調子が10年も続けば、絶滅に向かうことは確実です」米ニューヨークに本部を置く自然保護団体WCSスタッフとして、アフリカ中部コンゴ共和国に滞在する西原智昭さん(50)の危機感は強い。

 同国北部2万平方キロの範囲でモニタリング調査したところ、2006年から11年に、アフリカゾウの一種でジャングルに住むマルミミゾウが1万頭から5000頭に半減していた。

 「ほとんどは密猟でしょう。由々しき事態です」調査地は今年、世界自然遺産に登録されるほどの貴重な自然が残っているエリアだ。森林伐採の道路が延び、アフリカ奥地にも密猟が忍び寄っているという。


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 2012年2月、カメルーン北部の自然保護区に惨状が現出した。頭の前部分が切り落とされたゾウの死体が、累々と横たわったのだ。牙が抜き取られ、あとは腐るがままに放置された。

 数週間にわたる密猟で200から300頭が殺され、現地調査した世界自然保護基金(WWF)の専門家は「大きいゾウも小さいゾウも関係なくシステマチックにやられた」と、怒りを抑えきれない。
大規模密猟の首謀者は、スーダンの武装組織ジャンジャウィードだと疑われている。30万人以上が虐殺され「世界最悪の人道危機」と言われるダルフール紛争の当事者だ。近隣のチャドや中央アフリカでも組織的密猟を行ってきたとされる。


 泥沼化した内戦の“犠牲者”
 生きるため貧しい地元民が密猟に手を染める。そんな密猟はまだ牧歌的だ。「象牙2本売れば労働者の3カ月分に給料になる」(西原さん)という密猟はいま、武装組織の重要な資金源になっている。

 自動小銃カラシニコフ(AK47)やマシンガンを装備したトラックで、何百キロも遠征する。政情が不安定な中部アフリカには、子供の誘拐で悪名高いウガンダの反政府武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」など、密猟が疑われる勢力がいくつもある。象牙の需要は泥沼化した内戦の、さらなる混迷を促しているのだ。

 象牙は1989年、希少動植物の保護を目的とするワシントン条約で国際取引が禁止された。地下に潜った象牙取引は近年、相当な勢いで伸びているとみられる。米紙ニューヨーク・タイムズは、昨年は記録を更新する38.8トン(ゾウ4000頭以上)の象牙が世界で押収されたと伝えた。

 ワシントン条約締約国会議で出された報告書によると、過去3年間の0.8トン以上の大規模押収で、行く先が判明した54%は中国向け。2位タイの12%を大きく上回る。アフリカゾウの密猟も昨年は、過去10年で最悪としている。

「組織犯罪集団が圧倒的な役割を果たしていることが示唆される」と報告書は指摘する。アフリカから積み出された象牙の多くはマレーシアやベトナムなど第三国を経由し、巧妙に中国に持ち込まれるという。


 逮捕者の9割は中国人
 「あなたも象牙を探しに来たのか」 西原氏はアフリカで、石油プロジェクト関係の中国人に言われたことがある。

 仕事などでアフリカに入る中国人による、違法な持ち帰りが増えている。ケニアの野生生物管理官は英BBCに「象牙密輸で空港で逮捕される90%は中国人だ」と話した。

 古くから象牙を珍重してきた中国だが、近年の人気ぶりは異常だ。需要が急増して価格も急騰している。

 米ウォール・ストリートジャーナルは環境保護団体調べとして昨年、中国での売買価格を報じた。2008年には1キロ157ドル(約1万2千円)だったが、11年には最高7000ドル(約56万円)に跳ね上がった。「アフリカに入る中国人労働者の、象牙への誘惑が強まっている」という。

 8月、元NBAバスケットボールのスター選手、姚明氏がケニアを訪れた。「象牙を欲しいと思うひとがいなければ、密猟の必要もないのです」

 中国国営テレビで視聴者に呼びかけた姚明氏は、密猟撲滅キャンペーンの広告塔だ。中国への批判の高まりを受け、政府も啓発に本腰を入れ始めた。ドキュメンタリーを制作し、中国人の象牙愛好がもたらす悲劇を伝える。


 原因は意識の低さ?
 国際取引が全面禁止された後の2008年、中国は南アフリカやナミビアなどアフリカ南部4カ国から例外的に一度限りの合法輸入が認められた。ゾウの管理が行き届いたこれらの国では、自然死した個体の象牙を輸出したいとの要望があるためだ。

 中国国内では合法的に流通する象牙に混入する形で密輸象牙の「洗浄」が行われていると、ワシントン条約の報告書は厳しく指摘する。証明書添付が徹底しないなど抜け穴が多く、消費者の意識の低さも不正の温床だ。

 英紙ガーディアンは野生動物監視団体スタッフの嘆息を伝えた。「乳歯のように牙が生え代わると思っている人もいるのです」

 かつて印鑑用などに大量の象牙を合法輸入していた日本も、アフリカゾウとは縁が深い。2009年のワシントン条約報告書では「中国とは対照的に押収事例にほとんど関与していない」と称賛されたが、2007年には大阪南港で約3トン押収された事件が発覚するなど、密輸と無関係とはいえない。

 日本は象牙の国際取引の禁止後、1999年と2008年の2度にわたり一回限りの合法輸入が認められた唯一の国だ。象牙消費国として特異な立場にあり、それだけアフリカゾウの保護や国際ルールの順守に対する責任も重い。

 大阪の伝統芸能、文楽に欠かせない三味線のバチには象牙が使われている。アフリカゾウが置かれた現実は、大阪の人にも無関係ではない。(坂本英彰 産経news 2012.9.23)


 ゾウ密猟者とレンジャーの“戦争”
 アフリカ西部ガボンの国立公園には、耳の弾痕から“バグダッド”と名付けられたゾウがいる。希少なマルミミゾウで、地面に届くほど長い牙は1000万円台の高値が付くため、密猟の危険にさらされている。彼ほど長い象牙を持つマルミミゾウは地球上で20頭しかいないという。

 韓国、済州島で国際自然保護連合(IUCN)が開催している第5回世界自然保護会議で9月9日、ガボンの国立公園管理組織の責任者リー・ホワイト(Lee White)氏は、「悲しい現実だ」と嘆いた。会議では、自然保護活動家らがアフリカゾウが激減している状況を訴え、IUCNの支援を求めている。

 経済発展の続くアジアでは、象牙は富の象徴とみなされる。6月に国連のワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)会議でまとめられたレポートによると、象牙を狙った国際的な犯罪組織の動きが活発化しており、ゾウの個体数が「危機的レベル」にまで激減しているという。

 2011年は数万頭のゾウが犠牲になっており、象牙取引が国際的に禁止された1989年以降、最も高い密猟発生率となった。象牙はアフリカ西部や東部の港から主に中国に運ばれ、タイなど他のアジア諸国にも渡っているという。

 アフリカゾウは1930~40年代には500万頭と推計されていたが、現在は47万2000~69万頭に激減しており、IUCNのレッドリストでも絶滅危惧II類(危急)に分類されている。

 9月12日にはIUCN加盟国総会(Members' Assembly)で、密猟の標的となっているアフリカの野生動物の保護を強化する3つの対策案について採決が行われる。その内容は、特にゾウとサイの保護に重点が置かれている。

 アフリカの野生動物保護官協会(Game Rangers Association of Africa)がスポンサーとなる案では、武装した密猟者に殺害される危険もあるレンジャーへの支援強化策が提案されている。

 2012年にアフリカでは数十名のレンジャーが命を落としており、ケニア野生生物公社(KWS)だけでも15名に上った。

「ほとんど戦争の状況下にあると言っていい」とホワイト氏は指摘する。「学者ではなく、戦場の兵士のような役割が求められるようになっている」。


 レンジャーへの支援強化
 “保護動物の守護者”として、レンジャーはより多くの資金と訓練、そして装備を必要としている。「アフリカで密猟が活発化している現在はなおさらだ」と、野生動物保護官協会の一員としてレンジャーへの支援強化案策定を主導したティム・スノー(Tim Snow)氏は言う。

 「多くのアフリカのレンジャーが、低い賃金で危険地域での不安な仕事に従事している。しかもパトロールにあたる職場は、今や戦場と化している。政府による保護態勢が必要だ」。

 「レンジャーへの支援強化策は、“最前線で戦っている人たちの声”に基づいている点に意味がある」と、世界自然保護基金(WWF)でアフリカの生物種保護の上級プログラムオフィサーを務めるマット・ルイス(Matt Lewis)氏は電話インタビューで語った。「“効果的に職務を遂行するためには支援が不可欠”という声だ」。

 WWFはこのほど、野生生物関連の犯罪行為を撲滅するキャンペーンを立ち上げた。「目的の一つは、レンジャーの活動に対する認知度の向上だ。彼らの多くは支援や訓練が足りていない」とルイス氏は説明する。

 また、同氏は、レンジャーの職務を標準化する考えにも賛同している。例えば世界銀行や地球環境ファンド(Global Environment Fund)といった大規模な団体が、レンジャーの訓練学校や認定プログラムの設立資金を供与する方法が考えられる。

 実際、IUCN加盟国総会での対策案も、自然保護に携わる管理者に十分な資金と権限、訓練、装備を与え、保護活動を厳格に遂行するための適切な報酬を与えるようIUCNに求めている。

 「象牙取引に厳しく対処してきたガボンは、最近になって国立公園の人員数を100人から500人に増員した。250人規模の新しい軍事部門の設立にも取り組んでいる」とホワイト氏は話す。

 しかし、公園スタッフの車への銃撃など、密猟者たちの行為は悪質化している。「銃撃に怯えながら仕事に行く毎日だ」と同氏は訴えている。(Christine Dell'Amore in Jeju, South Korea for National Geographic News September 12, 2012)


 珍重される象牙、かつては日本も…
 象牙(ぞうげ)とはゾウの長大に発達した切歯(門歯)である。多くの哺乳類の「牙」と称される長く尖った歯は犬歯が発達したものであるが、ゾウの牙は門歯が発達したものである点が異なる。ゾウの生活において象牙は鼻とともに採餌活動などに重要な役割を果たしている。材質が美しく加工も容易であるため、古来日本でも工芸品の素材として珍重されていた。

 日本においては、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)締結までは一番の輸入大国であった。印材として現在は日本国内に条約施行前や一時解禁時に輸入された象牙が今でも加工されているほか、水牛の角、カバやセイウチの牙、またはロシアの永久凍土より掘り出されたマンモスの牙が代替品として利用されるなどしている。

 近年では、象牙と全く同じ質感のある素材を牛乳のカゼイン蛋白と酸化チタン粉末から作ることが可能で、これを利用した象牙風の安価な製品も存在する。

 かつて日本は最大の象牙輸入国であったがワシントン条約(CITES)の締結により1989年より象牙の輸入禁止措置が採られ、事実上世界の象牙貿易は終了した。しかしその後、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエのゾウの個体数が間引きが必要な規模へ急増。1997年のワシントン条約締結国会議で、ナンバーリングを行う等の措置を条件に貿易再開を決議。

 1999年に日本向けに1度限りの条件で貿易が行われた。南部アフリカ諸国はゾウの急増により農業被害や人的被害が見られることもあり引き続き貿易の継続を要望したが、一方で無制限に貿易が再開されると錯覚した密猟者がアフリカ各地で活動を活発化、混乱が生じたことから再開の目処は立たなくなった。

 2007年、ワシントン条約の常設委員会は監視体制が適切に機能しているとした南アフリカ、ボツワナ、ナミビアが保有している60トンを日本へ輸出することを認める決定をした。なお日本と同じく輸入を希望していた中国は認められなかった。2008年にはCITESによって許可された象牙競売が開催され、ナミビア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカの4ヵ国から出荷された合計102トンの象牙(すべて、政府が管理する自然死した象のもの)が日本と中国の業者に限定して売却された。

 2011年現在、経済発展著しい中国では、かつての高度経済成長期の日本と同様、象牙の需要が増しており、この需要を満たすためにアフリカで象の密猟が増加している。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:象牙 National Geographic news:ゾウ密猟者とレンジャーの“戦争” 産経news:中国人の「象牙愛好家」がアフリカの内戦を激化させている


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