山中伸弥氏「ヒト細胞の初期化」 
 2012年ノーベル医学・生理学賞の受賞者が決まった。スウェーデンのカロリンスカ研究所は9月8日、日本時間18:30頃、京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授(50)と、英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士に授与すると発表した。受賞理由は「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」である。

 山中教授は、皮膚細胞に4種類の遺伝子を入れることで、あらゆる組織や臓器に分化する能力と高い増殖能力を持つ「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作り出した。拒絶反応のない再生医療や難病の仕組み解明、新薬の開発など、医療全般での応用が期待される。最初の成果が米科学誌に掲載されてから6年あまりという異例のスピード受賞だ。

 日本人の受賞は2010年の鈴木章・北海道大名誉教授と根岸英一・米パデュー大特別教授の化学賞に続く快挙で、医学生理学賞の受賞は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大教授以来2人目。今回の受賞で日本人の受賞者は、米国籍の南部陽一郎氏=2008年物理学賞=を含め19人(医学生理学賞2、物理学賞7、化学賞7、文学賞2、平和賞1)となる。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデン・クローナ(約9800万円)が贈られる。


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 ヒトなど有性生殖を行う動物は、1個の受精卵から体のあらゆる細胞に分化する。従来、一度分化した細胞は、未分化の状態に戻ることはないと考えられてきた。

 山中氏らは、受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)や、受精させていない卵子の中で働く24種類の遺伝子を特定。2006年8月、おとなのマウスの皮膚細胞にわずか四つの遺伝子を組み込んで細胞を「初期化」し、ES細胞とほぼ同じ多能性と増殖能力を持つ細胞に変化させたと発表。人工多能性幹細胞(iPS細胞)と名付けた。2007年11月には、同様の手法でヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作ったことも報告した。(毎日新聞 2012年10月08日)


 ジョン・ガードン氏「細胞の初期化」
 イギリスのジョン・ガードン氏も同じ「初期化」をテーマに研究をすすめ大きな成果を上げている。1962年に行った実験で、カエルの卵から核を取り除き、代わりにオタマジャクシの細胞の核を移植しても、卵がそのまま成長することを示した。 いったん成長した細胞の核でも、卵の中に入れることで、受精卵の細胞核と同じような状態になる、「初期化」が起きるとした最初のケースだった。

 ジョン·ガードン氏は、1933年10月2日生まれのイギリスの発生生物学者。彼は核移植とクローニングの研究の先駆的な研究者として知られている。2009年、ラスカー賞を受賞していた。

 ガードン氏は、キリスト教イートンカレッジと、オックスフォードで動物学を学んだ。彼はアフリカツメガエルの核移植を研究し、マイケルオックスフォード大学で博士号をとり、その後、カリフォルニア工科大学の教授として働いた。彼の初期の研究は動物学教室のあったオックスフォード大学(1962年から1971年)で行われた。

 1971年~1983年には、研究の大半をイギリスのケンブリッジ大学、分子生物学の実験動物学科で過ごした。1989年、彼はケンブリッジの細胞生物学および癌に対する、ウェルカム研究所の創設メンバーとなる。2001年までその議長を務めた。彼は1991年から1995年の間、ナフィールド生命倫理評議会のメンバーとなる。1995年から2002年までマスターモードリンカレッジに在籍。その後オックスフォード大学に戻っている。

 未受精卵に胚細胞の核を移植する方法(胚細胞核移植)による最初のクローン動物は、1952年にロバート・ブリッグスとトーマス・キングによりヒョウガエルから作られた。このときは、分化の進んでいない初期胚の細胞や核を不活化した未受精卵に移植することによりクローンを作成した。

 1958年、ガードン氏はアフリカツメガエルの受精卵に紫外線を照射してその核を除いたあと、別の卵の核を移植して、カエルまで育つことを示した。また、移植する核をある程度分裂が進んだ細胞(小腸の細胞)から採取しても、発生が進行することも示した。このような、すべての組織器官を作り上げる能力を全能性といい、その当時は4細胞期までの核にしか全能性はないと思われていたのである。

 ガードン氏の実験は、科学界の関心を集めた。彼の核移植のために開発されたツールや技術は今日でも使用されている。クローン技術は、植物ではすでに20世紀の初めから使用されていた。1963年、英国の生物学者ホールデンは、ガードン氏の成果について、動物での最初のクローン技術であると述べている。

 その後、ガードン氏らは、アフリカツメガエルの卵と卵母細胞の間に働く、メッセンジャーRNAと、そのタンパク質を同定し、そのメカニズムの研究をした。

 最近の研究では、細胞間のシグナル伝達に関与する要因の解析に焦点を当てている。DNAの脱メチル化 による細胞の分化を、核移植実験を使って、そのメカニズムの解明を目指している。


 「iPS細胞」とは何か?
 iPS細胞とは、 人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells)のことで、細胞を初期の状態に戻し、受精卵のようにさまざまな細胞や組織に成長する能力を持たせた細胞。京都大学の山中伸弥教授らのグループによって、マウスの線維芽細胞から2006年に世界で初めて作られた。

 山中教授は四つの遺伝子を、ウイルスを使って皮膚細胞に導入した。その後、遺伝子の数を減らすなどさまざまな作成法が発表された。再生医療に用いる場合はがんを作らない作成法が必要。病気の仕組みを解明したり、新薬の安全性確認への応用も期待されている。しかし、真の実用化までには、まだ課題がある。

 マウスの実験において表面化した最大の懸念は、iPS細胞の癌化であった。iPS細胞の分化能力を調べるためにiPS細胞をマウス胚盤胞へ導入した胚を偽妊娠マウスに着床させ、キメラマウスを作製した所、およそ20%の個体において癌の形成が認められた。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値であった。

 この原因は、iPS細胞を樹立するのに発癌関連遺伝子であるc-Mycを使用している点と、遺伝子導入の際に使用しているレトロウイルスは染色体内のランダムな位置に遺伝子を導入するため、変異が起こり、内在性発癌遺伝子の活性化を引き起こしやすい点が考えられた。その後、山中教授らは発癌遺伝子を使用しないiPS細胞の作出に成功したが、作出効率が極めて低下(1/100といわれる)するとの問題があり、効率を改善する手法の開発が進められている。また、レトロウイルスを用いないでiPS細胞を作出する手法の開発も多くのグループにより進められている。


参考HP アイラブサイエンス:iPS細胞の可能性拡大 目が離せないiPS細胞

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
クリエーター情報なし
講談社
Newton (ニュートン) 2008年 06月号 [雑誌]
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ニュートンプレス

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