不可解な読売新聞の記事
 2012年10月8日、ノーベル医学・生理学賞は、京都大学の山中伸弥教授が受賞し、日本列島は喜びに包まれた。しかし、わずか3日後の11日、iPS細胞をめぐりおかしな問題が起きた。

 読売新聞が1面で「iPS細胞が、米国ハーバード大学の日本人研究者チームで、すでに臨床応用に成功していた」という記事を掲載。ところがこれに疑惑が浮上、 当の読売新聞は、夕刊で当事者のインタビューをのせていたが、12日未明になって、大学や病院から否定的な情報が次々と出て来た。

 いったいどんなことが起きたのだろう?まず、11日、読売新聞は朝刊の1面及び3面「スキャナー」と同日夕刊の1、2面に、「iPS心筋を移植」「iPS実用化へ加速」などの見出しの記事を掲載した。

 いずれも、米国ハーバード大学の森口氏がiPS細胞から作った心筋細胞を重症の心不全患者に移植する治療を実施したという事実を前提としており、主要部分に誤りを含んだ記事だった。


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 さらに、12日朝刊では、締め切り時間の早い12版全紙と首都圏近郊などに配られる一部の13版の1面に、「iPS新手法で作製」「臨床応用へ開発広がる」という見出しの記事を掲載した。これも前提が誤った記事で、締め切り時間の最も遅い14版全紙と13版の残りの新聞からは削除した。

 このほか、同日朝刊では、12版全紙と13版の一部地域の社説や、13面「基礎からわかるiPS細胞の未来」の記事の中にも、「森口氏がiPSS細胞から作った心筋細胞を心不全の治療に応用した」とする内容の記述があり、14版などでその部分を削除し書き直した。(読売新聞)


 細胞移植に疑義 広がる波紋
 アメリカで開かれた国際学会で、日本人研究者がiPS細胞を使ったヒトへの細胞移植を世界で初めて実施したと発表したが、この研究者が細胞移植を行ったと主張するボストンの病院は関わりを否定した。学会を主催する財団も「疑義が生じた」と指摘し、発表内容の信ぴょう性が疑われる異例の事態となり、波紋が広がっている。

 問題の発表とは、ニューヨークで今月10日開かれた国際学会で、日本人研究者の森口尚史氏が、iPS細胞から変化させた細胞を世界で初めてヒトに移植したと発表した。

 発表では、重い心臓病の患者6人にバイパス手術を行った際、iPS細胞から変化させた心筋細胞を心臓のおよそ30か所に注射で移植したとしている。

 発表前の今月9日、森口氏は、NHKの取材に対し、細胞移植はことし2月以降、ボストンにあるハーバード大学の関連病院、マサチューセッツ総合病院で院内の倫理委員会の暫定承認を得たうえで実施したと説明した。

 この中で、森口氏は学術用語を交えながら「患者の同意や大学の暫定承認があり勇気を持って挑戦した。治る見込みのない患者が歩いて帰れるようになったことが一番うれしい」と話していた。


 研究に疑義が浮上
 しかし、アメリカでの細胞移植の論文の共同執筆者が全員日本人であることや細胞移植の治療効果を過剰に強調する点などに疑問を感じ、NHKは、ハーバード大学と病院に取材した。

 その結果、いずれも「現在、森口という日本人研究者は在籍しておらず、iPS細胞を使った臨床研究の申請も受け付けていない」と否定したのだ。

 この段階でNHKは、ニュースとして放送できないと判断した。

 学会での発表を受けて、病院は10月11日、「森口氏は現在、それぞれの機関と関わりがなく、倫理委員会から何らかの承認を受けたという事実もない」とする声明を出した。

 その後、国際学会を主催した財団も、「疑義が生じた」と指摘し、会場から発表内容を示したポスターを撤去する異例の事態になった。今回の発表で共同研究者とされる1人は、問題が明らかになったあと、NHKの取材に対して「森口氏とは5年以上交渉がなく、自分の名前が使われていたなんて、本当に寝耳に水だ」と話している。


 東京医科歯科大学からも疑義
 問題はさらに広がりをみせている。森口氏が所属していた東京医科歯科大学が10月12日夕方に記者会見し、別の研究でも疑義があることを明らかにした。

 おととし、森口氏が大学のグループとともに、iPS細胞を使ってC型肝炎の治療薬の効果的な組み合わせを見つけたと報道されたことについて、こうした実験や研究を行った事実はないというのだ。

 一方、移植が実施されたと伝え、実用化に向けた手続きなどを特集した読売新聞は取材経過を詳しく見直すとともに事実関係の調査を行い、結果を公表することにしている。

 また、移植が実施されたと報じた共同通信は事実無根の可能性が高いと判断したとして、今回の取材を検証するとしている。


  森口氏は疑義に反論
 森口氏は、疑義が示されたことについて、「なぜハーバード大学や病院が臨床研究の申請を受け付けていないと否定しているのか、全く分からない。移植に関するデータなど証拠はすべて日本にあるため、今は移植の実施を証明することはできないが、落ち着いた段階で、一緒に研究を続けてきたアメリカの研究者とも連絡をとり、説明をできるようにしたい」と主張している。

 識者は “研究者の倫理”
 今回の問題について、科学技術振興機構の北澤宏一前理事長は、真相はまだ解明されていないとしたうえで、「研究とは、研究者の倫理に基づいて行われることなので、もし改ざんや不正があれば、許されることではない」と指摘している。

 そのうえで、今回のような問題が起きた背景について、「山中教授のすばらしい研究が進むなかで、多くの研究者が自分もこうやりたい、ああやりたいと考え、激しい競争になっている。そうしたなかでは不確かなうちにデータを発表してしまうことも起きかねないが、それはねつ造の始まりで、あってはならないことだ」と警鐘を鳴らしている。


 ノーベル賞・山中教授は…
 日本列島が、ノーベル賞受賞決定にわくなかで、にわかに浮上した今回の問題。山中伸弥教授は「論文をきちんと読まないと何もコメントできない」としたうえで、「十分な動物実験なしに、いきなり人間というのはあり得ないのではないか」という考えを示している。

 そのうえで「今、日本では安全性と効果をしっかり確かめて、そのうえで初めて患者さんに投与しようと、順番を踏んだ準備をしっかり進めているので動きに影響されることなく、この順番は守って患者さんの利益になるように開発を進めていきたい」と話している。(NHKニュース 2012年10月12日)

 読売新聞の1面で報道された今回のニュース。これがウソだったとすると、読売新聞の報道姿勢が問われるところ。また、iPS細胞については、まだ倫理面での確立がなく、勝手に臨床応用する研究者が出現するおそれがある。あくまでも、人命尊重の立場で研究を続けたい。

 現在、iPS細胞の最も移植が早いと見られているのは、「加齢黄斑変性」という視力が失われる病気の治療だ。日本に40万人の患者がいるとされ、患者のiPS細胞から網膜組織を作り出して移植するという。


参考HP アイラブサイエンス:iPS細胞の可能性拡大 目が離せないiPS細胞

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
クリエーター情報なし
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Newton (ニュートン) 2008年 06月号 [雑誌]
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