土星の嵐、信じがたい気温上昇を観測
 ハリケーン「サンディ」が大規模な“フランケンストーム”に発達し、アメリカ東海岸を襲った。大きな爪あとを残したが、いくら大規模でも土星の記録的な嵐とは比べものにならない。

 2011年初めに発生した土星の巨大嵐は、地球より大きな範囲に雲を広げただけでなく、「これまで太陽系内で検出された中で最も大きく、最も高温の渦を成層圏に発生させ」、謎のエチレン大量発生を引き起こした。

 まだほかにもある。NASAの土星探査機カッシーニが検出した土星の気温は、一時局地的に摂氏84度も上昇するという「ほとんど信じがたい」ことが起きていた。これほどの気温上昇は太陽系ではかつて記録されたことがないと、NASAは10月25日付の発表で述べている。

 この極端な気温上昇は、冬のアラスカ州北部から夏のモハベ砂漠に瞬間移動するのに等しい。この気温差がちょうど摂氏84度くらいだ。

 「この気温変化を検出したときは非常に驚いた。これほどの変化が観測されたことはかつてない」と、メリーランド大学の研究科学者でカッシーニ・チームの一員であるブリゲット・ヘスマン(Brigette Hesman)氏は述べる。「まったく予想もしていなかった結果だ」。

 土星の嵐は激しい風と雷を巻き起こし、ピーク時には幅1万4500キロの雲がこの巨大ガス惑星を一周した。そして極端な気温変化に伴い、炭化水素ガスのエチレンが大量に発生した。これは、土星大気中に従来わずかしかみられなかったメタンの副産物だ。エチレンがこれほど大量発生した原因はわかっていない。


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 「すべては下層大気中に発生した大規模な嵐によるもの」であり、下層大気では気温が高いため、水が凝結して雲になるとヘスマン氏は述べている。しかし、嵐がいかにしてこれほど多くの奇妙な現象を引き起こしたかについては「解明に何年もかかる見通し」だという。


 土星探査の大きな成果
 土星は30年かけて太陽を一周し、それとほぼ同じ周期で大規模な嵐が発生する。2011年の巨大嵐は通常の周期より10年早く発生し、半年以上続いた。土星の軌道上を回る高性能の探査機によって観測されるのは、この種の嵐では初めてだ。

 「カッシーニがこれまでに成し遂げた中でも最大級の発見と言える」と、カリフォルニア州パサデナにあるNASAのジェット推進研究所(JPL)でカッシーニ・プロジェクトの副サイエンティストを務めるスコット・エジントン(Scott Edgington)氏は話す。NASAと欧州宇宙機関(ESA)、イタリア宇宙機関(ASI)の共同プロジェクトであるカッシーニは、打ち上げから7年後の2004年に土星に到達した。

 かつてない急激な気温上昇の結果、土星の成層圏の気温は摂氏マイナス約54度を記録した。土星の内部大気は比較的高温になることもあるが、成層圏は地球でいうと長距離飛行の航空機の巡航高度と同程度の高さにあり、通常は非常な低温となっている。

 さらには、極端な気温変化により、土星にこれまでなかった化学反応が起きるようになった可能性もあるとエジントン氏は言う。メタンがエチレンに変化するほど大量に存在するというのは、土星では極めて異例なことだ。

 木星の大赤斑より巨大な土星の渦
 ピーク時の嵐の大きさと強さは、主に赤外線観測によって明らかになった。赤外線観測では、光学望遠鏡には見えないものが見える。観測の結果、目に見える嵐が土星の対流圏に雲層に広がっていた一方で、嵐のエネルギーは数百キロ上方まで到達し、暖かい空気の巨大な“のろし”となって、対流圏の上の成層圏に食い込んでいたことが判明した。

 この“のろし”はいずれ分解し、冷えていくと予想されたが、2011年初めごろには分解するどころか合体して1つの巨大な渦をなし、一時は木星の巨大な大赤斑より大きくなった。

 エジントン氏によると、カッシーニは、ハワイとチリに設置された望遠鏡の助けを借りて、6カ月続いた嵐をかつてないほど綿密に観測することに成功したという。それでも、嵐の研究はまだ始まったばかりだ。カッシーニだけでも「われわれが調査に用いる機器を12台搭載しており、それらのデータをすべて統合して非常に特異なこの現象の全過程を解明する」。

 この土星嵐についての研究成果は、「Astrophysical Journal」誌の11月20日号(オンライン版では10月30日)に発表される予定だ。(Marc Kaufman for National Geographic News October 29, 2012)


 探査機「カッシーニ」とは?
 カッシーニ (Cassini-Huygens) は、アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)によって開発され、1997年に打上げられた土星探査機である。

 カッシーニは金星→金星→地球→木星の順にスイングバイを行なって土星軌道に到着した。カッシーニには惑星探査機ホイヘンス・プローブ (2.7 m、320 kg) が搭載されており、タイタンでカッシーニより切り離されてタイタンに着陸し、大気の組成・風速・気温・気圧等を直接観測した。

 カッシーニとホイヘンスよりなる土星探査はカッシーニ・ホイヘンス・ミッションと呼ばれ、欧米18カ国の科学者約260人が参画している。カッシーニの名は、天文学者ジョヴァンニ・カッシーニに、ホイヘンスの名は同じく天文学者クリスティアーン・ホイヘンスに由来する。当初はガリレオ同様に小惑星に接近する計画であったが、予算の都合により断念された。

 カッシーニの探査の成果(判明したこと)として、衛星や環の発見以外に、次のようなことが挙げられる。木星には独立した嵐が存在し、小さな斑点となって現れることが分かった。また、一般相対性理論を検証する実験の再現に成功した。すなわち、太陽の近くをかすめるように電波を発射し、太陽の近くを通らない場合より到達に時間がかかることを証明した。これは、重い天体の近くで時空が歪むというアインシュタインの理論と整合する。

 タイタンには、液体が流れたことによる流路があることが分かった。大気からの降雨があることが確認された、太陽系では地球以外の唯一の天体となっている。タイタンの濃密な大気は、メタンが分解され、それが再結合した炭化水素のような大きな有機分子ができることで作られたことが分かった。タイタンのメタンが、生物由来でないことが強く推測された。2010年2月3日には、探査計画の2017年5月までの延長を発表している。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:タイタン National Geographic:土星の嵐、信じがたい気温上昇を観測3


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