“巨人症”の古代ローマ人
 大きな人というのは、病気の場合もあるらしい。バスケットボールやバレーボール、プロレスラーなどのスポーツ選手の中には、大きな人がいて驚かされる。その人達の中に成長はホルモンの異常で「先端巨大症」という病気の場合がある。

 これは、現代の人ばかりでなく当然昔の人にもあった。1991年にローマで発掘された古代人の骨をイタリアの研究チームがDNA解析したところ、脳下垂体異常で成長ホルモンが過剰分泌される疾患、“巨人症”の患者と判明した。

 身長は約202センチで、紀元3世紀ごろのローマ男性の平均167センチよりかなり高い。ちなみに現在、世界で最も身長が高い男性は251センチである。

 巨人症は幼少期に発症し、脳下垂体の異常によって過度に身長が伸びる。およそ30万人に1人の非常にまれな疾患で、古代人の骨には発見例がほとんどなかったという。

 ポーランドとエジプトでは以前、巨人症の“可能性が高い”骨の一部は発見されていた。研究を主導したイタリア、ピサ大学の古人類病理学者シモーナ・ミノッツィ(Simona Minozzi)氏によると、今回は完全な骨格で、“確実に”巨人症だった最初の例になるという。


Gigantism

 骨の分析で巨人症を立証
 問題の骨は1991年、ローマ近郊のフィデナエにある古代の共同墓地で発掘された。発掘調査を主導したローマ考古学財監督(Soprintendenza Archeologica di Roma)は、男性の墓が通常より長いと気付いていたが、当時は人類学的な分析を実施しなかった。その後の分析で骨の異常が明らかになり、すぐにミノッツィ氏のチームへ送られた。

 調査の結果、頭蓋骨に脳下垂体の腫瘍の痕が発見された。腫瘍が下垂体の機能に影響し、成長ホルモンのが過剰分泌につながったようだ。ほかにも異様に長い四肢や、成人後も骨が成長した跡など、巨人症の裏付けとなる発見があった。

 ミノッツィ氏によると、16~20歳の若さで死亡したとみられ、心臓血管や呼吸器の疾患との関連が深い疾患の存在を示唆しているという。

 イギリス、ダラム大学の生物考古学者シャーロット・ロバーツ氏は、「巨人症に間違いない」とした上で、より広範な調査が必要だと述べる。「疾患の分析だけでなく、社会の中でどのように生活し、扱われていたのかも調べる必要がある」。

 例えば副葬品は、地域内での役割や地位を推し量るヒントとなる。ミノッツィ氏によると、今回の骨の近くでは副葬品は見つからなかったが、当時の一般的な方法で埋葬されており、社会の一員として生活していたようだ。

 ミノッツィ氏は、「古代ローマ時代に、巨人症の人物がどのような役割や地位を持っていたのかはわからない。紀元2世紀ごろのローマ皇帝マクシミヌス・トラクスに関して、“山のように大きい”と表現した文献が残っている程度だ」と話す。

 「ただ、ローマ帝国の上流階級の人々は、極度な背骨の湾曲や小人症など、異常な身体的特徴の人間をエンターテイナーとして嗜好していた。巨人症患者が好奇の目にさらされていた可能性はある」。

 この人物がどのような運命を辿ったのかはわからないが、彼の骨から得られたデータは科学の発展に役立つかもしれない。

「医師が患者を看るときは、たいてい短い期間の視点に基づいている。しかし遺跡で発掘した数千年前の骨を調べれば、長い期間を経て病気の発生頻度がどう変わったのかも解明できるかもしれない。遺跡調査が未来の役に立つなら、素晴らしいことだ」とロバーツ氏は語った。

 研究の詳細は「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」誌で10月2日に発表されている。(Christine Dell'Amore for National Geographic News November 12, 2012)


 18世紀の伝説的な「アイルランドの巨人」
 北アイルランド・Dungannon在住のBrendan Holland氏は、6フィート9インチ(約206cm)という長身の持ち主。13歳のころに爆発的に背が伸び始め、下垂体の腫瘍(しゅよう)により成長ホルモンが過剰分泌される先端巨大症(下垂体性巨人症)であると判明し、20歳のときに治療を受け身長の伸びは止まったが、両親も兄弟も平均的な身長なので「なぜ自分だけこんなに背が高くなったのか」とずっと不思議に思っていたそうだ。

 最近になってBarts and The London School of Medicine and Dentistryの研究に協力したところ、Holland氏を含む現代の北アイルランドの4家族は、「アイルランドの巨人」と呼ばれた18世紀の有名な巨人症の人物チャールズ・バーンと遠縁であることが判明し、共通の遺伝子変異が特定された。(The Body Odd - Real-life Irish giants traced to 18th century street performer Charles Byrne (1761-83))

 1761年、アイルランド南部に生まれたチャールズ・バーンは、8フィート(約243cm:ただし骨格標本による死後の検証では231cmとされる)を超える長身を生かそうとイギリス本土へ渡り、スコットランドやイングランド北部でお祭りなどに「巨人」として出演したのち、1782年にロンドンへ到着し見世物小屋に入ると、爆発的な人気を博し一夜にして富と名声を手にしました。

 しかし、人気は長続きせずすぐに別の見世物に取って代わられ、投資の失敗により財産も失うと、1783年6月、過度の飲酒により22歳の若さで亡くなりました。遺言は残っていなかったものの、死後「解剖学者たちのおもちゃになる」ことを恐れていたというバーンは「鉛のひつぎに入れ海へ沈めて欲しい」と友人たちに依頼していたそうです。その願いどおりバーンの死後ひつぎは海へ投げ込まれたのですが、実はこのひつぎはからっぽで、わいろを受け取った葬儀屋によりバーンの遺体は外科医・解剖学者のジョン・ハンターに売られていました。

 「実験医学の父」や「近代外科学の開祖」と呼ばれ近代医学の発展に貢献したジョン・ハンターですが、解剖教室のための死体調達や動物標本の調達ルートの非合法性、兄で産婦人科医のウィリアム・ハンターが解剖のため多数の妊婦を殺害したとされる事件とのかかわりなど、暗黒面も持ち合わせる人物。ジョシュア・レノルズによるハンターの肖像画の背景には、チャールズ・バーンの骨格標本の脚部が描かれている。

 バーンの遺体を入手すると、発見をおそれたハンターは、即座に鍋に入る大きさに切り刻みボイルして骨格のみを残した標本とし、バーンの死後4年経過して初めて遺体を入手したことを認めたという。


 骨格標本のDNAから巨人症の原因遺伝子変異を特定
 現在この標本はイングランド王立外科医師会のHunterian博物館に展示されている。このチャールズ・バーンの骨格標本を1909年に調査したハーヴェイ・ウィリアムス・クッシング(クッシング病で知られるアメリカの脳神経外科医)は、下垂体直下の骨トルコ鞍が肥大していることから、バーンには下垂体腺腫があったと判断した。

 Barts and the London School of Medicine(ロンドン大学クイーンメアリー・カレッジのメディカルスクール)の代謝・内分泌学の教授Marta Korbonits博士らは、バーンの歯の標本から得たDNAを検査し、AIP遺伝子(芳香族炭化水素受容体と結合するタンパク質をコードする遺伝子)の生殖細胞変異を特定した。論文はNew England Journal of Medicine誌に掲載されている。

 現在の北アイルランドで先端巨大症またはProlactinoma(プロラクチン産生腺腫)が報告されている4家族でもこのAIP遺伝子の変異が共通していることがわかり、2つの家系の合流地点(直近の共通の祖先が存在した時点)を統計解析学的な手法で推定する「Coalescent theory(併合理論)」を用い、57世代~66世代前(1425~1650年前)に共通の祖先がいたと推定されている。

 チャールズ・バーンの骨格標本を見るMarta Korbonits教授と、研究に協力した4家族の1人、Brendan Holland氏。

 現在50代で身長6フィート9インチ(約206cm)のHolland氏は、13歳のころに急激に身長が伸び始め、「いつも疲れていて、ひどい頭痛に悩まされ、トンネル視(視野狭窄)を起こし始めた」と振り返っている。脳下垂体腺腫により成長ホルモンが過剰分泌されていると判明し、20歳のときに治療を受けると身長の伸びは止まったが、放置していればもっと伸びていただろうとのこと。その後、Holland氏の地元は科学者たちの間で「下垂体腺腫のホットスポット」として知られている地域であることを知った。

 両親も兄弟も平均的な身長なので不思議に思っていたというHolland氏だが、「アイルランドの巨人」と共通の祖先を持つ「巨人症の家系」であるとわかって何となくすっきりしたようだ。しかし、2人の息子を持つHolland氏にとって、今回の発見で過去の先祖のことがわかった以上に、未来の子孫の役に立てることの方が重要という。「わたしの子どもや孫たちは、この遺伝子変異を持っているかどうか検査することで、巨人症とわかった場合には身長が爆発的に伸び始める前に早い段階から治療することが可能になるのです」とHolland氏は述べている。

 今回の発見が脳下垂体腺腫のさらなる理解へつながることを願っているというMarta Korbonits教授は、「これらの人々は変人やフリークスではなく、病気を持った普通の人々なのです。わたしたちの多くが心臓病や糖尿病といった病気にかかるリスクを両親から遺伝的にひきつぐのと同様に、巨人症のリスクを遺伝的にひきついだ人々なのです」と語っている。(Gigazine 2011年02月21日)


 “巨人症”(先端巨大症)とは何か?
 先端巨大症(Acromegaly)は、脳の下垂体前葉の成長ホルモン分泌腺細胞がその機能を保ったまま腫瘍化し(=機能性腺腫)、成長ホルモンが過剰に産生され、手足や内臓、顔の一部分が肥大する病気。別名、末端肥大症もしくはアクロメガリー。「巨人症」と一般に称される状態はこの病気であることが多い。

 成長ホルモンの過剰分泌により以下の症状が現れる。唇が厚くなる。 額が突き出る。 下あごがせり出る。 四肢の異常な発達。 四肢以外の筋肉の収縮。 骨がもろくなる。

 名前の通り体の先端から肥大していく病気である。症自体には生命の危険は無いが、先端肥大症を放っておくと、死亡する確率が2倍以上になり、寿命が10年前後短くなると言われている。骨発育停止前に成長ホルモンの分泌が過剰に起こる場合には下垂体性肥大症と呼ばれ身長や四肢や指の異常成長が見られる。

 個人によっては身長が過剰に成長し、210cmを越えたあたりから健康に悪影響を及ぼす危険性が高くなる。世間一般では長身の人物は身体が強いと思われがちだが、巨人症患者は身長の過剰な成長によって膝や背骨を痛めやすく、重度の患者は両手で杖をついたりして歩行しなくてはならなくなる。また、内臓は体に比して大きくなるわけでもないため内臓の働きに問題を持つ患者も少なくない。

 四肢が異常に長くなるため、指を伸ばしたいピアニスト、バイオリニスト、足を伸ばしスタイルを良くしたいダンサー、バレリーナ、モデルなどが、成長ホルモンによるドーピングをすることにより発症することが多い。但し他の部分の筋肉が収縮するため、身長が伸びなかったり、身体のほかの部分の筋肉が衰えたり、骨がもろくなったりするので、これらの薬剤の使用者で社会復帰する人は非常に少ない。

 また、身長が非常に大きくなることが多いため、ギネスブックの「世界一背の高い人物」と認定されたり。力士やプロレスラー、バスケットボールの道を歩んで成功した患者もいる(こちらはドーピングによる発症ではない)。ジャイアント馬場、篠原信一、アンドレ・ザ・ジャイアント、出羽ヶ嶽文治郎、岡山恭崇らがその例であるとされる。これらの著名な患者の存在により、発症頻度の割には「巨人症」「先端巨大症」という病名は社会的に有名である。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:先端巨大症 Gigazine:18世紀伝説的な「アイルランドんの巨人」  National Geographic news:“巨人症”の古代ローマ人の骨を確認


下垂体腫瘍のすべて
クリエーター情報なし
医学書院
身長サプリメント(成長ホルモン)アルファGPC3個セット、プレゼント付
クリエーター情報なし
日本ファミリーケア

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ ←One Click please