「がんワクチン」ですい臓がんが治った?
 11月18日のNHKスペシャル「がんワクチン」には驚いた。治りにくいがんの1つ「すい臓がん」が、「がんワクチン」で完治したからだ。番組では、すい臓がんでもう治療法がないと言われたものの、肝臓に転移した腫瘍が消え、家族旅行を楽しめるまでに回復した30代の主婦が登場。多くのがん患者に希望を与えた。

 「がんワクチン」は日本の最先端技術だが、まだ臨床試験の段階。すべての人に効果があるというわけでもない。最終的な結果が出るのは来年以降になる見込みだ。現在のがんワクチンはどの程度効果があるものなのだろうか?また、がんワクチンとは何だろうか?

 そもそも、ワクチン(vaccine)はヒトなどの動物に接種して感染症の予防に用いる医薬品。毒性を無くしたか、あるいは弱めた病原体から作られ、弱い病原体を注入することで体内に抗体を作り、以後感染症にかかりにくくする。弱いとはいえ病原体を接種するため、まれに体調が崩れることがある。

 がんワクチンの中に入っているのは、がん表面にある「ペプチド」と言われるタンパク質の断片。これが、がん細胞の表面に角のように出ている。がんの「ペプチド」には、複数の種類があり、血液検査で患者にあったペプチドを選ぶ。これを増やしたものを、患者の体内に注入する。

 通常のがんは、非常に早いスピードで際限なく広がるため、免疫細胞である「キラーT細胞」の数が足らず攻撃しきれないが、「ペプチド」が大量に入った「がんワクチン」を投与すると、免疫細胞が活性化、「キラーT細胞」は自ら数を増やしパワーアップしてがん細胞を攻撃する…というしくみだ。


 驚き!がんワクチン治療最前線
 日本人の2人に1人がかかると言われる“がん”。これまでのおもな治療法は外科手術、抗がん剤、放射線の3つ。番組では、最近注目されている「がんワクチン治療」の最前線に迫った。患者自身の免疫力を高め、がん細胞を攻撃するもので、副作用が少なく、月に数回通院して注射を受けるだけという利便性がある。

 日本では臨床試験の段階だが、その効果に救われる人も出てきている。すい臓がんでもう治療法がないと言われたものの、肝臓に転移した腫瘍が消え、家族旅行を楽しめるまでに回復した30代の主婦。余命2か月と言われ抗がん剤治療を始めたものの副作用で投与を止めざるをえず、絶望のふちをさまよったが、症状が改善した40代の男性など、がんワクチン治療の体験者を紹介。その驚きの可能性から治療費など課題まで、がんワクチンの全貌をお伝えた。

 2月28日、東京大学医科学研究所が開発したがんペプチドワクチンの治験を進めるオンコセラピー・サイエンス株式会社が、すい臓がんに対して行われていた治験の解析結果を発表した。「患者さんの生存期間を延長することが統計学的に認められない。」というものだった。

 有効性が確認できなかったがんワクチンは《臨床研究・治験進捗状況表》の中で『すい臓A』と表記したもの。番組中VTRでご紹介した「すい臓がんの女性が受けたワクチン」は『すい臓B』で、4月から治験の第3相が本格的に始まり、最終的な結果が出るのは来年以降になる見込み。

 このふたつは、同じがんペプチドワクチンとはいえ、対象としている標的が異なる。有効性が確認できなかった『すい臓A』はがん細胞そのものではなく、がんに栄養を送り込む周囲の血管細胞をたたく。(いわばがん細胞を兵糧攻めにするもの)一方、あさイチのVTRでご紹介した『すい臓B』はがん細胞を直接たたくもので、多くの専門家がその効果に期待を寄せている。

 今回、ひとつのがんワクチンに有効性が確認できなかったという結果は大変残念だが、がんワクチンすべての有効性が否定された訳ではない。がんワクチンの開発にあたる研究施設、製薬会社も引き続き研究を続けていく予定だ。 


 「がんワクチン」の臨床研究に参加するには?
 「がんワクチン」についてインターネットなどで検索するとさまざまなサイトにつながり、誰でもすぐ受けられるように感じる。しかし、がんワクチンは日本ではまだ承認されておらず、その効果を確かめる臨床試験の段階である。がんワクチンを希望する方は、そのことを十分考慮する必要がある。

 また、臨床試験に参加するには、条件や費用も必要である。臨床研究、参加の条件としては、がんの種類、進行度、白血球の型・数、リンパ球の数、治療歴、期間・人数…などである。

 久留米大学病院「がんワクチン外来」2009年4月に「がんワクチン外来」を設けて以来、手術や抗がん剤、放射線などで効果がなく、もう治療法がないと言われた患者を中心に年間300人近くが受診している。

 外来といってもがんワクチンはまだ承認されていないため、ワクチン投与を希望する患者は臨床研究に参加するという形になり、ワクチン代の一部を負担することになる。また、主治医からの紹介状が必要で、抗がん剤や放射線など標準治療で効果がある方はその治療を優先し、がんワクチンは補助的に併用するよう勧めている。

 ここの特徴は、31種類のペプチドのうち、効果が高いと考えられるペプチドを最高4種類同時に投与することで、どのペプチドにするかは、血液検査で患者の状況を調べて決める。そのため『テーラーメイドペプチドワクチン』と呼ばれている。(問い合わせは上記 久留米大学病院「がんワクチン外来事務局」へ)

 ワクチン投与を希望する場合は大学の臨床研究に参加するという形になり、ワクチン代の一部を負担することになり、費用がかかる。1回投与ごとに10万円弱と高価なものになる。例としては、久留米大学では、1クール目 6回投与で約58万円(初回の血液検査代込み)。2クール目 6回投与で約50万円(金額は久留米大学がんワクチン外来ホームページより)

 なお、悪性脳腫瘍については現在厚生労働省の科学研究費で研究が進められているため、条件の合う方はワクチン代の負担はない。また、前立腺がん(ホルモン療法が効かなくなり、内臓機能低下で抗がん剤が使えない場合など)については高度医療に認められており、公的医療保険との併用が可能である。


 がんワクチンは再発の予防にも
 がんワクチンは、もう治療法がないと言われた末期のがんだけでなく、手術後の再発予防にも効果があると考えられ研究が進んでいる。それは「がん細胞」とそれを攻撃する「キラーT細胞」の数の問題。手術直後、がん細胞が少ない時にがんワクチンを打ち、あらかじめキラーT細胞にがんの目印『ペプチド』を覚えさせておけば、再発を防げるのではないかと考えている。

 がんワクチンの実用化 薬は、大学などによる「臨床研究」、製薬会社が患者に投与し効果や安全性を調べる「治験」、国が審査をして「承認」という道を経て実用化される。現在、日本国内で実用化に向けて動き出したがんワクチンを表にまとめた。もっとも進んでいるものは、治験の第3段階を終了しており、早ければ今年か来年には日本初のがんワクチンが実用化される見込みだ。


 臨床研究・治験進捗状況
・すい臓A、すい臓B・・・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 中村祐輔研究室にお問い合わせください。
・肺A・・・グラクソ・スミスクライン株式会社が開発
・肺B・・・メルクセローノ株式会社が開発
・悪性脳腫瘍、前立腺・・・久留米大学 がんワクチン外来にお問い合わせください。
・胆道、ぼうこう、食道A・・・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 中村祐輔研究室にお問い合わせください。
・食道B・・・株式会社イミュノフロンティアが開発
・骨髄異形性症候群・・・中外製薬株式会社、大日本住友製薬株式会社が共同で開発
・大腸、肝臓・・・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 中村祐輔研究室にお問い合わせください。

 VTRに登場した病院「すい臓がんの30代女性」のVTRで、ワクチンの臨床研究を行っていた病院※現在、すい臓がんの臨床研究は行っていません。千葉徳洲会病院 ホームページ:http://www.chibatoku.or.jp/ 電話:047-466-7111(代表)(問い合わせをする場合は「がんワクチン療法について」と伝えてください。)

  「小細胞肺がんの40代男性」のVTRで、ワクチンの臨床研究を行っていた病院、久留米大学病院 がんワクチン外来事務局 ホームページ:http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/F/ 電話:0942-31-7975

 「ぼうこうがんの70代女性」のVTRで、再発予防を目的としたワクチンの臨床研究を行っていた病院※現在、ぼうこうがん再発予防の臨床研究参加者の募集は行っていません。岩手医科大学付属病院 ホームページ:http://www.iwate-med.ac.jp/hospital/ 電話:019-651-5111(代表)

 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 中村祐輔研究室 ホームページ:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/nakamura/ (トップページに病院一覧が貼り付けてあります。)なお、がんペプチドワクチンに関する質問はcancerpv@ims.u-tokyo.ac.jpにメールでお問い合わせください。電話での問い合わせは受け付けていません。(NHK:あさイチ)


 「がんワクチン」とは何か?
 ワクチン(vaccine)はヒトなどの動物に接種して感染症の予防に用いる医薬品。毒性を無くしたか、あるいは弱めた病原体から作られ、弱い病原体を注入することで体内に抗体を作り、以後感染症にかかりにくくする。弱いとはいえ病原体を接種するため、まれに体調が崩れることがある。

 がんワクチンとは、がん細胞に多く発現し正常細胞には全く発現せず、がん特異性で、かつ強い免疫原性(抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質)をもつ、がんの予防や治療を行なうために用いる(ワクチン)製剤である。

 通常はワクチン製剤が樹状細胞によりヒト白血球型抗原 (HLA) を介しリンパ球(細胞傷害性T細胞、細胞傷害性リンパ球)に抗原を提示して活性化させ、そのリンパ球ががん細胞を攻撃することにより、治療を行なうワクチン製剤である。ワクチンの効果を高めるため、アジュバンド(免疫賦活剤)と呼ばれる補助薬剤を通常併用する。このアジュバンドによりワクチンの効果に大きな違いが生じる場合がある。がんワクチンは必ずしも腫瘍の縮小を目指さないことから、抗がん剤などとは違った薬効の評価がなされるべき、と主張する研究者もいる。

 なお、一般にワクチンとはウイルスや細菌などによる特定の感染症を予防する製剤であり、そのようなワクチンの中には子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐものもある(このワクチンは子宮頸がんを治療するワクチンではない。子宮頸がんワクチンを参照)。

 がん細胞において免疫細胞に攻撃される成分(癌抗原)は悪性黒色腫(メラノーマ)におけるMAGE、乳癌などにおけるHER2/neu、大腸癌におけるCEA、各種白血病や各種癌におけるWT1など多数報告されている。癌抗原は正常細胞ではまったく発現していないか、発現していても少量であり、癌細胞においては過剰に発現している。つまり、免疫細胞が特異的に癌抗原を認識して攻撃すれば、正常細胞を攻撃することなく(副作用なく)、抗癌作用を呈する。

 がん抗原タンパク質は癌細胞の細胞質内でペプチドに分解され、がん細胞の表面にクラスIMHC分子と共にがん抗原ペプチドとして発現される。このペプチドを特殊な免疫細胞が認識し、癌細胞を攻撃する。

 がん抗原ペプチドに対する特殊な免疫細胞とは、がん抗原ペプチド特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)というリンパ球である。CTLは、以前はキラーT細胞と呼ばれ、リンパ球の中でも特異的な抗原を認識して攻撃するという役割を持つ殺し屋リンパ球である。この殺し屋(CTL)が標的(癌抗原ペプチドを発現した癌細胞)を探し出して攻撃する。

 宿主の生体内においてがん細胞が存在すれば、そのがん細胞は細胞表面に自然と癌抗原ペプチドを発現しており、そのペプチドに対する特異的なCTLも自然に誘導されている。しかし、そのCTLの数と力(免疫力)が十分でないためにがんは増殖し、結果的に宿主に致命傷を与える。がん細胞が悪性化すると自体にもCTLの攻撃をかわす様々な機構(免疫逃避機構)が発現している場合が多い。そこで、癌抗原ペプチドを人為的に投与し、特異的なCTLを強力に誘導することでがんを治療するのが、がんワクチン療法である。つまり、がん抗原ペプチドをがんワクチンとして宿主に投与することで、がん抗原ペプチドに特異的なCTLを大量に誘導し、そのCTLががんを治療または予防するわけである。

 がんワクチン療法の効果を更に強力なものにするため、腫瘍抗原ペプチドを提示する樹状細胞などの抗原提示細胞を用いた工夫や、腫瘍に対する生体反応を増強する物質(biological response modifier: BRM)を併用した治療、遺伝子治療との併用など様々な角度からの研究が進められている。

 BRMとしては、古くからカワラタケ(クレスチン)、シイタケ(レンチナン)や、細菌成分としての溶連菌(ピシバニール(OK-432))、結核菌(BCG、〔議論はあるが〕丸山ワクチン)などがあるが、最近になって細菌DNAのCpG配列がBRMとしての作用を持つことが注目されている。

 がんワクチン療法を含めた腫瘍免疫療法は、がんに対する手術療法、抗癌剤化学療法、放射線療法に続くこれからの治療法として期待されている。
(Wikipedia)


参考HP NHK「あさイチ」:驚き!がんワクチン治療最前線 NHKスペシャル:がんワクチン夢の治療薬への格闘! Wikipedia:がんワクチン


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