大気中のCO2増加で“海洋酸性化
 日本の紀伊半島沖から南方の北西太平洋海域で、表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)が10年間当たり約0.02の低下割合で「海洋の酸性化」が進行していることが、気象庁の観測で分かった。本来が弱アルカリ性の海水が、大気中の二酸化炭素(CO2)の増加で酸性化しているもので、過去250年間のpH低下量と比べると約5倍のスピード。このまま進むと海洋が大気から吸収できる二酸化炭素の量が減り、地球温暖化が加速することも懸念されるという。

 気象庁は1967年から、海洋気象観測船による北西太平洋海域での定期観測を行っている。紀伊半島沖の東経137度線に沿った北緯10°、20°、30°での今年のpH観測値は8.07-8.12と弱アルカリ性を示したが、1984年からの傾向をみると10年間当たりでの低下割合は北緯10°が0.014±0.003、北緯20°が0.015±0.003、北緯30°が0.018±0.003となった。

 地球の全海洋平均のpH値については、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による第4 次評価報告書(2007年)が、産業革命以後の250年間で0.1 低下していることを指摘している。大気中の二酸化炭素が増えて海洋に溶け込むことにより、今世紀末までにさらに0.14 から0.35 低下すると予測している。 海洋の酸性化が進むと、海洋の生態系に大きな影響を与え、サンゴ礁の発達や形成が阻害されたり、プランクトンや貝類、甲殻類といった生物の殻や骨格の成分である炭酸カルシウムが溶け出して、小型化することなどが予想されるという。(サイエンスポータル 2012年11月21日)


Sea_butterfly

 CO2濃度、400ppm越え
 世界気象機関(WMO)は11月20日、昨年の世界の大気中の二酸化炭素(CO2)の平均濃度が、過去最高を記録したことを発表した。1982年からの統計では30年連続の記録更新となる。

 日本の気象庁がWMOの「温室効果ガス世界資料センター」( WDCGG)を運営し、世界中の温室効果ガス観測データを収集・解析している。

それによると2011年の大気中平均濃度は、二酸化炭素が390.9ppm(1 ppmは体積比で100万分の1)、メタンが1,813ppb(1ppbは体積比で10億分の1)、一酸化二窒素が324.2 ppb。先進国の工業化が本格化する前の1750 年と比べて、それぞれ140%、259%、120%に達したという。

 2012年5月17日に、気象庁は「 国内の大気中CO2濃度観測値初めて400ppm超した」として発表している。大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が、1987年に国内で観測を開始して以来初めて400ppmを超えたのは、岩手県大船渡市綾里で、観測値が月平均値で3月に401.2ppm、4月に402.2ppmと初めて400ppmを超えた。

 昨年の年平均値は394.3ppmだった。 残る、東京都小笠原村南鳥島、沖縄県八重山郡与那国島の2カ所の4月の月平均値も398.1ppm(南鳥島)、399.4ppm(与那国島)で、過去最高値となっている。

 大気中のCO2濃度増加は、地球温暖化の最も大きな要因とされており、化石燃料の消費、セメント生産、森林破壊などが原因と考えられている。18世紀後半に始まった産業革命以前は約280ppmだったのが、その後、増加する一方で、一昨年の世界の年平均値は389.0ppmだった。


 海の酸性化で「海の蝶」の殻が溶解、南極海調査
 一方、欧米の研究チームは、海水の酸性化によって南極海(Southern Ocean)周辺に生息する「海の蝶(sea butterfly) 」とも呼ばれる浮遊性巻貝の殻が溶解していると、11月25日発表した。

 英南極研究所(British Antarctic Survey)は、声明で「海洋の酸性化が海の生態系と食物網に著しい影響をもたらすとの予測を裏付ける発見だ」と指摘。化石燃料の燃焼による二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が原因で起きている海水の酸性化によって、生物に害が生じている貴重な証拠を示す研究だと説明している。

 小さな浮遊性巻貝は殻を失っても必ずしも死ぬわけではないが、鳥や魚など捕食者の餌食になりやすくなり、病気にもかかりやすくなる。また浮遊性巻貝を中核的存在とする食物網では他の生物に連鎖的に影響が出る恐れがある。

 世界の海は人間が排出するCO2の4分の1以上を吸収しており、これによって海が酸性化が進んでいる。研究者によると18世紀後半の産業革命以降、海の酸性度は30%上昇し、少なくとも過去5500万年間に達したことのないレベルに至っているという。

 今回調査した浮遊性巻貝は2008年2月に、南極海の一部であるスコシア海(Scotia Sea)で採取された。(AFPBB News 2012年11月26日)


 浮遊性巻貝とは?
 ミジンウキマイマイなど、豆粒より小さい浮遊性の巻貝の一種である。2つに分かれた翼足をヒレのように動かして粘液網を放ち、藻などのエサを捕食する。最近、この巻貝をはじめ235種以上の生物が北極と南極の両海域に分布していることが明らかになっている。生物学者にとって大ニュースといえる発見で、 国際調査プロジェクト「海洋生物のセンサス(Census of Marine Life)」によると、「地球の端と端だというのに、これほど多くの生物種が両極圏のどちらにも生息しているとは本当に驚きだ」という。

 同プロジェクトでは、過去から現在、未来に至るまでの世界の海洋生物を2010年までの10年がかりで調査し、評価している。両極に共通した種には、クジラ、海虫、甲殻類なども確認された。  これらの種の正確な起源や、比較的温かい海洋を間に挟んでどのように地球の両端に生息するようになったのかはわかっていない。 (National Geographic News February 16, 2009)  

 クリオネとして知られるハダカカメガイは、北極海、北大西洋、北西太平洋の寒流域に棲息する。 体長は約1 - 3cm。体はほぼ円筒形、前方にある左右に張った翼状の足(翼足)を羽ばたくようにして水中を泳ぐ。体は頭部と腹部に分かれており、半透明で体内が透けて見える。赤く見えるのは生殖腺や中腸腺である。遊泳力は強いものではなく、プランクトンとして生活している。

 肉食性で、餌は小動物、特に近縁な翼足類のミジンウキマイマイを餌にする。それを見つけると接近し、頭部からバッカルコーンBuccalCone(口円錐)と呼ばれる六本の触手を伸ばし、それで餌を抱え込むようにして、その養分をゆっくりと吸収する。

 クリオネも巻貝の仲間であるが、成長すると完全に貝殻を失う(裸殻翼足類共通の特徴である)。 体は透明な部分が多く、体の前半に局在する内臓のみが不透明である。胴体の前部に透明な1対の翼足 (pteropods) があり、翼足を動かして遊泳する。この姿から「流氷の天使」あるいは「氷の妖精」と呼ばれ、英語では sea angel とも呼ばれる。ただしsea angel はもっと広く、裸殻翼足類の総称的に使われることが多い。

 両極をかこむ寒流域に広く分布している。日本でも北海道沿岸の海でハダカカメガイ Clione limacina が一年中見られる。カナダ西海岸のクリオネは、体長が一回り大きく、食物の違いで内臓が緑色をしている。(Wikipedia)

サイエンスポータル:大気中のCO2増加で“海洋酸性化” Wikipedia:クリオネ National Geographic:南北両極にすむ生物-浮遊性巻貝


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