高速は空気抵抗が大きくなる
 乗り物は楽しい。新幹線やリニアモーターカー、ジェット機、ロケットなど速度が大きい乗り物は、子ども達だけでなく大人も魅了する。しかし、地球上において、速度が増すと問題になるのが空気抵抗である。

 空気抵抗は速度の2乗に比例する。速度が増えれば増えるほど問題は大きくなる。空気抵抗が大きいと、その分エネルギーをロスしてしまうし、速度も低下する。どうしたらよいだろうか?

 一つは形である。空気抵抗を減らす形というものがある。流線型という形は、魚の形を真似てつくられたそうだが、車、新幹線、ジェット機など、高速の乗り物のデザインに取り入られている。見た目にもかっこいい。

 もう一つは、まわりの空気の流れを制御しスムーズにすることである。こちらの方は空気の流れなので、見た目だけでは分からない。例えば、トンボは高速で飛行するが、トンボの羽の表面は意外にも凸凹している。最近、この凸凹が、空気の小さな渦をたくさん作り、外側の空気をスムーズに流していることが分かった。

 これは、古代エジプト人がピラミッドの建設に使う巨大な石の下に、コロと言われる丸い棒をかませて運んだことに似ている。丸い棒がくるくる回ることで、スムーズに巨石が移動できた。このコロが小さな渦にあたる。小さな渦がまわりの大きな空気の流れをスムーズにする理屈だ。


FinTire

 この原理は、新幹線のパンタグラフに付けられた凹凸に実用化されている。また、まだ実用化はされていないが、在来線の先頭車両につけるフィンにも使われようとしている。

 今回、タイヤの側面にフィンをつけることで、車の空気抵抗が低下することが分かった。見た目ではとても速くなるようには思えないが、タイヤのまわりの空気の流れを制御し、車全体では、空気抵抗を減らすという。タイヤメーカーの横浜ゴムが発表した。


 タイヤ側面へのフィン設置により走行時の空気抵抗を低減
 横浜ゴムは12月19日、走行時の車の空気抵抗を低減するタイヤ設計技術を開発したことを発表した。同成果の詳細は「第26回 数値流体力学シンポジウム」にて発表しされたほか、2013年2月5日から独ケルンで開催される「Tire Technology Expo 2013」でも発表される予定だ。

 走行中の車のタイヤハウス内は空気が乱雑に流れており、この空気の一部が車両側面に流れ出し、車の空気抵抗を悪化させる原因となっている。同社では、タイヤのころがり抵抗低減に次ぐ新しい環境対応技術としてこの問題に取り組んでおり、2010年に実走行を想定した条件下(タイヤハウス内に装着しかつ回転している状態)でタイヤ周辺の空気の流れをシミュレーションできる空力シミュレーション技術を確立し、その後、同シミュレーションの範囲を車両全体へ拡張させ、風洞試験との両面から研究を進めてきた。

 今回の研究では、同シミュレーション技術と風洞試験を活用して車の空気抵抗を低減するタイヤ設計技術を確立した結果、1つの具体的な設計案として装着時に内側となるタイヤ側面にフィン状突起を配置したタイヤ(フィンタイヤ)が考案された。

 同タイヤはフィンのないノーマルタイヤに比べ、タイヤ自身の空気抵抗は悪化するものの、車全体の空気抵抗が低減したという。メカニズムとしては、フィンがタイヤの回転方向に誘起する渦状の空気の流れによってタイヤハウス内の圧力が変化し車体に前向きの力が生じることで、車の空気抵抗を低減することが判明した。

 なお同社では今後、実車での評価に加え、タイヤ形状と空気の流れの関係の研究を進めることで、タイヤだけの性能追求ではなく"車全体の空気抵抗を低減するタイヤづくり"を推進し、自動車の燃費性能向上を実現していきたいとしている。(マイナビニュース 2012/12/19)


 在来線の空気抵抗を減らす
 新幹線の開業当時の速度は、210km/h。現在では在来線の最高速度は160km/hと高速化が進んでいる。新幹線は流線型のかっこいいデザインが取り入れられてきたが、在来線にはそれほど予算がかけられない。少ない予算でどれだけ空気抵抗を減らすかが課題になっている。

 これには、新しくつくる先頭車両については、角を角形から丸みをつけることで空気抵抗の改善ができる。では、既製の切妻形車両の空気抵抗はどうにもならないのだろうか?

 一応改造によって先頭車に丸みをつけることは出来るが、これでは高コスト。そこで、鉄道総研が先頭車に取り付けることによって空気抵抗を低減出来るフィンを開発し、研究を行っている。このフィンはトンネル突入時に圧力が増大する現象を抑制するほか2両編成で120km走行中の車両の走行抵抗を約20%低減可能があるという。

 ちなみにこのフィンは、キハ187系に取り付けられて試験が行われたようで、鉄道総研のホームページにフィンが取り付けられたキハ187系の写真がある。これが実用化されればキハ187系に始まる切妻形車両はトンネルや空気抵抗を気にして走らなくてもよくなり、スーパーいなばのようなトンネルに阻まれて通常走行が出来ないでいる列車が問題なく走れるようになる。

 一日も早い実用化を望みたいところだ。ちょっと考えるべきところは、フィンを付けると検測車両のような外観になるのでデザインを考える必要があるかもしれない。


 トンボの羽で、マイクロ・エコ風車
 日本文理大学の小幡章教授は、トンボが飛ぶメカニズムを解明するため、小さな物体の周りの遅い流れを見ることができる世界唯一の回流式可視化水槽を開発。可視化水槽を用いた実験を繰り返す中で、トンボのハネがどのような原理で揚力を発揮しているのかが分かった。

 トンボのハネの断面は、流線型をした航空機の翼と異なり、薄板を凸凹に折り曲げてつくったようなもの。トンボはこの凸凹を利用して、先端からハネの上面に小さな渦を次々につくり出し、後ろに向かって流していた。シャープペンの芯くらいの小さな渦の列を利用して空気の翼型を形づくり、その外側の空気を速やかに流していたことが分かった。

 さらにトンボの4枚ハネの他に、腹(通常の尻尾のこと)を加えることで、横風に対しても、大きく流れることなく、高度を落とさずに飛べることが判明した。我々の想像をはるかに超えた巧妙な仕組みが、そこにはあった。

 トンボのハネの研究をさらに進めると、低速では高性能ですが、高速になると低性能になることに気づいた。航空機用の翼型と全く逆の性質。高速化や高出力化を大きな目的として進歩してきた現代社会だが、自然界には逆の、高速では使えないけれども低速だけで高性能を発揮する技術があった。

 この、トンボの羽の構造と飛ぶ仕組みから学んだ知恵を得て、日本文理大学の小幡章教授は「マイクロ・エコ風車」を開発した。「マイクロ・エコ風車」は、台風でも耐えうる強度を持ちつつも、微風でも安定した発電が可能なもので、エネルギー問題を解決しうる風力発電として期待されている。


参考HP 生物史から自然の摂理を考える:トンボの羽から生まれた未来の風力発電 鉄道総研:在来線切り妻車両の空力特性向上策


基礎から学ぶ流体力学
クリエーター情報なし
オーム社
トコトンやさしい流体力学の本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)
クリエーター情報なし
日刊工業新聞社

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ ←One Click please