生物濃縮される重金属
 生物濃縮は、ある種の化学物質が生態系での食物連鎖を経て生物体内に濃縮されてゆく現象をいう。

 生物濃縮では農薬や重金属が、体内で蓄積されることで過去に問題が起きた。特に公害で問題になった重金属としては、水銀やカドミウムがあげられる。水銀は化学工場(例えばアセトアルデヒド製造工程)や金の採掘・精錬にともなって排出されることが多く、我が国では水俣病の原因となった。また、イタイイタイ病を引き起こしたカドミウムについては、主に鉱山・精錬所、ニッケル・カドミウム電池製造工場、ゴミ焼却場、廃棄物埋め立て地などから、環境中に排出された。

 重金属は地球上に広く分布している元素だ。重金属という分類は比重のみによる分類のため、非常に様々な金属が含まれる。生物に必須の金属や逆に毒性の強い金属、レアメタルなど産業上重要な価値を持つ金属、その内容は非常に多様である。鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、ウラン、プルトニウムなどが挙げられる。

 過去に問題になったのは、毒としての重金属であったが、もし金や銀などの貴金属やレアメタルを濃縮する生物がいたらどうだろうか?それは人類にとって、大変貴重なものになるに違いない。

 実は、社会性昆虫のコロニーが環境から選択的に金などの金属を蓄積することは、以前から知られていた。例えば貴金属を採掘できそうな場所を探すのに、アリやシロアリの巣を分析する方法が役立つと提案している研究者がいる。


 

 今回、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の昆虫学者アーロン・スチュワート(Aaron Stewart)氏らは、複数のシロアリの巣から巣材のサンプルを採取し、近辺の土壌を数種類の深さから採取したサンプルと比較した。分子の化学組成を測定する質量分析器にかけたところ、シロアリの巣は、金鉱脈に近いものほど金の含有量が多いことが明らかになった。


 シロアリの巣から金鉱探査?
 そこに金鉱が埋まっているか確かめたいなら、シロアリを連れてくればいい。最新研究によると、西オーストラリアでの調査の結果、シロアリは地下で巣材を集める際に、貴金属を“採掘”して蓄積することがわかったという。

 研究を手がけたオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の昆虫学者アーロン・スチュワート(Aaron Stewart)氏らは、複数のシロアリの巣から巣材のサンプルを採取し、近辺の土壌を数種類の深さから採取したサンプルと比較した。

 分子の化学組成を測定する質量分析器にかけたところ、シロアリの巣は、鉱脈に近いものほど金の含有量が多いことが明らかになったとスチュワート氏は電子メールで述べている。

 「社会性昆虫のコロニーが環境から選択的に金属を蓄積することは、以前から知られている」とアメリカ、ジョージア大学の昆虫学名誉教授であるロバート・マシューズ(Robert Matthews)氏は電子メールで述べる。例えば金などの「貴金属を採掘できそうな場所を探すのに、アリやシロアリの巣を分析する方法が役立つと提案している研究者もいる」。

 それこそまさしくスチュワート氏が考えていることだ。金鉱床は地表から数メートル下に隠れていることが多く、人間が見つけ出すのは困難だ。しかし、この埋もれた宝のありかを示す目印として、昆虫が役立つ可能性があるとスチュワート氏は述べている。「鉱山の試錐(試掘)はコストがかかる。シロアリを使って試錐すべき領域をある程度特定できれば、地下資源の探査企業にとってはかなりの経費節減になる」。


 シロアリの排泄物にも大きな価値?

 2011年に「PLOS ONE」誌に発表された関連研究において、スチュワート氏のチームは、シロアリが多くの生物と同様、金属を体内に蓄積しているかどうかを調べた。もし蓄積していれば、これも価値ある鉱床を発見する方法として役立つ可能性がある。

 哺乳類が骨を維持するために体内にカルシウムを蓄積するように、一部の昆虫は外骨格、特に顎を強化するために亜鉛とマグネシウムを蓄積している。亜鉛などの金属には、それらの身体部位を強化する働きがある。

 しかし一方で、昆虫は自分にとって不必要または有害な金属を体外に排出する能力を持つとスチュワート氏は述べる。例えば、昆虫は脱皮の際に、または小さな石ころの形で金属を排出する。ちょうど人間が腎臓結石を体外に排出するようなものだ。

 昆虫の排泄系を調査したスチュワート氏は「素晴らしい」発見をした。シロアリの排泄系を構成する一部器官に、さまざまな量の金属が含まれていたのだ。このことは、シロアリの体内に未知のプロセスが存在することを示唆している。シロアリの排泄物が生態系における金属再分布の「推進力」になっていることを意味するため、これは重要な発見だとスチュワート氏は述べている。

 今回の研究成果は、「Geochemistry: Exploration, Environment, Analysis」誌の最新号に発表された。(Christine Dell'Amore f National Geographic News December 13, 2012)


 バクテリアが貴重な金属を“採掘”
 最新の研究によると、ある種のバクテリアは、そのままでは役に立たない鉱石から、少量ではあるが貴重な金属を精製することができるという。鉱石を食べる微生物は、バクテリアの一種で、鉱石をエネルギー源にしている。こういった生物は代謝を通じて鉱石を分解する際、硫化した金属鉱石や精鋼を搾り出す。このプロセスは「バイオリーチング(生物冶金)」と呼ばれる。

 近年、このプロセスは貴重な鉱石を抽出する重要な方法として注目を集めている。溶融精錬といった従来の方法では費用が掛かりすぎるようになっているからだという。また、電子産業が世界中から盛んに銅を求めるようになっていることも、バイオリーチング発展の大きな要因となっている。

 山形県にある慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝氏は、「微生物の中には金属イオンに反応するものがあり、うまく利用すれば低品位鉱石から銅を精製することができる。最終的な目標は、低品位鉱石から銅を精製するバイオテクノロジーを確立することだ」と話す。現在バイオリーチングは、既に世界の銅生産の20%を占めていると見積もられており、世界のおよそ20の銅山で活用されている。

 数千年前の昔から、坑水や赤さび色の川でバイオリーチングが起きていることは知られており、その“結果”自体は目にしていた。しかし、その“原因”がバクテリアにあることが判明したのは1947年のことであった。

 1947年、アメリカ西部のユタ州にある鉱山で、バクテリアが、採鉱廃棄物の岩石を積んだ山から銅を含む青みを帯びた溶液を生み出していることが発見された。その発見以降、ウラン鉱山や火山、温泉地など世界中でバイオリーチングに利用できる微生物が数十種類見つかった。

 初期のバイオリーチングは仕組みも非常に単純で生産量もごくわずかであったが、分子技術の発展に伴い、現在では、金属を好む微生物の増殖や機能を最適化する方法の研究が進んでいる。


 バイオリーチングとは何か?
 バイオリーチングとは、微生物を利用して硫化鉱鉱石中の有用成分を溶出させて回収する精錬法である。他の精錬技術と比べてコストが非常に低く、現在では銅鉱石を対象としたバイオリーチングがチリやアメリカなどで大規模に行われており、バイオリーチングが関与する銅の生産量は世界の銅生産量の15 %にものぼる。

 今年初め、冨田氏が率いる研究チームはチリのベンチャー企業バイオシグマ社(BioSigma)の科学者と共同研究を開始した。バイオシグマ社は、世界最大の銅生産者であるチリの国営銅公社コデルコ社(CODELCO)と日本の非鉄金属メーカー日鉱金属が共同出資して設立した会社である。共同研究の目的は、バイオリーチングにかかわるバクテリアの遺伝子やタンパク質、代謝産物を特定して“小さな採掘者”の速度と効率を改善することである。

 研究チームではバクテリアの消化システムの分析が進められており、現在のところ、エネルギー源として鉄や硫黄のみに依存する3種類の微生物のゲノム配列解読が完了している。こういった一連の研究により、目的のバクテリアを特定して増殖することが可能になる。

 微生物を利用した最初の産業レベルの採掘工場は2009年末に操業を開始する予定である。コデルコ社では、今後10年以内にバイオリーチングで年間10万トン以上の銅生産を達成することを見込んでいる。

 バイオリーチングは鉱業に伴う環境への負荷を軽減することもできるといわれている。宮城県にある東北大学の環境学者井上千弘氏は「バイオリーチングや生体酸化を利用した精製プロセスは、従来の溶融精錬に代わるものだ。溶融精錬では、二酸化炭素や二酸化硫黄が大量に排出され、砒素などの有毒物質も数種類発生する。さらに、消費するエネルギー量も膨大なものとなる」と話す。バイオシグマ社のリカルド・バディージャ氏は「バイオリーチングにより、従来の技術と比較してガス排出は10分の1、エネルギー消費量は2分の1、使用水量は5分の1に削減される」と話す。

 また、バイオリーチングは費用を抑えることも可能で、典型的な操業規模の場合、従来の溶融精錬の半分しか費用が掛からないという。ただし、バディージャ氏は次の点も指摘している。「研究しなければならないことがまだたくさんある。バイオリーチングの精製プロセスの改良が進めば、徐々に従来の技術に置き換わっていくだろうが、それまでには15年以上掛かるかもしれない」。(Tim Hornyak in Tokyo for National Geographic NewsNovember 5, 2008)


参考HP National Geographic news:シロアリの巣から金鉱探査? Wikipedia:生物濃縮


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