驚くべき動物の帰巣本能
 アメリカでは、旅先で行方不明になり、約320キロの道のりを自力で旅して地元に帰った飼い猫「ホリー」が大きなニュースとなった。

 舞台はフロリダ州、パームビーチ。ここで暮らしていた飼い主の家族と、4歳の飼い猫の「ホリー」は、花火大会を見にフロリダ州北部にあるデイトナにでかけた。ところが、花火の大きな音に驚いた「ホリー」は、デイトナでいなくなってしまった。

 飼い主たちはしばらく探したが、とうとう見つからず泣く泣く、パームビーチに帰っていった。ところが60日後、やせ細って泣くこともできない状態で「ホリー」が発見されたのが、パームビーチの飼い主の家のすぐそばだった。

 変わり果てた姿であったが、「ホリー」にはマイクロチップが埋め込まれていた。家のそばまで帰ってきて保護されたあと、そのマイクロチップのおかげで持ち主と、無事、再会を果たしたという。

 デイトナからパームビーチへは320kmである。同じフロリダといっても日本とは違いアメリカは広い。東京から300kmの円を描くと、名古屋、新潟はらくらく入り、仙台にも到達する。これは動物の持つ本能だろうか?凄い能力だ。


 ドイツ、マックス・プランク研究所の動物学者で、帰巣性を専門とするマーティン・ウィケルスキー(Martin Wikelski)氏は、「動物の帰巣性には驚くばかりだ。遠くから元の場所に戻ってくるし、季節ごとの大移動で同じ場所をいつも行き来できるのだから」と語る。

 同氏によると、多くの動物には、コンパスのような磁気方位システムが内蔵されているという。ただし、動物の帰巣性については不明な点が多く、ホリーの驚異の旅についても科学的な説明は難しい。

 だが、「最近の研究により、臭覚が受け持つ重要な役割がわかってきた」とウィケルスキー氏は話す。「自分がどこにいるのか、家はどの方向にあるのか、動物たちは鼻を利かせるようだ」。


 困難な移動ミッションを成し遂げる動物たち
 ウィケルスキー氏はこの他に「困難な移動ミッションを成し遂げる動物ベスト5」として次の生物をあげている。

 1. ウナギ: 長細い体ながら、謎に満ちた壮大な旅を行い、大海を横断する。例えば、ヨーロッパウナギの成魚は、ヨーロッパの川からはるか遠くの北大西洋サルガッソ海まで大移動して産卵する。その後、幼魚のシラスウナギはヨーロッパの川に戻り、やがて産卵時期になると、親が移動した経路をたどってサルガッソ海のまったく同じ場所にやって来る。嗅覚が非常に優れているが、「どのように大移動を成し遂げるのか、一切わかっていない」。

 2. オオソリハシシギ: 海辺に生息する渡り鳥で、アラスカの繁殖地からニュージーランドまで一気に地球を半周する。2007年には、メスが休息なしにアラスカからニュージーランドまで1万1500キロを飛び、無着陸飛行の最長記録を打ち立てている。わずか9日の移動期間中に、衛星タグを通じて追跡された。

 3. ズグロアメリカムシクイ: スズメの仲間で北アメリカの森に生息するが、冬は超特急でベネズエラに避難する。まず森で十分に栄養を蓄えた後、貿易風をつかまえ、アメリカ北東部から南アメリカへわずか100時間で移動する。行程はすべて外洋上だ。「クレイジーとしか言いようがない」。帰りはもっとゆっくり景色を楽しむようで、陸地で休憩をとりながら栄養を補給して進んでいく。

4. メキシコオヒキコウモリ: テキサス州でよくみられるコウモリで、数百万匹単位で群れを作る。移動を追跡した研究によると、巣の洞窟から最大70キロ先まで飛び、エサとなるガやカを探すという。「いくら遠くでも、帰り道で迷子になることはない」。陸上の目印と仲間のにおいを利用して、巣の位置を見つけると考えられている。

5. サハラサバクアリ: エサを求めて、巣を中心に半径最大500メートルを移動する。アリの体にしては、かなりの大冒険だ。さまざまな方向に無秩序に移動するが、距離を歩数で把握し、太陽の偏光パターンを元に方向を認識できるので、最短距離で巣に帰る。「砂漠の生物にとって、帰り道を見つけられるかどうかは命にかかわる。あまり長く外にいると、太陽に焼かれて一巻の終わりだ」。(Christine Dell'Amore for National Geographic News January 29, 2013)


 犬の帰巣事例集
 飼い猫だけではない、飼い犬にも、にわかには信じられないくらいの長距離を移動して、元の場所に戻ってきたという犬の話がある。確かに奇跡と呼ぶにふさわしいような長旅ばかり。一体どのようにして家までたどり着いたのだろうか?とても不思議である。次にあげる事例は、ホームページ“子犬のへや”の記事「犬の帰巣本能」からの抜粋である。(犬の帰巣本能

 シベリアンハスキーのムーン: ネバダ州・エリーに住むドグ・ダシールさんは、3匹の犬をドライブに連れて行き、途中、レイルロード渓谷で犬たちに小休止をとらせました。ところが突如、シベリアンハスキーの「ムーン」が姿を消してしまいます。数時間捜索したものの見つからず、ドグさんはムーンとの再会をあきらめて帰路に着きました。

 ところが1週間後、ムーンは砂漠や川、そして山をも含む123キロもの距離を越えて、見事エリーの町に戻ってきました。飼い主と再会したときは、まるでスカンクのような悪臭を放っていたとのこと。

 コリーミックスのボビー: 1923年夏、レストランを経営するフランク・ブレイザーさんは、コリーの血が混じった生後6ヶ月の子犬「ボビー」を車に乗せて、休暇を楽しむためインディアナ州・ウォルコットを訪れていました。しかし、車が速度を落とした際、ボビーが外に飛び出してしまいます。ブレイザーさんは数日間付近を捜索し、地元の新聞に情報提供を求める広告を出したりもしましたが、結局ボビーを発見することはできず、自宅のあるオレゴン州シルバートンへと戻ります。

 一方そのころボビーもまた、自宅のあるオレゴン州へと続く道をたどっていました。自宅へ到達するには、イリノイ州とアイオワ州を越え、川を泳ぎ、氷に閉ざされたミズーリ州を横切り、ロッキー山脈を越えなければなりません。途中240キロほどの寄り道をしつつ、8つの州を越え、約6ヵ月かけて、ボビーは4800キロ離れたブレイザーさんのいるレストランへと自力でたどり着きました。

 オレゴン州の動物愛護協会会長は、ボビーを目撃したり、えさや寝る場所を実際に提供した人々のインタビューからボビーがたどった道程を再現し、6ヶ月に及ぶ彼の大移動を「紛れもなく本物である」と認定しました。また各州においてボビーを目撃した人々の証言をまとめた「Bobbie: A Great Collie of Oregon」という本も、1926年に発売されています。


 犬に帰巣本能はあるか?
 犬の帰巣本能はいまだ科学的に解明されておらず、あるともないともいえないのが現状のようです。

 犬の帰巣能力に関しては推測の域を出ませんが、代表的なものとしては以下のような説があります。 感覚地図説: 犬は視覚、聴覚、嗅覚などから得た情報から、自分を取り囲む地形に関する記憶を作り、一種の地図のようなものを頭の中に描くという説。地磁気説: 犬は地磁気を感知することができ、地磁気の微妙な特性に関連付けて地形の地図を描くという説。方向細胞説: 犬はある特定の方向を向くことで活性化する方向細胞という特殊な細胞を有しており、その細胞の活動を検知することによって現在地や進行方向を割り出すという説。

 このようにいくつかの説がありますが、いずれも万人を納得させるような科学的な証拠に欠けるため仮説の域を出ません。また、一つの手がかりだけではなく、複数の手がかり(五感からの情報、地磁気の変化、方向細胞の発火など)を元にしてナビゲーションしている可能性も十分にあるでしょう。いずれにしても毎年数十万頭の犬が迷子になっているという事実を考えると、全ての犬に都合よく帰巣本能があるわけではないようです。

 ちなみにドイツの博物学者・バスチアン・シュミット博士は1931年~32年にかけて、犬の方向感覚に関する実験を行っています(ルパート・シェルドレイク著「あなたの帰りがわかる犬」/P238-240)。実験は、3匹のシープドッグをワゴン車に乗せ、方々を迂回した後、犬たちが一度も来たことのない土地へ連れて行き、そこで放つというものです。

 まずマックスという犬で3回実験したところ、3回とも犬は元の位置に戻ることができました。シュミット博士は「犬は嗅覚や視覚を頼りにしているわけではない」としながらも、なぜ犬が元の位置に戻れたのかを解明できませんでした。次にノーラという犬を用いて同様の実験を2回行ったところ、多少迷いながらも、やはり元の位置に戻ることができたといいます。

 博士は定位感覚とでも呼ぶべき、謎めいた未知の感覚があると述懐しています。なお、別の犬を用いた実験では、迷子になったとのこと。 これらの実験から博士は、犬には未知の方向感覚があり、見知らぬ場所からでも自分の慣れ親しんだ場所へ戻ることができるが、個体差はあるようだという結論に至っています。(子犬の部屋)


参考HP National Geographic news:驚くべき動物の帰巣本能 子犬のへや: 犬の帰巣本能


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